軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49.プロローグの終わり 1

秋も半ばになると日中の気温も下がり、幾分か過ごしやすくなる。

最高気温はまだ25度近くあるものの、空気が乾燥しているため、非常に爽やかな暖かさといっていいだろう。

というわけで、その日の俺は、自宅の敷地内に立てたパラソルの下、チェアに体を預けながら、麗らかな午後の一時を満喫していた。

手に持ったコップには、キンと冷えたコーラが入っており、それをストローで啜る。

うん、異世界で飲むコーラはその味も格別だ。

「くくくくく」

コーラが入ったコップをサイドテーブルに置くと、俺の口から、悪役染みた笑いが漏れた。

だが、それも仕方がない。

なぜなら、俺は今『町データ』を見ているところだからだ。

【資金】4662億3778万7000円

サンドラ王国が攻めてくる前は3000億ほどだった俺の資金。

それが今ではなんと4600億円。

「ふふふ」

現代のものですら、大抵のものが買えてしまうこの資金力。

笑いが止まりませんなぁ。

このまま交易を繰り返せば、一兆円だってすぐに達成できるだろう。

そうなれば、【時代設定】を『現代』にするための残りの条件は、人口一万人のみ。

しかし、それが問題でもある。

現在の人口は2300人を超えたところ。

一年間での人口の増加率は200人にすら満たない。

獣人達の出生率があまりに低すぎるのだ。

前に、「あの、その……」としどろもどろになりながら、各族長に部族の性生活について尋ねたことがある。

話を聞くに、とりあえずどの部族もやることはやっているらしい。

だが自然の摂理故か、獣人達の生殖行為における着床率はかなり低いようだ。

なお、コボルト族とゴブリン族の出生率についてはそう低くくはないのだが、こちらは子を産んでも、新生児の生存率が高くなかった。

まあ、獣人達の繁殖力が確かなものならば、ここまで人間にいいようにはされていないだろう。

いや、繁殖力が低いからこそ、人間から脅威に思われず、ここまで生きてこられたとも考えられるが。

さて、人口一万人を達成するために、俺はどうするべきなんだろうか。

地道に、人口が一万人まで増えるのを待つ?

しかし、それでは【時代設定】を『現代』にするのに何十年かかるかわからない。

それに俺としては、『現代』の世界は元より、『未来』の世界も覗いてみたいと思っている。

元いた場所ですら、味わったことのない“世界”。

一体、どんな楽しみがあるのやら、想像するだけで胸の高鳴りを抑えられそうにない。

やはり、人口に関しては、こちらからアプローチしていくべきだろう。

そうだ。

次にサンドラ王国から攻められたら、いっそのことこっちから攻めこんで領地を奪ってやろうか。

そうすれば、町を増築し、人間を移民させ、人口一万人も簡単に達成できる。

いやしかし、人間と獣人の融和は想像以上に難しい気がする。

狼族の者でローマットと仲良くなった者はいたが、あれはあくまでも、個人としての付き合いだ。

人間に対する感情が和らいだとはいえない。

実に悩みどころである。

「どうしたものか……」と俺が考え込んでいると、不意に眠気が襲ってきた。

陽気に当てられて、というやつだ。

元の世界の忙しない日々とは違い、この世界では考える時間は幾らでもある。

町の人口については昼寝をした後にでも、ゆっくりと考えよう。

俺は、『町データ』を閉じると目を瞑った。

視界が瞼に隠れて真っ暗になる。

そういえば、サンドラ王国は今頃、ロブタス王国と戦争をしているところだろうか。

もしもサンドラ王国が負けたら、エルザ達はどうなるのかと、ふと、心配が胸をよぎった。

まあ、エルザは商人であるし、そういった機には聡いだろうから大丈夫だとは思うが。

ともかくも、両国の戦いの結果は気になるところであるが、こればかりはどうしようもない。

果報は寝て待てともいうし、交易が続く限りは、サンドラ王国も無事だろう。

ならば俺は今できることをするべきだ。

とりあえず今は、暖かい日差しに身を委ね、穏やかなシエスタを味わうだけである。

するとお腹にグリグリとした圧迫感を感じた。

目を開けてみると、カトリーヌがその鼻先を俺の体に押し付けている。

「どうした、カトリーヌ」

その大きな頭を撫でながら尋ねる。

カトリーヌはグエッと短く呻いた。おそらく散歩に行きたいのだろう。

俺とカトリーヌは以心伝心の仲、互いに考えていることはよくわかるのだ。

「やれやれ、仕方がないな」

どうやらシエスタはお預けのようだ。

俺はカトリーヌに乗って、町を見て回ることにした。

「ふじわらさまー!」

町を行くと、俺を見つけた子供達が集まってくる。

人気者は辛いな。

俺は、懐から金平糖を取り出すと、それを子供達に渡していった。

秋が過ぎて、冬がやってきた。

深夜から早朝にかけては、気温がマイナスにまで下がることもあり、中々に寒い。

そんなある日、交易にやってきたサンドラ王国の役人から、ロブタス王国との戦争が終わったことを聞かされた。

結果は、サンドラ王国の勝利。

死力を尽くして戦い、その損耗は激しくも、サンドラ王国はなんとか領地を守りきったそうな。

よかった、と思うべきだろう。

とりあえず、人間の国が双方削りあった上での現状維持。

これ以上ない結果である。

すると、サンドラ王国の役人からは交易品の量を増やしてほしいと言われた。

これまでも結構な量を輸出していたはずだが、他国に悟られないようにと、あれでも遠慮していたらしい。

だが現在、そうも言っていられないほどに財政が圧迫されているのだそうだ。

今回の戦争では、勝利したとはいえ、ただ領土を守ったのみ。

何も得られるものがなく、ただいたずらに兵と財産を失っただけだという。

取引量の拡大。

俺としては、悪くない話だ。

唯一の懸念があるとすれば、多くの国にこの町の存在を知られること。

これは避けたいところである。

ここは獣人の町と呼ばれた地。

獣人を蔑視する人間なればこそ、富がここに集まることを快く思う者はいないだろう。

俺は、出所を悟られないようにとよく念を押して、売買の増量を許可することにした。

それからそう時も経たないうちに、再びサンドラ王国の者がやってきた。

しかし、今度は隊を率いていない。

交易をしに来たのではなく、急ぎの使者ということだ。

俺が門前で迎えると、使者は言う。

「我が国の西側の諸侯らが裏切りました」

話はこうだ。

北西から南西にかけて、西側の一帯がサンドラ王国を裏切って、シューグリング公国の支配下に入ることを宣言。

戦争で弱りきったサンドラ王国にはどうすることもできず、教会に不義を訴えてはいるが、色好い返事は貰えないだろうとのこと。

何故ならば、シューグリング公国が今回手にした地は、戦いで奪ったわけではなく、そこに住む者が自らの意思でシューグリング公国に、帰属したからである。

「今回裏切った南西領のサラーボナー伯爵はこの地が、【砂糖】及び【香辛料】の原産地であることを知っています。

シューグリング公国は必ず接触してくるでしょう」

サンドラ王国の使者はそのように忠告して、去っていった。

――接触。

商売ということなら、別に構わない。こちらとしても望むところだ。

過去に、この町を攻めるための農民兵を供出したサラーボナー伯爵領ならば、その恐ろしさもよく知っているだろう。

不用意に攻めてくるとは思えない。

もしかすると、サンドラ王国の使者は、シューグリング公国と商売をしないでくれと言いたかったのかもしれない。

だが、それから一ヶ月が経っても、シューグリング公国の者が町に来ることはなかった。

そして、代わりに北から別の来訪者がやってきた。

それは、俺が待ちに待ったもの――新たな町の住人である。

まず最初に現れたのは魚族。

その名の通り、魚の顔をした者達だ。

シューグリング公国から来たそうで、その人数は多く、1000人をたやすく超えている。

というか、魚族とか地上で暮らしていいのだろうか。

呼吸とかどうなっているのか、気になるところだ。

続いて鳥族と蛇族が、シューグリング公国の地からやってきた。

また鳥族が? とも思うかもしれないが、鳥は鳥でも種類が違う。

今、町にいる鳥族が鷹のような風貌をしているのに対し、今度の鳥族は全身が黒く烏のようである。

蛇族に至っては、蛇なのに両手両足があり、どのように進化したかは謎である。

いやもしかしたら、蛇を名乗っているだけで、実際は蜥蜴が進化したものなのかもしれない。

とりあえず、町に入れることができる人数ではないので、三者には西の住宅群に住んでもらうことにした。

足りない家は、布と木材で簡易な天幕をつくり我慢してもらおう。

薪は幾らでも供給できるので、冬であろうとも凍えることはないはずだ。