軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46.講和 2(※地図あり)

エルザの下を去った後にまず向かったのは、ミレーユを閉じ込めている旅館である。

「やあ、お疲れ様です」

挨拶をしながら旅館の入口を潜ると、二人の狼族がやにわに立ち上がり挨拶を返す。

両者の間にはリバーシ盤が置いてあり、リバーシに興じていたことは明らかだ。

とはいえ、彼らは別にサボっているわけではない。

ミレーユの見張りは四人体制。

二人が見張りにつき、その間、残り二人については休憩することが許されている。

二人には「楽にしていてください」とだけ伝えて、俺は一人、二階へと上がった。

「これはフジワラ様、お疲れ様です」

ミレーユのいる部屋の前には、ミラと狼族の男が立っており、俺に言葉をもって礼をしたのは、もちろん男の方だ。

一方のミラは僅かに頭を下げただけで、視線をこちらに合わせようともしない。

相変わらずの態度であるが、見張りについてはよくやっているという報告を受けているので、良しとしよう。

「入りますよ」

一言断って、襖を開ける。

部屋の中では、ミレーユが目を閉じて正座していた。

俺はゴクリと喉を鳴らす。

話には聞いていたが、病的なまでに痩せ細っている。

彼女に対しては、旅館に来た頃に一度尋問をしているが、その頃とはまるで別人であった。

「フジワラ殿か」

ミレーユがまぶたを開けて言う。

その瞳に色はない。

がらんどうだ。

「やつれましたね。食事は合いませんでしたか?」

「いや、食事は美味しくいただいているよ。体についても大分マシになったほうだ」

それでマシになったのか。

そんな言葉を思わず口に出しそうになったが、なんとか呑み込んだ。

「話を聞きに来ました。サンドラ王国の北の国について教えてください」

楽しくお喋りをしに来たわけではない。

俺はすぐに本題へと入った。

するとミレーユは「いいだろう」とだけ言って、理由も聞かずにつらつらと話し出した。

「サンドラ王国の北には二つの国が隣接している。

北の領地の大部分を隣接するロブタス王国と、北西の海岸沿いの僅かな地を隣接するシューグリング公国だ」

ロブタス王国は、全体として湿潤な気候であるが、雨が少ない地では草原が広がり土は黒く農業が盛んである。

また国土の4分の1が森林で、鉱山も多数あり、林業・鉱業も発展していた。

だがその土地は恵まれているがゆえに、長く戦乱にさらされて国の名は何度も変わっており、漸く現在のロブタス王国となったのは、今より僅か40年前のこと。

これまでに過度な中央集権化を進めてきており、政情はいささか不安定。

しかし、王が絶対的な権力をもっているため、国政に無駄がなく、新興国ながらその国力は侮れないのだという。

サンドラ王国との関係はあまりよくはない。

北の地に関しては、サンドラ王国は認めていないものの、領土問題が存在している。

対するシューグリング公国。

突出したものもない、大陸においてはよくある平均的な農業国家だ。

長く続く国であり、政情も非常に安定している。

外交を好み、隣国でありながらもサンドラ王国との関係は良好だ。

そして両国共に軍事力としてはサンドラ王国の方が上。

だが、四竜騎士団が半壊し、権威が落ちた今となっては、各領主の動向次第で力関係は逆転するという話であった。

「なるほど」

色々と質問をしながらの話が漸く終わり、俺は一言呟いて頷いた。

この話が事実なら、サンドラ王国と講和はするべきだろう。

もし講和をしなければ、サンドラ王国は南にも注意を払わなければならなくなり、北から攻められた際には、存亡の危機となりえるかもしれない。

そもそも、こちらに北を攻める意志がない以上、講和するに当たって損はない。

それどころか、講和の条件に大金を吹っ掛けることができる上、捕虜の返還についても滞りなく行えるだろう。

俺は考えがまとまると、見張りの者と共に退室する。

襖が閉まる直前、ミレーユの姿が一瞬だけ目に入った。

彼女は既に目を閉じており、粛として座っている。

その姿が、なんだか妙に和室に合っているように思えた。

俺は見張りに「頑張ってください」とだけ伝えて、その場を辞した。

その日の夜、エルザと酒を飲んだ。

日本酒、ワイン、ビールなんでもござれだ。

食事についても、松阪牛を用意し、ステーキソースを添えてもてなした。

エルザは肉汁たっぷりの霜降りの牛肉のステーキを口にすると、これでもかと目を丸くし、「こりゃ、うまいで!」と一言、舌鼓を打った。

さて、俺とエルザの共通する話題というのはとても限られている。

エルザは、前にここに来たレイラとライルの姉弟について語った。

どちらもよく働いているらしい。

ゆくゆくは金で貴族位を買おうとしているのだそうだ。

俺はその話に、へぇと興味をもった。

「貴族の位を買える国があるんですか」

そう尋ねると、エルザは滑らかな口調で答える。

大陸の北西にある国――ドライアド王国。

これといった産業はなく、広い土地を持ってはいるが、痩せた土壌が多い。

特に竜の角と呼ばれる北の地は、寒冷地でもあるために食物が育たず、そういった人の住みにくい土地を貴族階級と共に売って、金儲けをしているのだそうだ。

おまけにそんな痩せた土地でも、税金は他の場所と変わらず、その税金が払えなければ土地も貴族階級も剥奪になるのだという。

ちょっとした詐欺みたいな話だ。

「そんでな、人がおらんやろ? だから南を目指さなかった獣人達は、だいたいそこにおるんよ」

新事実が発覚した。

ある時からピタリと止んだ獣人達の流入。

おかしいとは思っていたが、なんと目指した場所が違ったのだ。

これはチャンスかもしれない。

「その獣人達をこちらに呼び寄せることは可能でしょうか?」

「無理やな。途中にあるサンドラ王国が承知せんわ。講和の条件に挙げてもええけど、絶対に頷かんと思うで?

数は力。この町の人口が増えるんは、サンドラ王国にとって北の国に攻められるよりはるかに恐ろしいはずや」

「そうですか……」

【時代設定】を『現代』にするための条件。

それは【人口1万人】と【資金1兆円】。

資金はこのままいけば、問題ないだろう。

だが人口は、そう容易く増えるものではない。

生殖による自然増加を待っていたら、俺はあっという間にお爺ちゃんだ。

まあ、金さえあれば、【時代設定】が『江戸』であろうと、『現代』のものが買えるので、今まで【人口】についてあまり考えたことはなかったのだが……。

「ううむ……ん?」

どうするべきか、と物思いにふけっていると、エルザが寝息をたて始めた。

今日はもうお開きだろう。

それにしても、エルザは男を前に無防備過ぎる。

美人なのだから――と思ったら、突如大きなイビキをかきはじめるエルザ。

俺は笑いをこらえながら、エルザに上着をそっとかけて、部屋を出た。

――エルザが来訪して二日目の朝。

俺は装甲車に乗って、町から南におよそ40キロの位置にある、石垣に囲まれた牢獄へと向かった。

牢獄の中にいるのは騎士。

彼らは灼熱の太陽が照りつける中、やることもなく鬱屈とした日々を過ごしている。

俺は石垣の上にある櫓に上り、見張りに当たっていた鳥族の者から報告を聞いた。

いわく、朝食時に喧嘩があったようだが、それ以外は特に異常はないとのこと。

縦格子の窓より、騎士達の様子を覗く。

彼らは石垣がつくる日陰に横に並んで、何をするでもなく座っていた。

何人かが、地面に何かを書いている。

双眼鏡を覗けば、幾つもの升目の中に○と×が描かれていた。

二つの○が×を挟み、×が○になる。

間違いない、リバーシだ。

エルザが言っていた通り、リバーシは本当に流行っていたようである。

やがて、数人の騎士と一人ずつ面接した。

内容は北の国について。

最初は疑わしげにしていた騎士達だったが、肉を食わせてやると言ったら、誰も彼もペラペラと口を軽くした。

その内容はミレーユが話したものと大差ない。

これにより、俺はサンドラ王国と講和することを決めた。

後は自宅に戻り、講和の条件を考えるだけである。

――エルザが来訪して三日目の朝。

俺は、エルザに講和する意志があることを伝え、その条件を記した羊皮紙を渡した。

講和条件は以下の通りである。

・賠償金としてサンドラ王国は新バーバニル銀貨1億枚(約2800億円)相当の貨幣を支払う。

・サンドラ王国は捕虜832名全員を引き取らなければならない。なお、身代金はミレーユ姫を新バーバニル銀貨1000万枚(280億円)相当の貨幣とし、騎士は一人につき銀貨1000枚(280万円)相当の貨幣、他の者については無償の返還とする。

・南部領からここに至るまでの村々を引き上げさせる。

「フジワラさんも、吹っ掛けたなぁ。こんな金、サンドラ王国にはないで」

エルザが呆れ顔で言った。

その通り、舐められてはいけないと思って、かなり法外な額を吹っ掛けたと思う。

するとエルザは「ま、いいか」と講和の条件が書かれた羊皮紙を懐にしまった。

彼女の役目は講和を打診することであり、講和を結ぶことではない。

講和に至るまでの、その交渉は外交官が行うのだから、エルザの態度も納得というものだ。

「そんじゃあ、いくわ。元気でな、フジワラさん」

「ええ、エルザさんも」

こうしてエルザは馬車に乗って去っていった。

道中の暇潰しとして【知恵の輪】を幾つか渡したので、それで無口な騎士達との旅路をなんとか乗りきってほしいと思う。

【知恵の輪】【×5】5万円(定価500円)×5=25万円(定価2500円)