軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

素敵な連休を満喫しますわ②

――あと30日。

「――というわけで、人の弱みを握っておくのは大事です。金銭で情報を得る方法もありますが、それだとその場限りで仇を返されてしまう可能性もありますから。しっかり『自分を敵に回すのは悪手ですわよ』とアピールするのが、情報戦を制する秘訣ですわ」

楽しい楽しいお泊り勉強会。勿論、開催場所はアルバン男爵家だ。

朝に男爵にご挨拶させていただいてから、男爵は用事があるということで屋敷を空けている。なので――今日は学校では教えづらいことを教えるいい機会です! ばんばん女の処世術を仕込ませていただきましょう!

それなのに……今日は余計に顔色が悪いレミーエ嬢。具合が悪いなんて話は聞いていないのですが……いつもお借りしている書斎机の上に置かれた便箋たちを見つめて、ガタガタ震えております。

わたくしは指示棒を弄びながら机の横に回りますが……一体どうしたのでしょう?

「それらの脅迫状がどうしましたか?」

「な、なんでルルーシェ様がこれをお持ちなんですか⁉」

「だから、昨日集めたりお譲りいただいたとお話したばかりでしょう?」

それらは、昨日神様にも見せたレミーエ嬢に対する嫌がらせに添えられたお手紙たちだ。捨てられていたり、面白半分で誰かが回収していたり。なので破れているものもあるし、数も三通しかございません。

それでもインパクトのある教材になるかと、持参した次第ですわ。……インパクトがありすぎたようですけど。

「な……なんで、私、ちゃんと……」

「念のためにお伺いしますが、本当に今までの嫌がらせをわたくしがしていたとお思いで?」

純粋に疑問で小首を傾げてみれば、レミーエ嬢が顔をあげる。

「頭に本を五冊積まれたのは本当です」

「実は七冊だったんですけどね」

「お、鬼ぃ⁉︎」

「うふふ。あと毎日あなたが泣いてもお勉強しているのも本当ですわね」

まあ、そんな可愛い事実はおいておいても。

今日も碧眼に涙をいっぱい溜めているレミーエ嬢。そんな彼女がヒタとわたくしを見つめている。

「発言を許しましてよ」

話すときは目上の者から。今の場合はわたくしの方が爵位が上に当たるため……とまあ、そんな王城ルールに慣れてもらうためにもこうして練習を重ねた成果は少しずつ出ている模様。

わたくしの許可の後、レミーエ嬢は言う。

「サザンジール殿下は、絶対にルルーシェ様はそんなことしないと仰っております」

「え?」

……どうして、今サザンジール殿下のお名前が出てくるの?

今更、わたくしに対して牽制かしら? それとも勉強に疲れたから冗談でも言いたくなった?

そんな選択肢はすぐに消える。彼女との付き合いも六十日少々。長いと言える月日ではないけど、多少は彼女のこともわかってきたつもりだ。

彼女はこんな真剣な顔で、冗談を言える演技派ではない。

「入学して間もない頃……もう半年ぐらい前ですね。いじめられだしたんですけど。たまたま仲良くなった殿下が側にいてくれるようになって、しばらく落ち着いてたんです」

……普通『たまたま』上級生の第一王子殿下と仲良くなることはないのだけど。

だけど、そこを指摘してしまえば話が止まってしまう。ひとまず、最後まで聞いてあげましょう。

「でも長期休暇が終わる前日、うちにルルーシェ様からの手紙が届きました。殿下との距離を考えないとタダじゃおかないぞ、みたいな……その手紙を殿下に見られて――そしたらサザンジール様が怒鳴ったんです。『ルルーシェはそんなことをしないっ‼︎』て」

話してから、レミーエ嬢が「あっ」と口を塞ぐ。そうですね、また殿下のことをお名前だけでお呼びしましたね。

……でも、正直わたくしもそれどころではないから。「続けて」と先を促すと、レミーエ嬢が太ももの上で握り締めている両手が小さく震えていた。

「サザ……殿下は言いました。何かの誤解だから少し時間が欲しいと。そして直接ルルーシェ様にご挨拶させてもらうことにより、ルルーシェ様の無実を晴らすと。でもいじめは増えるばかりで……見兼ねてた殿下は、それからも側にいてくれるようになりました。さすがに、殿下と一緒にいる時は何もされませんから」

「嫌がらせを受け始めた時期は、入学して一月が経ったくらいかしら?」

「そうですね……五ヶ月くらい前です」

彼女は指折り数えてくださるけど……そんなことしなくてもわかるわ。だって『殿下が恋人を作った』と噂になりだした時期だもの。

そして長期休暇が明けて、本格的に『第一王子とエルクアージュ嬢との婚約破棄』が話に出始め――そして、わたくしは神様から予言を聞いた。百日後に絶対に死ぬ、その未来を。

「それから……放課後にルルーシェ様にしごかれ……いや、勉強を教えてくれるようになったので――」

「それからは被害もまた減ったと」

「あ、はい……学校でひとりでいることがほとんどありませんから。つい最近までは」

まぁ、朝もかなり早くから殿下とわたくしを待ち伏せしているようですし、お昼も殿下と一緒にいるそうで。そして放課後はほぼ毎日わたくしが予定を埋めておりますしね。他の方々と接する機会など、授業中くらいのものでしょう。

でもまた最近、またその僅かな時間に嫌がらせが始まったのね。

「最近の嫌がらせは大丈夫なの?」

「はい! ルルーシェ様のご指導に比べれば……あ」

もうっ。そんな失敗しちゃったと可愛らしい顔で見上げてこないでくれます? そんな愛らしさを残していると、すぐ悪いやつらに付け入られてしまいますわよ。

――本当に、手のかかる子ですこと。

わたくしは小さく笑って、レミーエ嬢に確認する。

「それなら、あなたもご自身でわかっているのでしょう? わたくしが犯人でないことくらい」

「もちろんです! ……でも、次第にこんな手紙まで置かれるようになって。逆に『ルルーシェ様じゃない』という証拠もなくて」

「まさに悪魔の証明ね」

手紙の筆跡は、勿論わたくしではない。

だけど元に癖がない以上、短い手紙。変えようと思えばいくらでも変えられるものでもある。

やってないことの証明は、やったことの証明よりも難しい。難儀なものね。本当に悪魔は神様よりも厄介だわ。

それなのに――、

「殿下は、初めから信じてくれたのね……」

わたくしの独り言のような言葉に、レミーエ嬢は頷いてくれて。

もし、彼女の言うことが本当ならば。

最期の時――などと言わず、早く殿下と話した方がいいのかもしれない。

だけど……。

思わず視線を下げてしまう。

今まで、あんなに拒絶してしまったのに。今更どんな顔で話せばいいの?

その不安を握りつぶすかのように、レミーエ嬢が強くわたくしの手を掴んでくる。

「どうかお願いしますっ! サザンジール殿下のお話を、聞いてあげてくれませんか⁉」

「……いいの? あなたは殿下と特別な仲になりたいのでしょう?」

我ながら、意地悪いと思う。

しかしわたくしがこのまま殿下と仲違いしていれば、自分が王太子妃の座に収まる可能性だってあるのよ?

その可能性を問えば、彼女は気まずそうに微笑んだ。

「そんな夢を見なかった、といえば嘘になります」

「……でしょう?」

「でも、ルルーシェ様には敵わないもん」

だってめっちゃ怖いし、と笑う顔が可愛いこと可愛いこと。

その誰もが可愛らしいと思う顔を、わたくしはツンと指で押してみせる。

「敵 いませんもの(・・・・・・) でしょう? はい、罰として発声練習を三十回!」

「えぇ~っ‼」

「語尾は伸ばさないっ!」

わたくしは指示棒で彼女の背中をパシンと叩いて、窓を見る。

小綺麗な庭の手前に映る自分の顔が少しだけ緩んでいる。……本当に、少しだけ。