軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

輝いて見えたのは、きっと 3

あっという間に、宿泊研修の日がやって来た。

毎日のように放課後、火魔法の特訓をしていたわたしは疲れが溜まっていたようで、目的地であるイザンタ大森林までの移動中ずっと眠ってしまっていた。

そしていつの間にか、隣に座っていたエルの肩に頭を預ける体勢になっていて。起きた後に慌てて謝れば「別に」「肩凝った、後で揉め」なんて言われてしまった。

「バーネット様ったら、ぐらぐら頭が揺れていたジゼルを見て、ご自分でもたれかかるようにしていたのに」

「えっ」

けれど後にリネから、こっそりとそんな話を聞いてしまった。相変わらず素直じゃない所も好きだ。

到着後は休憩として少しだけ自由時間が与えられ、わたしはエルと共に近くの小川へとやって来ていた。穏やかに流れていく澄んだ水に、そっと手を入れたり出してみたり。

冷たさがなんだかくすぐったくて、思わず笑みが溢れた。

「すごく自然って感じだね!」

「森なんだから当たり前だろ」

「エルはテントで泊まったことある?」

「バカ言うな。どんな場所からでも転移魔法で戻ってたし、そもそも外はそんなに好きじゃない」

「なるほど」

確かにそんな便利な魔法が使えれば、わざわざ屋外にテントを張って泊まる理由なんてないだろう。特にエルは潔癖らしいし、と納得したのだけれど。

「それなのに、よく宿泊研修に来てくれたね」

「まあな」

「ふふ、わたしが心配だからだったりして」

「ああ」

「なーんて…………なんて……?」

軽い冗談のつもりで言ってみたのに、エルは当たり前のようにそう答えるものだから、心臓が大きく跳ねた。

「え、えっと、」

「お前が心配だから来た」

さっきみたいに素直じゃないと思えば、最近はこうして不意に素直になったりもするのだ。わたしはその度に戸惑い、落ち着かなくなってしまう。なんだか、ずるいと思う。

照れてしまいながらも「ありがとう」と呟けば「ん」と返される。何気なく視線を彼に向ければ、エルもまだわたしを見つめていて。その優しい表情に、なぜか泣きたくなった。

「何かあったら、すぐ呼べよ」

「うん、分かった」

火魔法の練習の中で、空高く炎を出し合図をする救難信号の方法も習ったのだ。これがあれば、何かあってもすぐ助けを呼べるだろう。ちなみに今は猛特訓のお蔭で、大分火魔法もコントロールが出来るようになっていた。

あっという間に休憩時間も終わり、集合場所へと戻った。班ごとに分かれるよう言われ、エルはわたしの頭に軽くぽんと手を乗せた後、歩いて行く。その背中を見つめながら、彼のことが大好きだと実感したのだった。

◇◇◇

「あーもう! イヤ! 虫だらけじゃない!」

「本当ですね」

そしてわたしは今、なんだかんだ文句を言いながらも一緒に枝拾いをしてくれているシャノンさんと、ぽつりぽつりと会話をしながら森の中を歩いている。

彼女は言葉も態度もツンツンしているけれど、根は悪い人ではないことに気が付き始めていた。他の班員達は別の場所で水汲みなどの別作業をしていて、ずっと彼女と二人きりだけれど、そのせいか辛くも気まずくもない。

「シャノンさんは、治癒魔法が得意なんですよね?」

「フン、バカねお前。私は得意どころか世界一よ」

「そうなんですか? すごい……!」

「生きてさえいれば、全部元通りに出来ちゃうんだから」

そう言った彼女はフフンと鼻を鳴らし、自慢げに口角を上げた。その姿もとても可愛らしく見えてしまう。

……以前、エルが魔眼を使った際の体調不良を治せる魔法使いがいると、ユーインさんは言っていたけれど。きっとそれは、シャノンさんのことだったのだろう。あの状態のエルを治してあげられる彼女が、羨ましい。

「その代わり私は戦闘能力ゼロだから、その辺から何か出てきたらお前がなんとかしなさいよ!」

「はい、頑張ります」

このイザンタ大森林は、魔物が出ない唯一の森として有名だ。だからこそ毎年宿泊研修がこの場所で行われ、わたし達もこうして呑気に歩いていられる。

とは言え、魔物は出ないものの普通の動物はいるらしく、多少は気をつける必要がある。何かあればすぐにあちこちを見回っている先生方が駆けつけてくれるため、安心だ。

それからも二人でとりとめのない会話をしながら、のんびりと枝を拾い、歩いていたのだけれど。

「枝、あまり落ちていませんね」

「…………」

「シャノンさん?」

突然、彼女はぴたりと足を止めた。

「……おかしい」

「えっ?」

「ずっと、同じところを歩いてる」

そんな言葉に、わたしも足を止める。辺りを見回してみれば、枝を拾うために地面ばかりに気を取られていたけれど、確かにこの道は先程通ったような気がする。

けれどわたし達は間違いなく、ずっと真っ直ぐに歩き続けていたのだ。それなのに同じところをずっと歩いているなんて、あり得るはずがない。

「まずいことになったかもしれない」

そう言った彼女は、何かに怯えているようだった。整った横顔には、焦りの色が浮かんでいる。

「今すぐ救難信号を送って」

「えっ?」

「いいから早く。なるべく空高く」

その声に、わたしは慌てて手のひらを空にかざし、空高く火魔法で合図を送った。

けれどいつまで経っても、誰かが来る気配はない。心臓がゆっくりと、嫌な音を立て始める。

「……確定ね」

「シャノンさん……?」

「異空間の中に引きずり込まれたのよ、私達」

異空間、引きずり込まれた、という聞き慣れない言葉に戸惑うわたしに、彼女は続けた。

「魔物が、ランク分けされているのは知ってる?」

「は、はい。Eランクから、Sランクまでですよね」

「そう」

魔物はその強さによりランク分けがされていて、Eが一番弱く、Sが一番強いとされている。

確かSランクの魔物は、魔物図鑑にもほとんど情報が載っていなかった。もはや空想上の生き物だと言われているくらい、稀有な存在だからだ。それなのに。

「あいつは、Sランクよ」

シャノンさんはまっすぐ前を見つめ、そう言った。

いつも勝ち気な彼女の声はひどく震えていて、悪い冗談なんかじゃないことに気付かされてしまう。息が苦しくなるくらい、空気が重くなっていくのを感じていた。

ゆっくりと、彼女の視線を辿っていく。

やがて視界に飛び込んで来たのは、わたしが知りうる言葉では言い表せないほど、禍々しく恐ろしい何かだった。