軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

目を閉じて、耳を塞いで 2

控え室で衣装から制服に着替えたわたしは、教室へと向かった。既に教室に戻っていたクラスメイト達からは「お疲れ様」「とても良かったよ!」と次々に声を掛けられ、頑張って練習して良かったと、嬉しくなる。

皆にお礼を言った後、わたしはリネの元へと向かった。

「お疲れ様でした、本当に本当に素敵でしたよ!」

「ありがとう。リネが考えてくれた衣装も、素敵だったよ」

「ジゼルに着ていただけて、とても嬉しいです」

リネは涙ぐみながら、何度もお礼を言ってくれた。お礼を言うのは、間違いなくこちらの方だと言うのに。

「あれ、エルは?」

「……ええと」

ふと教室の中を見回しても、彼の姿はない。

彼を知らないかと尋ねると、リネは何故か戸惑ったような表情を浮かべ、やがて気まずそうに口を開いた。

「その、演劇が終わった後もジゼルとクライド様が抱き合っているのを見て、とても怒っていらっしゃる様子でした」

「えっ」

「それで、帰ると言ってそのまま……」

確かにカーテンが閉まった後も、クライド様とは抱き合った状態のままだった。とはいえ、時間にして三分くらいのはずだ。それでも、エルを怒らせるには十分だったらしい。

「けれど先程のジゼルの演技は、まるで本当にクライド様を愛しているように見えましたから。バーネット様がやきもちを妬いてしまう気持ちもわかります」

「やきもち……」

やっぱり、エルがこうして怒るのはやきもちらしい。リネが言うのだから、きっとそうに違いない。

ちらりと時計を見れば、表彰式まではまだ時間がある。わたしはそのまま、急いで彼の部屋へと向かったのだった。

◇◇◇

いつものようにユーインさんに頂いた指輪を使い、窓からこっそりとエルの部屋へと入る。そこには一人ソファに腰掛けている、彼の姿があった。

そのすぐ近くには、あのキスのきっかけとなったキャンディやその包み紙が散らばっていて。少しだけ鼓動が早くなってしまったことには気が付かないふりをして、声を掛けた。

「エル、まだ学祭は終わってないよ。一緒に戻ろう」

すぐ隣に座り、無造作に置かれていた彼の手を握る。そして「怒ってる?」と尋ねてみたけれど、返事はない。

握った手が振り払われることはないものの、エルはひどく不機嫌そうな表情を浮かべた後、わたしから顔を背けた。

「ねえ、エルってば」

「うるさい」

「エル」

「あいつがいるからいいだろ、さっさと戻れよ」

どうやら、かなり怒っている様子だった。あいつというのはきっと、クライド様のことだろう。こうなってしまえば、わたしが下手に出続けるしか仲直りする方法はない。

わたしがクライド様と仲良くしていたのが、そんなにも嫌だったらしい。エルはわたしが思っていたよりもずっとずっと、やきもち焼きなのだろう。そう思うと、彼の拗ねたような横顔もとても可愛く見えた。

「嫌な思いをさせちゃったなら、ごめんね」

「…………」

「どうしたら許してくれる?」

ぎゅっときつく手を握り、その横顔を見つめる。するとエルは目を細め、わたしを睨み見た。

「そんなに許して欲しいなら、機嫌でも取ってみろよ」

そんなことを言ってのけたエルは、うっかり「えっ」と驚いてしまうくらい偉そうだった。けれど彼が偉そうなのは、今に始まったことではない。

それにしても機嫌など、どうやって取ればいいんだろう。しばらく悩んだ末、とにかく素直になることにした。

「エル、本当にごめんね。大好きだよ。一番好き」

「…………」

「早く仲直りしたいな。寂しい」

「…………」

「わたしは、エルしか好きじゃないよ」

「…………あっそ」

するとエルは突然、わたしをぐいと引き寄せた。大好きなエルの匂いと、林檎のような甘い香りが鼻を掠める。

「これからは常にそういう態度でいろよ、バカ」

「いつもこうだよ」

「うるさい、あいつらの前でもだからな」

あいつらとは一体、誰のことだろうか。クライド様はわかるとして、他がさっぱりわからない。けれどとにかく、エルの機嫌が直ったようで良かった。

「あと、もう二度と劇になんて出るなよ」

「えっ」

「演技でも何でも、俺以外に好きとか二度と言うな」

つい「えっ」と呟くと、文句でもあんのかと怒られてしまった。演技でも駄目だなんて、やきもち焼きが過ぎる。

「ふふ、エルは本当にやきもち焼きだね」

「は? だったら何だよ」

「ううん、嬉しいなあと思って」

その上、彼は「やきもち焼き」という言葉を否定しなかった。本当に可愛いなあと、嬉しくなる。

「ふふ、エルもわたしのことが大好きだね」

だからこそ調子に乗ったわたしは、軽い冗談のつもりでそう言った。きっと、いつものように「バカ言うな」なんて返事が返ってくるものだと思っていたのだ。それなのに。

「……そうかもな」

そんな答えが返ってきたことでわたしは、エルの腕の中で固まってしまったのだった。