軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ちいさな世界をそっと開いて 3

「周りなんて気にせず、凛としていた君の姿が素敵だと思って、あの日声をかけたんです」

「そ、そうなんですか」

リネといいクライド様といい、過大評価にも程がある。

ガーデンパーティーの日だって、サマンサ達には多少嫌な目には遭わされたけれど、大して気にはならなくて。どのケーキから食べようか真剣に悩んでいただけだ。

それでも本当に、クライド様がわたしのことをあの頃から良く思ってくださっていたのなら、過去のことが余計に申し訳なくなってしまう。

「クライド様、あの時は本当にすみませんでした」

「いえ、君の優しいところも素敵だと思っていますから」

「どう考えても最低です」

「本当に気にしないでください。ああ、そうだ。その代わりと言ってはなんですが、ジゼルと呼んでも?」

「あっ、はい! もちろんです」

すぐにそう答えれば、クライド様は嬉しそうに微笑んだ。そんな彼が纏う雰囲気は、とても柔らかくて甘くて。

なんだかパンケーキみたいだなんて失礼なことを思いながら、わたしは寮まで送って頂いたのだった。

◇◇◇

「わたし、高貴なオーラが出てるんだって」

「新しい冗談か? つまんねえぞ」

「それにね、凛としてるとも言われちゃって」

「まとめて病院行け」

翌日の放課後。今日の授業の予習復習をしているわたしの部屋で、エルはごろりとベッドに寝っ転がりながら、図書館から借りてきたらしい魔法に関する本を読んでいた。

女子寮の中は基本的に男性は家族以外立ち入り禁止だけれど、エルは誰にもバレずに上手く入ってきているらしい。規則を破るのは良くないけれど、エルは家族でもあるから許してくださいと、わたしは日々心の中で謝り続けている。

そして驚くことに、エルはもう魔法に関して学ぶことなんてないと言いながらも、学園に来てからはよく読書をしていた。その上、読むスピードも驚くほど速い。

その貪欲さには、素直に尊敬してしまう。だからこそわたしも負けじと、日々机に向かっている。今日の復習をキリのいいところで終えた後、わたしはベッドへと向かい、エルが寝転がっているすぐ近くに腰を下ろした。

「ねえ、エル。しかもね、内緒なんだけど」

「…………」

「クライド様って、わたしがとても好みなんだって」

「はっ」

こそっとそう言えば、エルは「この国もそろそろ終わりだな」なんて言い、本を閉じた。失礼が過ぎる。

「あとね、告白してる人を見ちゃった。素敵だったな……人を好きになるってどういう感じなんだろうね。あ、もちろんエルのことは好きだよ。今のは恋愛的な話ね」

「俺が知る訳ないだろ。あと一々付け加えなくていい」

「ドキドキして、胸が苦しいって感じなのかな」

「そんなもんに何の意味があるんだか」

そう言ってのけたエルはやはり、恋愛事に興味はないらしい。勇気を出して彼に話しかけている可愛い女の子達にも、冷たい態度を取り続けているようだった。

それでも彼女達は喜んでいるような様子を見せていて、わたしにはさっぱりわからない世界だ。

「憧れるけど、わたしにはよくわからないや」

「へえ」

「いつか家を無事に出られたら、恋が出来るかな」

「知らん」

内容はさておき、珍しく彼が相槌を打ってくれるのが嬉しくて、わたしは尚も続けた。

「いつかエルが好きになる人って、どんな人なんだろう。やっぱりすっごく美人なのかな」

「は?」

「意外とエルみたいな人に限って、恋に落ちちゃった後はデレデレになったりとか」

「んなわけないだろ、バカ」

相変わらず偉そうな体勢で寝転がったまま、エルは海のような深く澄んだ瞳で、わたしを軽く睨んだ。

「そんなこと、一生あり得ねえよ」

「じゃあもしそうなったら、何でもお願い事聞いてね」

「はっ、いくらでも聞いてやる」

「しかと聞きましたからね!」

やがてエルはお得意の鼻で笑うと「なんか腹減ってきた、アレ食いにいくぞ」と言い出した。アレと言うのは、最近彼がハマっているカフェのフルーツタルトだ。

エルはユーインさんからわりと自由にできるお金を貰っているらしく、結構な勢いで食費に費やしている。それなのに彼はすらりとしたままだから、羨ましい。

わたしはいいよと返事をし、軽く上着を羽織ると、エルとは別々に外に出た。そして少し離れたところにある桜の木の下で待ち合わせるのも、当たり前になりつつある。既にエルの姿があって、わたしは駆け寄っていく。

ひらひらと舞い落ちる花びらの中にいるエルは、この世のものとは思えないくらいに綺麗で。そんな彼は、手を触れたら儚く消えてしまいそうにも見えた。

妙な不安に駆られ、わたしはエルの背中に後ろからぎゅっと抱きつく。すると「いきなりなんだよ、暑苦しい」なんて言われてしまったけれど、振り払われることはない。そんな彼のことが大好きだと、今日も心の底から思った。

「あ、好きな子が出来たら、一番にわたしに教えてね。誰にも言わないし、協力するから」

「勝手に言ってろ」