作品タイトル不明
学園祭〜ディート〜
「なぁ、カフェをやっているクラスに行かないか! 棟が別だから行くチャンスなんてそうそうないし、女子ばっかの花園みたいなところだろっ!」
クラスの奴らが騒いでいた。学園祭でやっているカフェなんてわざわざ行かなくても食堂で十分だろうに……
「令嬢が目の前でお茶を淹れてくれるんだってさ。菓子も手作りらしい」
菓子なんて男は食わなくても良いだろうに、甘いだけで喉が渇くし、茶くらい普通に淹れられて当然だろう。女は茶会くらいしか楽しみはないんだから……
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カフェとやらに行って戻ってきた奴らは声を揃えて言う。
「揃いの衣装がめちゃくちゃ可愛い! それにあの棟は俺らの棟とは大違いで良い香りがした! 令嬢が手ずからお茶を淹れてくれるなんて至福だ……婚約者が居れば是非淹れてもらいたい! 寧ろ婚約して欲しい! みんな可愛かった」
そんなに良いのか? ルビナはいつも黙って茶を淹れてたけどなんとも思わなかったな。出されて当然だと思っていた。
「……なぁ、普通令嬢って茶は淹れないのか?」
気になって聞いてみた。
「ん? 普通は使用人が淹れるだろ。中には自ら淹れる場合もあるけれど稀じゃないか? 自信がないと淹れないだろう。ローゼン子爵令嬢は人気で声を掛けられていた。デボラ男爵令嬢も可愛かったなぁ……」
ディート勿体無い事をしたな。とクラスの奴に言われた。
茶を淹れる事は普通じゃないのか? ごく自然に茶を淹れていたからそんなものだと思っていたが、よく考えると母や妹のそんな姿を見たことがない。
「……あぁ、そうか」
「出されたクッキーも彼女たちが食堂で作ったらしいぞ。あんな可愛い子達が作ったクッキーなら毎日食べたい。いいよな淑女コース……なんかこう、周りに光が差しているような気分になった」
幸せそうに語るクラスメイト。
「おまえ、甘いものは食べないだろう?」
いつもはがっつり食事を摂るタイプだ。甘いものを口にしている姿が想像つかない。
「いや。食うよ。お茶会に呼ばれる事もあるし嫌いじゃない。可愛い女の子と食べる菓子ほど美味いものはない。そこは相手に合わせる」
ルビナに菓子を出されても僕は口にしなかった。ルビナは文句なんか言わなかったけどな……それだけ僕のことを好きだという事か?
婚約解消をそろそろ取り消してやるかな。そう思い休憩タイムにルビナのクラスへ行こうとした時だった。
────ルビナが男と二人で歩いていた!!
しかもなんだか楽しそうに話している! あの浮気女め! 何を考えているんだ!
学園祭一日目が終わり、片付けの後は解散だ。帰ろうとした時にたまたまルビナが友人と別れて一人になった所を捕まえた。
「おい!」
「……え、ディート」
ルビナを久しぶりに正面から見た。しばらく見ないうちに幼さが少し抜けたようだ。
「ちょっと来い」
「え……ちょ、」
腕を取り校舎の影に連れてきた。
「あの男は誰だ?」
「……何のこと?」
ルビナが睨んでいるようだが全く怖くない。
「今日、一緒にいただろうが!」
「モリソン子息には関係のない事です」
……ルビナが僕に反論した? 生意気なっ! いつもは僕に従っていたのに。しかもモリソン子息?!
「女は従順な方が良い。そう習っているだろうに! 何のために淑女コースにいるんだ? そうか、そんなに構ってほしいのか……」
はぁっ、あれだ。構ってほしくて僕に見せつけていたのか?
「……何を言ってるの? 私もう行くから、離してください」
「しょうがない。婚約の解消は撤回してやるよ」
「…………え?」
怪訝な顔をするルビナにディートは気づかない。勘違いというか思い違いというか、解消を申し出たのはルビナだと言うことがすっかり抜けている。
「ちょっと離して! 誰か! むぐっ」
人を呼ばれては困るディートはルビナの口を手で押さえた。
「むぐっむぐっ、」
ジタバタとディートから離れようとするルビナだが力では敵わない。先程嫌と言うほど身に沁みたのだから。
そのことをジェイに話していたら、とりあえず相手の親指に力込めて逆に引っ張るように握ってみると良いよ。相手が痛がって身体が離れた隙に人のいるところまでダッシュ! と言われたことを思い出したので実践すると、ディートは驚いたように痛がった。よし! 逃げよう。
早く人のいるところに……と思い走っているとディートに追いつかれそうになる。
(ジェイ様の嘘つき逃げられないじゃないの! 今度会ったらもっと良い逃げ方がないか聞かなきゃ……)
「待てっ!」
追いつかれると思って目を瞑るルビナ。ディートの手が近づく。もうこれまでか……と観念しようとしたけれど手がこれ以上伸びることはなかった。
「ふぎゃっ」
カエルが潰れたような声がして後ろを振り向くとディートが盛大に転んでいた。
下校中の生徒が溢れかえっている時間帯で馬車乗り場の近くだった。
ディートは何かに躓いたようで周りを見ると騎士科のエリートで金髪の令息がディートの足を引っ掛けたようだった。
「早く帰った方が良いよ」
転んだディートを指差していた。
「ありがとうございます」
騎士科のエリートにお礼の言葉だけ言って馬車に乗り込むルビナ。
「くそっ」
ようやく立ち上がるディートは生徒に白い目で見られていた。逃げる女の子を必死の形相で追いかけている。暴言男の噂が落ち着いてきたところで次は付き纏い暴力男と噂されるようになった。