軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74.

窓の隙間から差し込む柔らかい朝の光と、遠くで鳴く小鳥のさえずりで、カイウスは静かに目を覚ました。

ふかふかのシーツからは、お日様の匂いと、微かな甘いラベンダーの香りが漂ってくる。

恐怖の予感のない、ただ純粋に暖かな朝を迎えるのは、彼の三年の短い人生の中で初めてのことであった。

「おはようございます。よく眠れましたか」

頭の上から降ってきた穏やかな声に、カイウスはぱちりと大きな瞬きをする。

見上げると、銀色の髪を朝日に透かしたミシェルが、彼の頭を優しく撫でていた。

滑らかな指先が金糸のような髪を梳く心地よさに、カイウスは恥ずかしそうに頬を赤く染めて身をすくめる。

こんなにも温かく、安らげる場所が世界にあるのだという事実に、小さな胸がいっぱいになっていた。

しかし、その静かで尊い朝の時間は、突如として乱入してきた巨大な影によって無惨に打ち砕かれた。

重厚な扉が乱暴に開かれ、ずしんずしんと床を揺らして皇帝ギデオンが足を踏み入れてきたのだ。

「ずるい、ずるいずるいずるいぞっ」

「朝からうるさいですよ。何の騒ぎですか」

ミシェルが呆れたようにため息をつくが、ギデオンは巨大な体を丸めてベッドの脇にしゃがみ込み、恨めしそうな視線を向けてくる。

その鋼のような筋肉の鎧には似つかわしくない、ひどく情けない表情であった。

「俺もミシェルのベッドで寝たかったのに。俺は冷たい自室で一人、枕を抱えて夜を明かしたというのに。お前たちは温め合っていたのか」

「幼児の体温低下を防ぐための、合理的な添い寝です」

「いいや、これは明確な浮気だぞっ。俺という未来の夫がいながら、許せんっ」

ついに本気でキレ始める皇帝を前にして、ミシェルは額に手を当て、深く、ひどく深いため息を吐き出した。

はぁあああ、という声が寝室に空しく響き渡る。

「朝から騒々しいと思ったら、いったいどうしたというの」

そこへ、騒ぎを聞きつけた大賢者ピクシーと、宮廷医のフローラが呆れた顔で顔を出した。

ギデオンは助けを求めるように振り返り、大真面目な顔で二人に訴えかける。

「聞いてくれ。ミシェルは他の男とは同じベッドで寝るくせに、俺と寝ることは断固として許してくれないのだ。これは皇帝に対する反逆ではないか」

「相手は、三歳児ですよ」

「どう見ても、保護と介護です」

フローラが半目でジトッと冷たい視線を向け、ピクシーがやれやれと肩をすくめる。

それでも引き下がらないギデオンに対し、ピクシーは意地悪な笑みを浮かべて杖で床をコツンと叩いた。

「てゆーか君。以前ミシェルを妃に迎えた時、『俺から夜伽を命じることはない。お前がその気になるまで待つ』と、男らしいことを言っていなかったかい。あれは嘘だったのかな」

「うっ。そ、それとコレとは別問題だっ」

痛いところを突かれたギデオンは、狼狽えて視線を泳がせた。

そして、行き場を失った嫉妬の矛先を、ベッドの中で毛布にくるまっているカイウスへと向ける。

「おい、ずるいぞカイウス。俺のミシェルを独り占めにするな」

ギデオンは頬をプクッと膨らませ、本気で三歳児に対抗意識を燃やして睨みつけた。

巨大な魔王のような風貌の男が、小さな子供相手にむきになって口を尖らせている。

そのあまりにも間抜けで、騒がしく、そして平和な大人たちのやり取りを見て。

「ふふっ」

カイウスの小さな唇から、自然と笑い声がこぼれ落ちていた。

それは彼が帝城に来てから、いや、生まれてから初めて見せた、年相応の無邪気な笑顔であった。

「むっ、なんだ。なにがおかしい」

ギデオンが不思議そうに首を傾げ、ピクシーとフローラが驚いたように目を丸くする。

ミシェルはカイウスの笑顔を見て、眼鏡のブリッジを中指で静かに押し上げた。

「まあ、皇帝がどこまでも馬鹿なおかげですね」

「なんだとっ。俺は至って真剣にだな」

「ですが」

ミシェルはギデオンの言葉を遮り、ベッドの傍らにしゃがみ込んでいる彼に向き直った。

そして、普段の氷のような態度からは想像もつかないほど、柔らかで優しい笑みを浮かべる。

「貴方のその馬鹿馬鹿しさのおかげで、この子は笑顔という出力方法を取り戻せました。ありがとうございます」

「なっ」

素直な感謝の言葉と、ミシェルの不意打ちの笑顔。

それを真正面から浴びたギデオンは、のけぞるようにしてカアァッと顔を真っ赤に染め上げた。

「そ、そうかっ。俺の深謀遠慮が功を奏したというわけだなっ。なら、まあいい。今回は許してやろう」

ギデオンは瞬時に機嫌を直し、えっへんと自慢げに胸を張って、見えない尻尾をパタパタと嬉しそうに振った。

「ちょろ」

ピクシーがボソッと呆れたように呟く。

騒がしくも温かい大人たちに囲まれ、カイウスはもう恐怖を感じることなく、満面の笑みで朝の光を浴びていた。