軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

52.

帝国立学園の豪奢な応接室には、きつい香水の匂いと怒りに任せた熱気が充満していた。

上等なシルクの服を着込んだ恰幅の良い貴族たちが、応接机を荒々しく叩きつける。

彼らは過酷な軍事訓練で泥まみれになっている生徒たちの親であった。

「高貴な我が息子に泥仕事をさせるとは。これは軍事訓練を名目とした虐めではないか。学園の長としてどう責任をとるつもりだ」

顔を真っ赤にして唾を飛ばす親たちに対し、大賢者ピクシーは丸眼鏡を押し上げて冷静に答える。

「虐めなどではないよ。あれは基礎体力と魔力の最大値を引き上げるための、理にかなった訓練だ」

「誤魔化すな。特権階級の貴族に農民の真似事をさせるなど、異常な教育だ。今すぐやめさせろ」

特権意識の塊である親たちは、ピクシーの論理的な説明にまったく聞く耳を持たない。

そこへ、カチャリと冷たい音を立てて重厚な扉が開いた。

「虐め、ですか。随分と甘い認識ですね」

カツン、カツンと規則正しい足音を響かせ、ミシェルが分厚い資料の束を片手に入室してくる。

彼女は氷のような視線を貴族たちに向け、一切の感情を排した声で告げた。

「勘違いしないでください。わたしは彼らに、搾取される側にならないための生き残るチケットを配っているのです」

「な、なんだと。小娘が適当なことを言うなっ」

激昂する親たちを前に、ミシェルは手元の資料を机の上に無造作に投げ出した。

冷たい紙が滑る音が響き、親たちの視線が自然とそこへ誘導される。

「ここにいる親御さんの息子たちは、大半が次男や三男ですね。家督を継ぐこともできず、温室で甘やかされた挙げ句、将来はどうするのです」

ミシェルは親たちの目を真っ直ぐに射抜き、社会の冷酷な現実を容赦なく突きつける。

「領地の隅で一生、無能な厄介者として飼い殺しにするおつもりですか。帝国のルールは、力と功績がすべてです。今のままでは、彼らはただの金食い虫に過ぎない」

「そ、それはっ」

「他国との戦争が起きれば、真っ先に使い捨ての駒にされるだけですよ。温室育ちのままでは、社会という泥沼で溺れ死ぬのが関の山です」

痛いところを正確に抉られ、親たちは顔面を蒼白にして言葉に詰まった。

ミシェルは淡々と、究極の二択を提示する。

「わたしは彼らに、自らの力で地位と財産を勝ち取る術を叩き込んでいます。彼らが将校として名を上げれば、貴方たちの家名もさらに盤石になるでしょう」

「もし、この国費を使った最高の特別教育が不服だと言うのなら。今すぐ息子さんを引き取って、一生その手で養いなさい」

将来有望な将校になるか、一生親のすねをかじる穀潰しになるか。

ぐうの音も出なくなった親たちは、ガックリと項垂れてその場に膝から崩れ落ちた。

「ど、どうか、愚息を厳しく鍛え上げてやってくださいっ」

「ええ。お任せを」

手のひらを返して平伏する親たちを見て、ピクシーは呆れたように丸眼鏡をずり下げる。

部屋の隅で控えていたティルも、長い耳をパタパタと揺らして震え上がっていた。

「ひぃぃっ、冷徹妃様は親に対しても鬼ですぅ」

クレームを一刀両断にして追い返したミシェルの背後から、ギデオンが腕を組んで歩み寄ってくる。

彼はこれ見よがしにドヤ顔を浮かべ、ミシェルの肩にすりすりと頬を寄せた。

「ふん。どうだ。俺の女は最高だろう」

「わたしは社会の事実を述べただけです。暑苦しいので離れてください」

ミシェルが氷のような声でばっさりと切り捨てる。

理不尽な親たちを完封した直後でも、巨大な皇帝への塩対応だけは決して変わることはなかった。