作品タイトル不明
30.
帝国立学園の入学試験当日。
大教室の四隅には、ミシェルが手配した監視用の魔導水晶が冷たい光を放っている。
さらに、 遠隔透視魔法(ファーサイト) などを弾く強力な結界と、微弱な魔力反応すら逃さない感知器が張り巡らされていた。
「ミシェル様っ。さすがにこれはやりすぎじゃ」
ティルが長い耳をパタパタと動かしながら、ものものしい警戒態勢に目を丸くする。
彼女たちがいるのは、特別監視室だ。
目の前には大量のモニターが並び、各教室へ声を届ける魔道具が設置されている。
「やりすぎ? むしろ、今までこれをやってこなかったのですか。だから駄目なのです。この学園はザルすぎます」
ミシェルは姿勢を正し、受験生と、魔導音声機で繋がった別室の保護者たちに向けてアナウンスを行う。
厳格な不正対策の実施を高らかに宣言した。
「微弱でも不自然な魔力反応、視線の泳ぎ、規定外の持ち込みは、即座にカンニングとみなし退場させます」
冷徹な声が響き渡ると、教室内と音声機から一斉に怒号が上がった。
事前に解答を買っていたはずの貴族の息子たちや、その保護者たちからの猛烈なクレームである。
「受験生を犯罪者扱いする気かっ」
「うちの息子は神経が細いんだ。そんな監視下で実力が出せるわけがないだろうっ」
ミシェルは氷のような視線でクレームを浴び流し、マイク越しにずばっと斬り捨てる。
「やましいことがない真っ当な生徒であれば、監視など気になりません」
「「「ぐっ……」」」
「不正対策に文句を言うということは、『私はカンニングをする予定でした』と自白しているのと同じですね」
ぐぬぬ、とクレーマー親子たちが一斉に押し黙る。
ミシェルはさらに容赦ない追撃をかけた。
「とはいえ、試験環境に不満があるというご意見は尊重しましょう。衛兵。今クレームを入れた生徒たちを全員ピックアップしなさい。彼らは『特別室』へ案内します」
おおっ、と一部から歓声が上がる。
ティルは後ろからこっそりと、ミシェルに囁いた。
「えっ。あの、ミシェル様。そんなカンニング予備軍を一箇所に集めて大丈夫ですかぁ?」
ミシェルは手元の資料に視線を落とし、淡々と答えた。
「問題ありません。カンニング前提の出来の悪い連中ですので、集めたところでどうせ赤点です」
「真っ当に努力してきた一般生徒の邪魔にならないよう、隔離するのが最適解です」
クレームを言った息子たちは顔面蒼白になり、次々と膝から崩れ落ちた。
彼らは衛兵に両脇を抱えられ、隔離部屋へと引きずられていく。
ガックリと項垂れる生徒たちの足音が、廊下の奥へと消えていった。
残された真面目な受験生たちは、ミシェルの公平で毅然とした態度に尊敬の眼差しを向けていた。
特別監視室の後方では、ギデオンが堂々と腕を組んでいる。
「フッ。俺の女の采配に狂いはない」
ただ立っているだけの皇帝が、誰よりも誇らしげにドヤ顔で頷いていた。
完全に浄化された静かな環境で、適正な入学試験がスタートするのだった。