軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27.

次々とあこぎな商売をしている店舗を摘発し、本日の監査業務は一段落した。

ミシェルたちは帝都の通りを歩きながら、一息つくためにオープンテラスのカフェへと立ち寄る。

「あら、ミシェル様。それに陛下も。お忍びで視察ですか?」

偶然そこで紅茶を飲んでいたのは、非番で買い物を楽しんでいた宮廷医のフローラだった。

彼女の誘いもあり、四人は同じテーブルを囲むことになった。

「……あの、その」

「何ですか、ティル」

ミシェルはギデオンをチラチラと見ている。なにかこの皇帝に言いたいことがあるようだが、言えないでいるようだ。

(おそらく陛下がアレなことを言いたいのでしょう……。ちょうどいい)

「私があなたの発言に責任を持ちます。遠慮無く言いなさい」

「あ、はい。その……帝国って、実力主義じゃなかったんですかぁ~?」

ティルは疲れ果てた顔で、堂々と紅茶を啜るギデオンを恨めしそうに見つめた。

「そうだが? それがどうした」

「実力主義ってわりに、穴がありまくりだし。トップはその、あの……」

「言って構いませんよ」

とミシェル。

「そうだぞ。言ってみろ」

とギデオン。

「トップも節穴ですし」

「ふっ……」

((そこは否定しないのか……))

ミシェルとティルが同時にそう思った。

ギデオンは自嘲気味に鼻を鳴らした。

彼はカップを置き、帝国の真実を語り始める。

「先代より前から、帝国は実力主義を謳っていた。だが、結局は王国などと同じだ。保守派の馬鹿や、世襲の連中が甘い汁を啜っているのが現状だ」

悔しそうに、ギデオンが歯がみする。

「実力主義という甘い言葉を餌にして、釣られてやってきた有能な平民を使い潰しているだけだ」

「なるほどぉ。実力主義って、ただの体裁と建前だったんですね」

「俺もそれは良くないと思っている。どうにかしたいとは常々考えていた……が」

ギデオンは少し渋い顔をして、言葉を区切った。

「俺には、【無能の 血(ブラッド・オブ・ノアカーター) 】が流れているからな」

「……えっとぉ。何ですかそれぇ?」

首を傾げるティルに対し、ミシェルが静かに解説を入れる。

「ノア・カーター。歴史書によって、世界最高の賢者とも、ただの愚者とも評価が分かれている人物です。はっきりしているのは、この帝国を作った初代皇帝だということですね」

「へええ。で、その誰だかわからない人の血がどうしたんですぅ?」

その問いに答えたのは、お姉さんぶった笑みを浮かべるフローラだった。

「それはね、ティルちゃん。皇族に代々仕える宮廷医の記録にだけ残っているお話なのよ」

「記録……ですか?」

「ええ。書物を見る限り、ノア・カーター様は『無能な王子』として書かれているわ。元いた国を追い出されるくらいにね。その血が、代々の皇族には色濃く流れているの」

フローラは悪びれもせず、国家の最高機密をあっさりと暴露した。

「なるほど、バカの一族なんですね」

とミシェルがはっきり言う。

「ふっ……お前くらいだ、俺をバカと呼んでもいいのは」

「なるほど……バカの一族ぅ」

とティルが繰り返し、そして得心いったようにうなずく。

「ティル、貴様を殺すぞ」

「ひぃっ!」

「やめなさいよ陛下、大人気ないわよ!」

理不尽に殺気を放つギデオンを、フローラが呆れたように宥める。

ギデオンは不機嫌そうに腕を組んだ。

「ともあれ、彼の中には初代の血が流れており、その恩恵で魔力量は人より遥かに多い。だが、その反動か……少し知性が足りていないの」

「まあ、俺は自覚がある分、歴代の中でもマシと言えばマシだな」

((少し……????))

ミシェルとティルの心境が、見事なまでにシンクロした瞬間だった。

ともあれ、ミシェルは現在の致命的な問題点を整理する。

「トップがそれゆえに、帝国はバカの温床となってしまっていますね。バカを潰していっても、結局次のバカが生まれるだけです」

「聡い者を、ティルのように外部から連れてくるにしても限度があります」

「と、なると?」

「こちらで教育していくしかありませんね。無論、人材確保も同時並行で進めないと」

ミシェルの冷徹な結論に、ギデオンは満足げに頷いた。

「ふっ……お前の好きにしろ」

「ありがとうございます」

「勘違いするなよ。俺はただ、お前がやりやすいように言ってやっているだけだ」

照れ隠しにそっぽを向く皇帝を放置し、ミシェルは帝国全土の教育改革という新たな業務計画を脳内で組み始めるのだった。