作品タイトル不明
100.
最後の魔物が地に倒れ伏し、森に静寂が戻る。
土煙と、ツンとした魔物の血の匂いが混ざり合って鼻を突いた。
グレースは大剣を地面に突き立てると、大きく息を吐き出した。
「ふう……。どうにか終わったね」
彼女が振り返ると、治療魔法を受けたマルコーの傷がすでに完全に塞がっているところであった。
「あんた、怪我はもう大丈夫かい」
「ええ、この通りです。お気遣い感謝します、レディ」
またしても向けられた甘い言葉に、グレースはカァッと顔を赤くして目を泳がせる。
グレースは巨体を縮こまらせ、自身の太い腕をモジモジと擦り合わせた。
普段の豪快な彼女からは想像もつかない、ひどく乙女チックな仕草である。
「だから、レディっていうのは、その、やめなよっ」
「おや。貴女は女性ではないのでしょうか」
マルコーが不思議そうに首を傾げると、グレースはさらに顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。
ズシンと地面が重く揺れ、周囲の木々の葉がパラパラと落ちてくる。
「ああもう、そうだけどさっ。名前で呼べって言ってんだよっ」
照れ隠しに声を荒らげるグレースに対し、マルコーは涼しい顔で優雅に微笑む。
「承知いたしました。では、グレース様、と」
「ひゃんっ」
自身の名前を甘い声で呼ばれ、グレースは変な声を出して両手で顔を覆った。
名前で呼ばれたら呼ばれたで、猛烈に照れてしまうのだ。
彼女はそのまま膝から崩れ落ち、大きな背中を丸めて悶絶する。
「やっぱりそれも照れるから、やめなよぉっ」
「ははっ。これはまた、ひどく困ったレディですね」
完全に恋する乙女の顔になってしまったグレースを見て、マルコーは愉快そうに肩を揺らした。
圧倒的な腕力を持つSランカーの巨女は、一人のスマートな帝国軍人の前で、ただ顔を赤くして身悶えすることしかできなかった。