軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十八話 解散

四つ巴が三つ巴になったところで、事態が混迷を極めていることに変わりはない。

リオはシラハと並んでミュゼはもちろん、コンラッツに対しても警戒心をあらわにする。

やむを得なかったとはいえ、白面とホーンドラファミリア、この町の最上位の裏組織に魔法斬りを見られた。

奴隷の首輪を無効化できることまでは知られていないだろうが、少し調べればたどり着くはずだ。

シラハに目配せして、ゆっくりと後退する。

コンラッツがリオをまっすぐに見て獰猛に笑った。

「魔法を斬ったな……。掘り出し物だ」

完全に興味を引いてしまっている。今度は逃がしてくれないだろうと、リオは苦い顔で剣の切っ先をコンラッツに向けた。

その時、突然ミュゼが笑いだした。

「ははっこれは人生、いや人類最良の日かもしれない! よもや救世種に繋がる手札が二つ同時に現れるとは!」

救世種、と聞いてコンラッツが眉をひそめ、ミュゼに剣を向けた。

「色めき立つな、下郎」

「こちらの台詞だ、汚泥」

地面に落ちていた鞘を脚で蹴り上げて掴み取ったミュゼが剣をコンラッツに向ける。

どちらも獲物を狙う目でリオを見ていたが、同時に剣を引いた。

「ここで争えばせっかくの掘り出し物も傷つけかねん。何より、少々派手にやりすぎた」

「こちらも手を引きましょう。状況が変わった以上、リオ君たちへの疑いが晴れるようにしなくては有象無象が暴走しかねない」

じりじりと両者が距離を取っていく。

白面を率いるミュゼに聞きたいこともあるが、せっかく解散の流れができている中で声をかけるのも躊躇われる。

リオは悩みながらも剣の切っ先を二人に向け続ける。

道の先、資材置き場の方向から松明の群れが近付いてくる。衛兵隊だろう。

ミュゼとコンラッツが松明の光を見て身をひるがえした。ちらりとリオに視線を向けた二人はそれぞれに笑みを浮かべていた。

ミュゼとコンラッツが姿を消した路地に衛兵隊が完全武装で乗り込んでくる。リオとシラハを見て脚を止めた衛兵隊の中から一歩出てきた中年の剣士がリオ達に誰何した。

「何者だ?」

「……冒険者ギルド所属の冒険者です。ナイトストーカーを討伐しました」

脱力するわけにもいかず、リオは周囲を警戒したまま中年の剣士に言い返す。

戦闘態勢を解かないリオとシラハに衛兵隊も警戒を解けないでいる。

リオはナイトストーカーの死体があった場所を見る。すでに黒い靄となって完全に霧散しており、討伐の証拠はシラハが持つ邪器となっただろう曲剣しかない。

中年の剣士がリオに声をかけた。

「討伐したとのことだが、なぜ戦闘態勢を解かない? 答えの如何によっては、武力制圧するしかないが?」

「こちらも状況に不明点がありすぎて長くなりますが、このまま話をさせてください」

ただでさえ混乱の渦中にある町中で、時間を取って欲しいというリオに中年の剣士は顔をしかめる。

制圧した方が早いと判断したのか、剣をリオに向けようとした中年の剣士の後ろから見覚えのある顔が進み出てきた。

「隊長、そいつは知り合いだ。スファンの町のミロト流道場に照会すれば身元も保証してくれる。カリルと同じ村の出身だとよ」

ミロト流剣士の冒険者だ。リオ達を見てウインクするその冒険者の言葉に、隊長と呼ばれた中年剣士は話を聞く気になったようだ。

「周囲を囲ませてもらう。そのうえで、話を聞こう」

間を取り持ってくれたミロト流剣士に心苦しく思いながらも、リオは魔玉や救世種のことを伏せて経緯を説明する。

この一件はすでにリオとシラハの手に余る気もしていたが、だからと言ってスパイがあちこちに潜んでいるこの町で本当のことは言えなかった。

ミュゼが白面の主導的地位にいることや、ナイトストーカーを無視してシラハの身柄を狙っていたこと、魔法斬りを見てからはコンラッツと共にリオの方にむしろ注目していたことなどを話す。

「……魔法斬りか。リヘーランの騒動に関連して噂になっていたが、まさか事実とはな」

衛兵隊長がリオを観察するようにじろじろと見る。

むっとした顔でシラハが曲剣を持ってリオの腕を取った。

なんだろうと思う間もなく、衛兵隊長が剣を構える。

「――消えた?」

衛兵たちの反応から察したリオは、シラハの手を振りほどく。

「早速悪用するんじゃない。すみません、邪剣ナイトストーカーの実演がしたかったみたいで」

リオが素直に頭を下げると、衛兵隊長はほっとしたような顔で剣を下ろした。

「勘弁してくれ。しかし、どうやら本当にナイトストーカーを倒したようだな」

衛兵隊長がシラハの持つ曲剣に注目する。

緩やかな反りの曲剣だ。特殊な製法か材料で作られているらしくほんのりと赤みを帯びた刃紋が浮き出ていた。

衛兵隊長がシラハを見てため息をつく。

「討伐したのが君たちである以上、所有権も君たち二人にある。というより、そんな物騒なモノをこの町の組織が持つわけにもいかない。ギルドに預けるのも手だったんだが、副支部長がスパイではなぁ……」

やれやれと頭を掻いて、衛兵隊長がシラハに忠告する。

「狙ってくる連中が必ず出る。守り切れる自信がないなら町を出てどこぞの貴族に売り払うといい」

「証拠物件じゃないんですか?」

「押収したら管理責任が発生するだろう。果たせない責任が発生するならそもそも手を出さない。これは内緒な」

衛兵隊長はあっさりと職務放棄を宣言し、衛兵たちも文句を言うどころか苦笑する始末。

魔玉の調査もろくに行われなかっただけあるな、とリオは呆れた。

衛兵隊長が衛兵たちを見回す。

「冒険者ギルドへ赴き、副支部長ミュゼに同行を求める。白面のスパイが紛れ込んでいるかもしれないから、同僚にも注意を払っておけ」

リオとシラハを囲んでいた衛兵たちが後ろに整列していく中、衛兵隊長はミロト流剣士を含む数人を抜擢してリオとシラハの護衛に任命した。

「この二人を衛兵宿舎へ案内するように。事情聴取は必ず三人で行い、密室は避けろ」

指示を出した衛兵隊長はリオとシラハに向き直り、衛兵宿舎の方角を指さした。

「二人とも、また襲撃を受けた場合は我々のことなど気にせず、その邪剣で姿を消してスファンの町まで逃げてしまって構わない。ミロト流道場であれば安全だろう」

「いいんですか? 現状だと俺たちも信用できないと思いますけど」

「ギルドにスパイを送り込んでいるのは何も裏組織だけではないんだよ」

肩をすくめて歩き出す衛兵隊長は面倒くさいとぼやきながら部下を率いてギルドへ向かっていく。

その背中を見送りながら、リオはようやく肩の力を抜いた。

「誰も彼も、人を出し抜こうとしてる。疲れる町だな」

「だから言ったろう。早めに町を出た方がいいって」

ミロト流剣士がそう言って笑った。