軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十七話 またかぁ

夜が明けると同時に冒険者ギルドは各所の掲示板や案内板にナイトストーカーの出没情報を掲載した。

同時にリオ達が目撃した白面による殺人事件も公表され、リオ達の外出が許可されたのは昼を過ぎた頃だった。

ギルドの食堂で肉の臭みを抜き切れていない不味いスープをすすっていたリオは飲みかけのスープを残して立ち上がる。

「宿に置きっぱなしの荷物が心配だから取って来よう」

声をかけるとシラハも立ち上がった。テーブルの上の食事はほとんど手をつけていない。

長引く厳戒態勢に加えて昨夜の緊急招集に応えた冒険者で食堂は混雑している。料理人が注文を捌くのに躍起になっているため、味が二の次になっているのだろう。

シラハの料理もリオのものと同様に酷い味だったらしい。

「一応聞くけど、良いのか?」

「いらない」

食べかけの食事を一瞥もせず、シラハは剣を掴んで食堂を出ていく。

リオはウェイターを呼んで片付けを任せ、シラハの後を追った。

ギルドを出て通りを見渡す。住人の避難が完了しており、衛兵や冒険者がナイトストーカーの捜索のために走り回っていた。

冒険者にしては人相の悪い集団が組織の縄張りを巡回している様子も見られる。衛兵や冒険者とぶつかることもなく、互いに視線を合わせても声をかけることなく無視し合っていた。

連携など取るつもりのない関係性が見えてくる。

「これじゃあ、余所者の俺達を見て剣を抜くのも分かるなぁ」

とにかく潜在的な敵が多すぎるのだろう。

なるべく大通りを歩くよう心掛けているが、人通りが少なすぎてあまり意味がない。大通りの利点である見通しの良さも無茶苦茶な曲がり方をするこの通りでは期待できない。

必然的に周囲を警戒しながら歩くが、そんなリオ達を裏組織の人間も警戒している。

大通りを歩くだけで一触即発の状況にうんざりしていると、シラハがわずかにリオから離れた。

戦闘時に邪魔にならない位置にずれたのだと気付いて、リオは警戒を強めながら視線でシラハに問いかける。

シラハは難しそうな顔でリオを横目で見た。

「何かにつけられてる」

「ナイトストーカー?」

「別の気配」

ナイトストーカーの気配は独特だった。リオはつけてくる何者かを感じ取れないが、感覚が優れているらしいシラハが言うのなら別の存在だろう。

リオも耳を澄ませてみるが、足音などは聞こえない。

裏組織がひしめく町だ。追跡技能に長けた人間がいくらでもいるだろう。山で獣を相手にした経験はあっても人間に追われるのは初めてのリオは自分の感覚を当てにできなかった。

「逃げるか」

「どこに?」

「宿だよ」

宿の周辺ではナイトストーカーによる白面殺しの現場検証が行われ、今も現場保存のために衛兵が数名配置されている。

衛兵がどれほどの腕か分からないが、戦力は多い方がいい。

シラハと小さく頷きあい、同時に身体強化を発動して走り出す。

グネグネと曲がる大通りを逸れることなく一直線に走り抜けるリオ達の速さに、裏組織の下っ端が二度見した。

待ち伏せを警戒して剣をいつでも抜けるように留め金を外しつつ、リオは肩越しに振り返る。

何事かと様子を見に出てきた下っ端はいるが、追跡者らしき人影はない。リオ達の動きに興味を引かれた野良犬が尻尾を振りながら途中まで追いかけてきていた。

正面に視線を戻したリオに、シラハが声をかけてくる。

「ついてきてる」

「距離は?」

「……縮んでる」

「俺達より速いのかよ」

元々山育ちで足腰が鍛えられているリオ達の疾走はロシズ子爵家の騎士でも舌を巻く速さだ。姿を見せることなく距離を詰めてくるとなれば、相当の手練れだろう。

そんな手練れが仕掛けてこないのも不思議な話だ。

「俺達が逃げ出した時点で、向こうも気付かれたと理解してるはずだ。それでも追いかけてくるってことは何か目的があるんだろうけど」

「話し合い?」

「いまは無理かな。姿も見せない奴と話すことはないし」

全力疾走をすれば振り切れる可能性もあるが、流石に周囲の組織を刺激し過ぎる恐れがある。

どのみち、目的の宿はすぐそこだ。

リオの考えを読み取ったのか、シラハが頷く。

「間に合う」

「ならよし」

奇襲には注意しつつ、リオとシラハは緩やかなカーブを曲がり、宿の前の光景に脚を止めた。

――止めざるを得なかった。

おびただしい量の血液が道を染めあげている。砕かれた白面が、切り離された腕や脚が、地面のいたるところに転がっていた。七つの死体がゴミのように打ち捨てられ、道の端には腰を抜かしてガタガタ震えている衛兵が二人。

そんな惨状の真ん中に一人の老人が立っている。周囲の景色を昏く染め上げるような独特な気配を纏い、朱塗りの鞘を左手に、鞘とは不釣り合いに短い片刃の直刀を右手に持ち、作り出した新鮮な死体を右足で蹴り転がして顔を確認していた。

リオ達が反射的に剣を抜こうとした瞬間、老人が肩越しに振り返って目が合う。

それだけで動けなくなった。

敵対の意思を明確にすれば問答無用で殺される。その予感がある。

老人がゆっくりと向き直り、シラハを睨む。

「……なんだ、貴様?」

老人がわずかに肩を引く。注視していなければ分からない微細な動き。心得がなければ分からない攻撃の予兆。

リオは即座にシラハの服を掴んで後ろに引っ張り、老人の間合いから離脱する。

老人が攻撃を中断し、リオを見る。

「……貴様も妙だな。身体強化をしておいてその程度だというのに、なぜ心得がある?」

不思議そうな顔をした老人は右手の剣をゆっくりと鞘に納める。

本来ならば戦闘する意思はないと取られる行動だ。

しかし、リオは老人の持つ剣の正体を見抜いていた。

「跳べ!」

シラハに注意を促しつつ、リオは跳躍し、民家の雨樋に足をかけた。

老人が目を細め、リオを睨む。

老人の反応には取り合わず、リオは民家の出窓の上に乗りあげて老人を見下ろした。

「神剣オボフスですよね?」

「有名なのも考えものだな」

言外に肯定する老人は鞘に納めたままの剣を肩に担いだ。

「逃げ切れると思うなよ?」