軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十一話 サンアンクマユ

ドブネズミが我が物顔で道を歩いている。人がいようがお構いなしで、道の真ん中でゴミを食らっていた。

割れたガラス瓶が転がる道の端で人の迷惑も顧みず焚火をして盛大に煙をばらまくみすぼらしい男がいる。

道端で腹を出して寝ている老人の横にゴミを満載した台車がある。悪臭を放つそのゴミにはハエがたかっていた。

家から出てきた女性がハエを気にした様子もなく生ごみを台車に放り投げる。バランスを崩してなだれ落ちたゴミに目もくれず、女性は家に戻っていった。

サンアンクマユでも比較的治安がいいとされている防壁の入り口付近ですらこの有様だ。

すでにげんなりしているリオとシラハは冒険者ギルドを目指して歩く。

他所から人が来ることなど想定されていないような複雑に交差する道が続く。緩やかにカーブする道を進もうとすると身勝手な住人が立てかけたらしい板でふさがれていたり、材木などの資材が山と積まれていたり、ゴミだめになっていたりした。

「道が機能してない……」

「案内板もないね」

シラハが周りを見ながら指摘した通り、複雑な造りの町だというのに案内板一つ見当たらない。正確には、それらしいものを見かけても大穴が開いていたり落書きでぐちゃぐちゃになっていて読めない。

いつもならすぐに見つかる冒険者ギルドの建物を探し回って一刻が経つ頃には、先に宿を探した方がいいかもしれないと思い始めていた。

「チュラスって人も探さないといけないのに、参ったなぁ」

コトン、と物音が聞こえて上に目を向ければ一匹の茶色い猫がリオ達を見下ろしていた。

どこかで捕まえたらしいネズミをくわえている茶猫はリオ達を異物でも見るような目で見つめている。

「縄張りだったかな? ごめんね」

通じるわけがないと分かりつつも謝って、リオはシラハの手を引いて路地を突っ切ることにした。

いくら探し回っても冒険者ギルドらしい建物が見当たらず、治安の悪さから通行人に道を尋ねることも躊躇われる。

「窓に鉄格子がはまってたり、庭を広めにとってあったりするのは襲撃を警戒してるのかな」

「商会に護衛もいる」

「本当だ。あの人になら道を聞けるかな?」

「仕事中だからダメだと思う」

「そっか。邪魔をしたら悪いね」

目が合った護衛らしき大男はリオとシラハを見て怪訝そうな顔をしている。大して強くもなさそうな少年少女がこの町に似合わない小奇麗な格好をしてうろついているのが不思議らしい。

商会が並ぶ大通りを抜けると今度は商店街に出た。意外と繁盛している様子だが品物の質はお察しだ。店主たちもこの治安の悪い町で店を構えるだけあって腕っぷしが強そうだった。

おそらく、店同士で連携を取っているのだろう。どこか一軒でも敵に回せば商店街全てが牙を剥く雰囲気があった。

余所者のリオとシラハを見る目も厳しい。まともな観光客が訪れる町ではないため強く警戒しているようだった。

とはいえ、お店はお店だ。買い物をすれば少しは世間話もできるだろうと、リオは適当な店の前で足を止めた。

「すみません。この革紐をください」

この際だから旅の備品を補充しておこうといくつかの品物を選ぶと店主は不愛想ながらもリオ達を客と認めたようだった。

リオが財布を取り出すと、店主は眉を寄せた。

「……財布は服のどこかと紐で繋いでおけ。ひったくられるぞ」

「え? あ、ご忠告ありがとうございます」

「……ほら、丈夫な紐だ。おまけしてやる」

カウンター裏から紐を取り出した店主に紐を投げ渡されて、リオは頭を下げる。

店主はシラハの方を見た。

「あのボケッとしてる娘にも注意を払っておけよ。攫われるぞ」

「気を付けます」

「おう」

「一つ聞きたいんですけど、冒険者ギルドってどこにありますか?」

「商店街を出て右の方へ行け。あまり大きな建物じゃないが、目立つ赤い屋根の建物だ。いまは冒険者共がピリピリしてるから、裏口から回るような真似はするなよ。下手すると殺されるぞ」

支部長が殺されているだけあって、冒険者ギルドも警戒を強めているのだろう。

礼を言って代金を支払い、リオとシラハは店を出た。

ひったくりを警戒してそっと財布を内ポケットに入れ、リオは商店街の出口を目指す。

雑な道案内だったが、方向と建物の特徴が分かったのだから宿を探しつつ見て回ればいい。

「治安が悪いし、少しお金がかかってもいい宿に泊まろうか」

「うん」

「普通、こういうのは女の子の方が気にしそうなんだけどなぁ」

興味を示さないシラハはきょろきょろとあたりを見回している。

商店街を出ると吹き抜ける風が足元の枯葉を巻き上げた。風下、右の方へと目を向けると細い道が続いている。

グネグネと曲がるその道は都市計画なんて概念も知らないような雑な道だ。こうして見ているだけで道の太さが途中で変わっているほどである。

道に入ってしばらく行くとさらに道が細まった。馬車が迷い込めば確実に立ち往生するだろう。

呆れながら緩く曲がっていく道に合わせて進んでいたリオは道の先に人の気配を感じて一気に警戒心を強める。

空気がおかしい。

リオは自然と利き腕から力を抜き、深く息を吸い込む。後ろから吹き抜けていく風が枯葉と共に砂を巻き上げてカーブの先へと流れていった。

砂を吸い込んだのか、咳き込む声が道の先から聞こえた。

人がいるのは間違いない。

道を曲がっていくと、民家の壁が作る死角の裏が見えた。

最初に見えたのは数人の人影だった。狭い道の真ん中で何かを相談し合うように集まっている。

次に見えたのは――足元に転がる血だらけの死体。

足音に気付いたのか、人影が一斉にこちらを向いた。

目の部分だけがくりぬかれた白塗りの仮面を一人の例外なくつけている。

「……殺せ」

抑揚のない声で白面の一人が呟いた直後、仮面の集団が血の付いた剣を振り被った。