軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話 最高の最期を

「――改めて思うけど、シラハはやっぱり頭がいいな」

シラハの作戦を聞いて、リオは感心する。

タイミングは難しいが、この盤面であれば作戦は成立する。

リオは身体強化を発動し、姿の見えないシラハに頷きかける。

「その作戦でいこう」

「分かった。リオに合わせる」

「速攻で決めるよ」

宣言した直後、リオは陽炎を纏い、鞘から抜いた神剣オボフスを右手で構え、左手で村から連れ添った愛用の剣の留め金を外した。

小さく、どこかで作戦を聞いていただろうチュラスに声をかける。

「……イオナに伝えて」

リオは前傾姿勢を取り、一気に走り出す。

リオが陽炎を発動したことは魔力で感知していたのだろう。カジハはラスモアの魔法を半身で躱し、リオを見た。

「なにをするかと思えばまたそれか。通じないと分からないかな。それとも、策があるのかい?」

カジハの質問への答えは、リオは全速力の突きだった。

走り込んだ勢いそのまま突進のような突きは陽炎に揺らいで切っ先が見えない。

カジハは面倒くさそうに地面に魔法を発動して、すぐさま感心するように口笛を吹いた。

魔法の核を斬った程度で加速がついたリオの突きは止まらない。

なにより、側面にシラハが回り込んでいるのを魔力で感知していた。

リオの突きに合わせて、シラハが邪剣ナイトストーカーをカジハの首裏へ振りぬく。寸分の誤差のない同時攻撃。

カジハは脊椎剣を背後に回してシラハの攻撃を防ぎ、リオの突きに手をかざして受け切る。手を深々と貫かれるが、致命傷でなければ再生できる。

逆に手に力を入れて深く突き刺さった神剣オボフスを奪い取りにかかる。

カジハの狙いを読んでいたリオは即座にオボフスの鞘をカジハの手首とオボフスの間に差し込み、カジハの手首を支点としたテコの原理でオボフスを振り上げる。オボフスは中指と薬指の間を斬り裂いて飛び出した。

リオは姿勢をかがめてオボフスを肩に担ぐようにしながら、鞘をカジハの両膝の間へと滑り込ませる。

シラハが脊椎剣を押し込みながらカジハの背中に回り込んだ。

カジハは膝の間のオボフスの鞘が邪魔で左右に動けず、背中からシラハが渾身の力で圧力をかけているために下がることもできない。

だが、この程度の小細工でカジハの動きを封じ込められるとは、リオ達も思っていない。

カジハが面倒くさそうな顔で――身体強化を限界発動した。

「くっ――」

抑えきれないと判断し、リオとシラハはすぐにカジハから飛び退く。

限界発動の制御が甘いのか、カジハの腕や脚がおかしな方向に曲がっている。それを一瞥しただけで元の状態に戻したカジハは、限界発動をやめて肩をすくめた。

「魔力を使いすぎる。君、本当に才能がないんだな。こんなことをずっと続けられるだなんて」

「余計なお世話だ」

言葉と同時にリオはオボフスを振り下ろす。魔流を用いた高速の一撃。

カジハは体捌きだけで背後からのシラハの斬撃を逃れ、リオの間合いからも外れる。

瞬時に、リオとシラハは手首を返し、上下二段の横薙ぎでカジハに迫った。

二人の剣を、脊椎剣が下からかち上げる。

一つと錯覚するような同時の踏み込みで、リオとシラハは左右に分かれ、カジハに両側面から襲い掛かる。

速く鋭く、攻撃は最大の防御といわんばかりの連撃はカジハに反撃を許さない。

リオとシラハが本気で殺しにかかっていると分かっているからこそ、カジハは楽しそうに笑っていた。

「君たちの邪魔にならないように、隻腕君たちが遠巻きにしているようだがいいのかい? みんなで仲良く邪神討伐じゃなかったのかな?」

無駄口を叩く口へと、シラハがナイトストーカーを突き出す。

カリル達が陽炎の外にいるのは事実だ。陽炎の中では視界が利かず、リオとシラハほどの連携が取れなければ同士討ちの危険がある。

だが、カリル達が陽炎の外にいることで、カジハは手札を一つ封じられている。

陽炎の外まで体を変形させて脱出するというカジハの手札だ。

魔法斬りを使えるカリルや固有魔法で瞬時に斬り刻めるガルドラット、カリルの位置を偽装し続けている神剣ヌラを持つラスモアの三人の存在は確実にカジハへの圧力になっていた。

リオとシラハの絶え間ない連撃を浴びながら、カジハは観察するような視線をリオに向けた。

盤面は整いつつあるが、決定打はない。カジハも見透かしているだろう。

カジハがシラハが振るうナイトストーカーを正確に脊椎剣で弾き飛ばし、リオに手を伸ばす。

リオは手をかいくぐろうとして、カジハの手のひらと――目が合った。

カジハの手の平から目が消え、地面から魔法の核が膨張する気配を捉えたリオはオボフスで核を斬り裂きながら後ろに跳ぶ。

一瞬だけ隆起した地面が戻るのに引っ張られて、大気が頭上から押し寄せた。

吹き散らされる陽炎を見回したカジハがリオを睨む。

「同じじゃないか。万策尽きたか? たまにいるんだ。諦めの悪さを美徳と感じている愚物が。同じことを繰り返せば次に進めると安易に考える間抜けが」

呆れたように首を振るが、言葉とは裏腹にカジハに油断はない。

「まぁ、君は無策でも突っ込んでくる頑固な人間だろうが、あちらの少女はそうでもないだろう。しかし、策が見えないなぁ。逆手に取ってみたいんだけど」

「シラハ、次で仕留めるよ」

「ん、分かった」

「カリル達は陽炎の外でカジハの核を逃がさないように構えてて。チュラス! カリル達に位置を助言して!」

リオはカジハの言葉を無視して周囲に短い指示を出す。

策があることはバレている。そんなことは織り込み済みだ。

リオは再び陽炎を纏い、カジハを仕留めるために一歩を踏み出した。

同時に、リオは魔力を乗せた声を張り上げる。

「――イオナ、やれ!」

一本の矢がカジハの死角から射込まれる。

頭部に向かったその矢を魔力で感知していたカジハは不可解そうな顔で見た。

視線を奪うその矢はリオが走りながら掲げたオボフスの鞘に突き刺さる。

当然、カジハの視線は鞘に釘付けとなった。

陽炎がリオの身体から鞘まで達し、カジハの視線が自由になる。

ほぼ同時に、陽炎がカジハに到達した。

カジハは後ろに下がりながら笑みを浮かべる。

「何か面白いことでもするのかな?」

脊椎剣を真横に突き出してシラハを牽制したカジハを間合いに捉え、リオは神剣オボフスを逆袈裟に振り上げる。

魔流で加速した一撃も、カジハは肉体へのダメージを無視して片腕を振り下ろして防御する。

リオが想定した対応だ。

リオは透過能力を発動してオボフスを鞘から抜き放ち、さらに一歩、カジハへと間合いを詰める。

狙いはカジハの足。

低い姿勢から、リオはオボフスでカジハの両脚を横に薙ぎ払う。

身体強化の効果が強いカジハの両脚は硬い。だが、魔流を使えば斬れない硬さではない。

「――っ!」

息を詰めて、リオはオボフスを振り抜き、カジハの両脚を膝下から切断した。

「ほぉ」

カジハが感心したような顔をする。同時に、意味が分からないと首をかしげていた。

両脚を斬り飛ばしたところで、カジハにとっては無傷とあまり変わりがない。

事実、リオが切り離したはずの両脚は次の瞬間にはくっついていた。

あまりにも無意味に思えるその一瞬に、リオは全体重をかけてカジハに体当たりする。

密着したリオごと、カジハの身体がわずかに浮いた。

羊皮紙を数枚挟み込める程度の隙間が、二人の身体と地面の間に開いた。

そのわずかな隙間にシラハの魔力が差し込まれた時、初めてカジハが顔色を変えた。

――喜色満面に。

「そういうことか!」

カジハが理解した瞬間、シラハの声が響き渡る。

『名も無き宙に編み出す目の無き網籠』

手を打ち鳴らす音の広がりに合わせて、地面に防御魔法が展開される。

地面だけではない。リオとカジハ、シラハの三人を中心にドーム状に防御魔法が展開された。

防御魔法は魔法の核を通さない。このドームの中にカジハがいる限り、地面へ混合魔法を使用できなくなった。

リオは魔流を発動する。ドーム内にリオの魔力が充満し、ドームの外はおろか自らの手すら見えなくなる。

最高速で、リオはカジハに向かって駆け出す。

そんなリオの後ろで捨て置いた神剣オボフスの鞘がふわりと浮き上がる。姿を消したシラハが持ち上げたのだ。

身体強化を施したシラハが鞘を全力でカジハの顔面へ投げつけた。

イオナが放った矢が突き刺さったままの鞘は陽炎の中、正確にカジハの顔面へ到達する。

視線が吸い寄せられるその鞘に、カジハは反応しなかった。

目をどこかに移動させている証拠だ。

膨れ上がる魔法の核の気配はカジハが構える脊椎剣を中心にしている。

カジハを間合いに捉えたリオは魔力の流れと重力を速度に変えてオボフスを振り下ろす。

魔法の核が斬り裂かれ、さらにはカジハの右腕が宙を舞った。

カウンターに左腕で振り下ろされる脊椎剣を、リオは肩を引きながら足の置き場をずらして辛うじて躱す。脊椎剣に魔流がまとわりつき、その剣筋をわずかに逸らしていた。

カジハの右横に踏み込みながら、リオはオボフスを横薙ぎに振りぬく。

カジハの胴体に深くオボフスが食い込み、通り抜けた。

間を置かず、リオが操作する魔流で加速したシラハの刃がカジハの左腕を斬り落とした。

陽炎の向こうでカジハが笑う気配がする。

「見事、見事。――甘いけど!」

突如、斬り落としたカジハの両腕が膨張した。

宙を舞っていた両腕が膨張したことで陽炎が吹き払われる。

視線が通る。防御魔法のドームの中、陽炎に包まれたリオ達が一瞬、互いの姿を見た。

その一瞬で、形勢を逆転にするには十分だと、カジハは飛び込むようにリオとの距離をゼロにする。

リオが振りぬいたオボフスを体で受け止め、カジハは自らの身体をオボフスを巻き込む形で治癒して固定した。

絶望的な筋力差がある以上、リオはカジハの身体に食い込んだオボフスを抜きとれない。

カジハの両腕が再生する。吹き散らされた一瞬で両腕を目視していたのだろう。

陽炎が戻ってくるが、もう遅い。

「楽しかったよ、少年――っ!?」

カジハの言葉は最後まで続かなかった。

本能的な死の予感がカジハの口を閉ざした。

話している暇はない。今すぐに目の前にいる少年を殺さなければならない。

武器を奪ったはずの状況下。頼みの綱の陽炎も肉体の膨張で吹き飛ばし、無効化できるはず。

リオとシラハの策を真正面から叩き潰したはずだった。

これ以上何がある?

少年を殺さねばならないが、策を叩き潰していない今、殺すのは勿体ないのではないか?

――そんな疑問が浮かぶより早く、カジハは本能的に腹部に突き刺さっているオボフスを引き抜き、リオに向かって振りぬいていた。

あまりの剣筋の鋭さに風が巻き、陽炎を吹き散らした。

剣の先に、リオはいない。

魔力が感知できなくなっていた。

「私のリオを舐めすぎ……」

冷たい声が聞こえてきた。

刹那、カジハの二歩先でリオの魔力が揺らいだ。

広がることのないその魔力は陽炎というにはあまりにも濃密で、堰き止められた清水のようだった。

魔流がくる。そう認識したカジハは死の予感を振り払うべく身体強化を限界発動し、先ほど以上の剣速でオボフスを振りぬく。

魔流を作り出す陽炎の魔力そのものを強引に吹き散らせば、魔流の速度は激減するはずだった。

堰き止められた清水のような魔力はカジハの剣風に――小揺るぎもしなかった。

「終わりだ」

魔力が乗ったリオの声が届くと同時に、堰き止められていた魔力が一斉にカジハを呑み込んだ。

それは激流のような魔力。その激流に乗るリオの手には、村から共に歩んできた愛用の剣が握られている。

視界が完全に閉ざされているカジハは状況を認識して渾身の笑みを浮かべた。

カジハが苦し紛れに構えたオボフスが一瞬で弾かれる。今までの魔流とは魔力の密度が段違いで、もはや豪剣といえる威力になっている。

カジハの胴体が真横に斬り裂かれる。刃が通った感触すらないほどの速さ。

カジハはこみあげてくる笑いを我慢しきれず、口を開いた。

「――悪手だよ!」

言った傍から、カジハの頭が切り離される。

宙を舞うカジハの頭部はそれでも笑い、混合魔法で喉に風を送りながら言葉を続ける。

「衝動を解消しながらの生に意味を見出せなくなった今だからこそ、衝動を解消しながらの死に意味が生まれるとは!」

カジハは今こそが死に際だと受け入れながら、それでも最後の瞬間まで言葉を続ける。

「うるさい!」

リオはしつこいカジハの戯言を斬り伏せるように、愛用の剣を振り下ろした。

頭蓋を割るような感触の直後、別の硬い手ごたえを感じる。

魔法の核だ。それを斬り裂いた直後、カジハの体が昏い邪気を放出しながら溶け始めた。

ナイトストーカーが死んだ時と同じ現象だが、放出する邪気の量が桁違いだ。

「最高の最期だ。リオ君、ありが――」

言い切る前に、カジハの頭部が霧散する。

「……終わった、かな?」

リオの呟きに応えたわけでもないだろうが、邪神カジハの死を証明するように、放出された昏い邪気がリオの握った剣へと吸い込まれるように消えていく。

愛用の剣が邪剣カジハになったらしい。少し複雑な気持ちだった。

試しに魔力を込めようとした時、カジハとは比べ物にならない邪気がすぐ近くで膨れ上がった。

反射的に飛び退き、邪気の発生源を見て目を疑う。

シラハが底冷えがするような美しい笑みを浮かべてリオを見つめていた。

「――大事なものは大切にしまっておく」

直後、防御魔法が消し飛び、周囲の空間が歪み、リオはシラハと二人きりの空間に立っていた。