軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話 邪神の住み家

スファンの町で一日滞在した後、リオ達はサンアンクマユへ進軍を開始した。

スファンの町から数時間ほど歩けば、明らかな戦闘痕が散見されるようになる。カジハが追い立てた邪霊たちの殺し合いが行われたのだろう。

空気感もスファンの町とは明らかに異なり、淀んだ殺気があちこちから放たれている。

リオ達の隙を窺っているだけで、遠くに目をやれば邪霊や邪獣が憎悪を宿した昏い眼でこちらを見つめている。

統率の取れた軍でなければたちまち襲われていただろう。

緊迫感が増していく。

先頭を進んでいた冒険者たちが五、六人のパーティごとに分かれて邪獣や邪霊を討伐しに散っていった。

退路の確保を担当する冒険者たちだ。

冒険者たちを見送りつつ、リオはシラハに声をかける。

「人が減るほど警戒の負担が増すかと思ってたけど、そうでもないね」

遭遇戦に備えて馬車を降りて歩いているが、リオ達の負担は少ない。

邪神カジハに対する切り札として、リオ達討伐メンバーは軍の中央に守られている。ロシズ子爵家の騎士団が周囲を囲み、さらに外側をホーンドラファミリアが囲う形で防衛している。

リオが周囲を警戒するまでもなく、一番外側にいるホーンドラファミリアが目を光らせてくれていた。

サンアンクマユが見えてくる。

すでに邪剣無銘を抜いているカリルがサンアンクマユの防壁を見つめて肩をすくめる。

「人が消えた町だからか、それとも邪神が巣食っているからか、遠目に見ても不気味だな」

「肝心の邪神さんは歓迎の準備でもしてんのかねぇ」

トリグがのんびりと軽口を飛ばす。

サンアンクマユの門は開け放たれていた。トリグの言う通り歓迎でもしているかのようだ。

トリグが王家騎士団を率いて動き出す。

「それじゃあ、おじさんたちはこの門周辺を中心に防壁周辺の危ない奴を片付けておく。無理しないようにね」

あっさりと離脱したトリグは騎士団に指示を飛ばし始めた。

防壁をくぐり、ラスモアとオッガンがロシズ子爵家の騎士団に町中の邪霊、邪獣討伐を指示する。各部隊にはイオナが配置したホーンドラファミリアの武闘派達が数名混ざっており、町の案内を担当することになっている。

「オッガン、騎士たちへの指示を頼む」

「ご武運を」

オッガンが防御魔法を展開して門周辺の安全を確保し始める。

町へ散らばっていく騎士たちを横目に、リオは神剣オボフスを鞘ごと抜く。

邪神カジハ討伐のメンバーは少数精鋭だ。

リオ、シラハ、チュラス、カリル、ラスモア、イオナ、ガルドラット。全員が神器や邪器を持つか聖人となっている。

イオナが神弓ニーベユの弦をリオに差し出した。

「必ず倒しましょう」

「もちろん」

弦を弾き、視線を向けられないようにしたリオはシラハとチュラスを見る。

「頑張ろうな」

「無茶はダメ」

「無茶しないで倒せる相手だったらいいんだけど」

シラハが差し出してきた手を握る。

空は曇天で分かりにくいが、間もなくナイトストーカーを発動できる時間となる。

ラスモアに神弓ニーベユの効果を与えたイオナがチュラスに向かってしゃがみ込み、弦を差し出した。

「チュラスさんもどうぞ」

「うむ。お主は我にも礼を尽くしてくれる。評価しておるぞ」

「では、戦いが終わりましたら我が家にいらっしゃいませんか?」

「それは断る」

「そうですか……」

一瞬で感情を上げ下げするイオナを無視して、チュラスは弦を弾き、シラハの下による。

「命がけの戦いである。各々、言い残すことがあれば今、仲間に伝えるが良い」

「リオは私が守る」

「いや、シラハが守られる側だって」

「双方で守ればよかろう」

「兄の方が上なんだよ」

「妹だって上になれる」

「埒が明かんな」

チュラスが呆れてかぶりを振る。

そんな三者の様子を見て、カリルとラスモアが笑った。

「変に緊張してねぇなら安心だ。言い残すことといえば、帰り道でリオに大人の遊びってやつを教えてやりてぇな」

「ほぉ、カリル、私にも教えてもらいたいな。こんな機会でもなければ遊ぶこともできぬ身分なのだ」

「それはちょっと勘弁してください。責任問題になっちまう」

「なにを言う。神弓ニーベユに邪剣ナイトストーカーがあれば、夜中に抜け出すくらいわけないだろう。なぁ、イオナ殿?」

ラスモアに水を向けられて、イオナが面食らう。

「協力できるわけがありません! そもそも、女性になんて話題を振るんですか!」

「あぁ、ラスモア殿は遊ぶ前に女性との関わり方を覚えるべきだ」

淡々と話題に乗ってきたガルドラットに、リオは目を丸くする。

「ガルドラットさん、結構遊んでいたんですか?」

「……リオ、誤解だ」

ガルドラットが威厳を保とうと平静を装いながら言い返すが、もう遅い。

仲間を見つけたようにカリルがガルドラットと肩を組んだ。

「聖人って言っても、人間として過ごしてたんだから俗っぽいのも当然だって。で、どんな遊びしたんだよ?」

「私も聞きたいものだな。悪い遊びも経験しておいて損はないとオッガンが言っていた」

ラスモアが逆の肩を組んでガルドラットの退路を断った時、静かな声が男たちに水を差した。

「私のリオ――」

「大人男組は節度を弁えるべきであるな」

シラハの言葉を遮ってチュラスが窘めると、カリルとラスモアが苦笑しながらガルドラットから離れる。

ガルドラットだけは納得がいかないように顔をしかめていたが、すぐに気を取り直してサンアンクマユの中心部へ目を向けた。

シラハが邪剣ナイトストーカーを発動する。

姿が見えなくなったリオたちは決戦の舞台へと一歩を踏み出した。

「――作戦開始!」