軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十話  魔流

トリグが右手だけで握った木剣を中段に構え、左手を握りこんで脇を締めた。

身体強化をすれば、トリグはリオの剣を片手で捌ける。神剣オボフスの透過能力は肉体を透過できず、拳の方は確実に当てにいける。

リオへの対策をしっかり練ってきたのだろう。総合的な武術を求められる騎士だけあって、格闘戦もこなせるはずだ。

トリグの後ろにはオッガンが仁王立ちしている。両手には数枚の魔法陣が書かれたプレートを持っており、いつでも発動できるように魔力を込めていた。

リオの魔法斬りを最初期から知っているオッガンのことだ。発動する魔法も吟味しているだろう。

「ふぅ」

リオは細く息を吐きだして、身体強化を一瞬で限界発動する。

一歩、踏み出したリオに向けてオッガンが魔法陣を発動した。

トリグの周囲に赤い光の玉がいくつも浮かび上がる。数で押せば魔法斬りでも対処ができない。魔法使いとしては至極当然の選択だ。

見学している冒険者たちもこの展開は予想できていたらしく、驚く様子もない。

赤い光の玉がトリグの右側に多く配置されているのは、神剣オボフスで透過されてしまうトリグの剣をフォローするためだろう。

赤い光の玉がリオに向かって飛ぶ。その動きに紛れるように、トリグがリオとの距離を詰めにかかった。

リオは姿勢を低く、神剣オボフスの透過能力を発動する。地面の下に神剣オボフスを突き入れ、リオは喉の身体強化を限界突破させる。

「邪魔!」

声と共に余剰魔力が赤い光の玉の群れにぶつかる。膨れ上がった魔法の核に向けて、リオは神剣オボフスを振り上げた。

地面の下から神剣オボフスを振り上げることで土くれが撒き上がる。拡散した土くれは赤い光の玉の魔法核に衝突していくつかを砕き、消滅させた。

いまだにリオへと飛んでくる五つの赤い光の玉を、リオは地面の上をすべるような滑らかな動きで躱しきり、トリグが突き出す木剣に神剣オボフスを合わせる。

木剣が透過され、トリグはすぐさま拳打に切り替えて左足を踏み出した。

トリグの後ろでオッガンがさらに魔法陣を発動する。リオの逃げ道を塞ぐように地面が急速に隆起して壁を生成、トリグとの一対一を強制した。シラハが良く使う魔法だ。

真後ろの地面まで隆起しているのを感じ取り、リオはすぐさま上に跳ぶ。

トリグの拳が届くより早く、リオは壁に神剣オボフスを突き刺す。透過能力を発動して壁の向こうに逃れることもできるが、リオはあえて神剣オボフスで半端に透過した壁に足を突き入れ、さらに上へと跳躍した。

壁の上に逃れたリオは壁向こうの状況を確認する。

案の定、地面が大きく陥没していた。オッガンは壁を通り抜けた先に落とし穴を用意していたのだ。

単純な罠だが凶悪だ。リオが引っかかった際に怪我をしないよう水まで張っておく優しさが心憎い。

リオは壁を足場に再び跳躍して落とし穴を飛び越える。

神剣オボフスを正眼に構えてトリグとオッガンに向き直り、仕切り直した。

魔法斬りを初めて目にした冒険者たちが賞賛の拍手を送っている。すでに実証実験としては十分な印象を与えたはずだ。

だが、まだ陽炎は見せていない。

トリグが右肩を回して筋肉をほぐし、木剣を肩に担ぐようにして持った。左拳を緩く握って正面に構え、木剣は背中に回していつでも鞭のように振るえる構えだ。

リオが陽炎を使うと見て、速度重視で木剣を振るうつもりらしい。左手を正面に構えているのは、隙あらばリオを掴むつもりだからだろう。

リオは構わずにトリグへ向かって走り出した。

足を止めていてはオッガンの魔法が来る。動かざるを得なかった。

案の定、オッガンが魔法を発動した。

速度も大きさも違う赤い光の玉がリオに殺到する。

数で駄目なら時間差で仕留める気だ。

リオが対処しきれない可能性も考えて殺傷力がない魔法を攻撃魔法に見立てているのもあるだろうが、赤い光の玉の挙動に違和感があった。

リオが横っ飛びに回避を図ると、光の玉も追従してくる。

避けきるのは無理だと判断して、リオは全身に魔力を通わせ、陽炎を発動した。

爆発的に膨れ上がった余剰魔力がリオの姿を覆い隠す。

陽炎に触れた光の玉は瞬時に核を膨張させ、膨張した核同士が対消滅した。

見学者たちが唖然としたのが、見ずとも分かる。陽炎を発動すれば、どんな魔法でも無力化できる。邪神カジハの混合魔法でもなければ核が膨張して消滅するのだから。

トリグが苦笑する。

「何度見てもえげつないなぁ。姿が見えないってのはさぁ」

ぼやきながらも、トリグは目を凝らしてリオの姿を冷静に探そうとする。

だが、無駄だとトリグも気付いているだろう。

リオの余剰魔力、陽炎の広がり方はトリグが初めて見た時よりも圧倒的に早い。空き地を埋め尽くそうとするような余剰魔力の広がりに見学者が動揺していた。

陽炎は幅だけでリオが五人ほど入れる広さ。無秩序に広がるかに見えて、高さはさほどでもない。球形に広がるのではなく、意図的に横へ広がっているようにみえる。

見学者の中でも、魔法使いたちの驚きは剣士よりも大きかった。

「魔力が広がる方向を操作してる……?」

「嘘でしょう。術式も噛ませていない余剰魔力をどうやって動かすの?」

「……魔力そのものを意図的に動かせるなら、術式が大幅に縮小できるぞ」

魔法使いたちが意見を交わしているのを聞きながら、リオは神剣オボフスを腰だめに構えた。

オッガンが顔を歪めた。理屈は分かるが培ってきた知識と常識が目の前の事実を認められないのだ。

オッガンに見せたリオの指南書の別紙には、この陽炎の変化形について書いてあった。

魔力には意思が乗る。単純に放出する純正の魔力は神気や邪気のように生物に影響を及ぼすこともある。

リオは陽炎の魔力に動く意思を乗せて拡散方向を操作していた。もっとも、魔力に乗る意思は微弱で動きも緩慢としている。

実戦レベルで魔力を動かすのならば、放出する余剰魔力そのものを増やす必要があった。

陽炎が発動可能な使い手がさらに魔力を放出することでようやく形になる技術なのだ。

リオは上半身を前へ倒す。

陽炎の中のリオの動きを読み取れるはずもないトリグは、中段に構えてオッガンを背後に庇った。

直後、トリグは陽炎に飲み込まれ、木剣を上空に弾き飛ばされていた。

「うそん……」

飛ばされた木剣を見上げてトリグが呟く。

その時には、神剣オボフスがオッガンの首に添えられていた。

「これがあの紙にあった秘奥義なんじゃな……」

リオの欠点、筋力の無さを埋め合わせるどころか王家騎士団の隊長トリグの剣を弾き飛ばす威力を発揮する秘奥義。

――魔流。