作品タイトル不明
エピローグ
故郷の村に戻って数日、リオは住み慣れた我が家だというのにのんびりできなかった。
村では珍しい大柄猫チュラスの人気爆発により、子供たちがひっきりなしに構いに来ていた。
さらには村の外の情報を欲しがった村長たちが訪れる。
ラスモアに気にかけてもらっている村の出世頭であるリオとシラハに中継ぎを頼もうとする若者や冒険者としての立ち回りを聞きに来るやんちゃ坊主たち。
隣村からも人が来るほどで、リオとシラハ、チュラスは最終的に部屋に引きこもった。
面会謝絶、と表札代わりに玄関に掲げ、ラーカンル達もリオ達を護衛するついでに人払いを手伝ってくれた。
十日ほど経って状況が落ち着いてくると、リオはようやく外で神剣オボフスを振りながら訓練を再開することにした。
「リオ、まだ部屋にいてよ」
シラハが服の裾を掴んで引き留めてくる。
リオは窓を開け放って陽光を部屋にいれ、外を指さした。
「陽の光を浴びないと骨が成長しないってガルドラットさんも言ってただろ。健康のためにも、シラハも外に出た方がいい」
「大方、川原でトリグたちに使った技を訓練したいのだろう。シラハよ、リオはこうなったら止まらんぞ」
「……もう」
納得していない様子だったが、シラハはリオが手に持つ神剣オボフスを見てため息をつき、ベッドを出た。
二人で家の裏手で訓練しようと部屋を出ると、ちょうど母が来客の対応をしているところだった。
母がぺこぺこと頭を下げ、リオ達に気付いてほっとしたような顔で手招く。
「ラスモア様がいらっしゃったから、早く来なさい」
「分かった」
貴族を待たせるわけにはいかない。
リオはシラハ、チュラスと共に玄関に駆ける。
久しぶりに会うラスモアは以前と変わらない気さくな笑みを浮かべてリオに軽く手を振った。
「久しぶりだな。何というか、リオは変わらないな」
「ははは……身長も伸びてないです」
「だが、強くなったとも聞いた。ちょっと家に邪魔させてもらう」
リビングに入ってきたラスモアはソファに腰を下ろした。
「あいにくと忙しくてな。手短に行こう。まずは報酬とは別件で、国にリオ達の神器や邪器の所有権を認めさせた」
「オボフスとかを接収されないってことですか?」
「そうだ。神剣オボフスと邪剣ナイトストーカーの組み合わせが暗殺向きなのでな。最低でもどちらか一つを国に献上させようという動きがあったが、父上――ロシズ子爵がオルス伯爵失脚にかこつけて潰した」
神器や邪器については隠すべきかもしれないと悩んでいたこともあり、リオは素直にホッとした。
ラスモアが続ける。
「オルス伯爵やリィニン・ディアには内乱罪が適用される。国を挙げて、各地の拠点や関係者を襲撃、捕縛していくことになる。つまり、リオ達は当面安全となった。指名手配もすでに全面的に撤回された」
大手を振って外を出歩けるようになったらしい。
これも朗報だ。
すでに村での生活を窮屈に感じ始めていたリオがガッツポーズする横で、シラハが面白くなさそうな顔をする。
「最後に、報告にあったシラハの魔玉だが、下流域でそれらしきものが割れた状態で発見された。他にも魔玉がないか、広範囲を捜索中だ」
詳しい状況の説明をした後、ラスモアはテーブルに金属のプレートを置いた。
「報酬の話に移ろう。まず、このプレートを報酬の一部とする」
リオとシラハにそれぞれ渡された金属のプレートは指二本分の太さと幅で、鎖が通されていた。
表にはロシズ家の紋章、裏には美しい飾り文字でリオとシラハの名前が書かれている。
「このプレートはロシズ騎士団における隊長格の発言権と、騎士団の予算から経費を請求できる権利を保証する。本来は戦で功のあった者に贈られるものだ」
ラスモアは後ろで護衛として立っているラーカンルを指さす。
「経費請求についてはラーカンルを通せ。ほぼ無条件に認めると内々に話はつけてある」
「隊長格……」
「部隊を率いろとは言わない。予算の方がメインだ」
ラスモアは腕を組んで、リオを見つめる。
「実は、今回の件とは別に国も邪神カジハによるサンアンクマユ陥落で浮足立っている。リオ達がカジハの情報をもたらさなければ、対策会議も空回りしただろう。国王陛下は大変喜んでいる」
国のトップが喜んでいると聞いて、リオは何とも言えない表情を浮かべる。話の規模が大きすぎる上に顔も知らないおっさんが喜んでいると聞いても、リオはありがたいと思えなかった。
リオの素直な反応にラスモアが堪えきれなくなったように小さく笑う。
「そんな顔をするな。実利もある。お前たち宛てに、国から報酬をもらっている。だが、シラハの件がある以上、お前たちのことを公にできない。それで、このプレートを通した形で迂回しなくてはならないんだ。すまない」
「いえ、自分たちに関わることなので。サンアンクマユ陥落は俺たちが引き金を引いたところもありますし」
「ともかく、国も動き始めている。そこで、リオの意思を確認したい――カジハを討つんだな?」
神玉や神鏡リィッペリを手にした以上、邪器カジハさえあればシラハの神霊化が叶う。
そもそも、再戦を誓うことでカジハの手から逃れた以上、討伐しなければ攻めてくる可能性が高い。
すでにシラハの神霊化の問題だけでなく、リオ自身の命もかかっているのだ。
リオはラスモアの眼を見返して、静かに頷いた。
「討伐します」
リオの覚悟を測るようにじっと顔を見つめていたラスモアはふっと笑った。
「いいだろう。我がロシズ子爵家が全力で援助する。金銭的にも、人的にもな」
「人的って……まさか、騎士団を動かす気ですか?」
「国からの許可は出ている。指揮官は私だ。神剣ヌラは邪神カジハの固有魔法を封じる切り札になるかもしれないからな」
言われてみれば、記憶にある風景を周囲に展開する神剣ヌラは邪神カジハの視界を塞ぐ効果も期待できる。
「邪神カジハが相手では人数を揃えても意味がない。人員の選抜はオッガン主導で進めているが戦力は微々たるものだ。そこで、リオにホーンドラファミリアとの中継ぎを頼みたい」
「いいんですか? 犯罪者の集団ですよ?」
ラスモアの独断専行ではないかと、リオはラーカンルの表情も窺う。
しかし、リオの心配とは裏腹に、ロシズ子爵家や国の方針らしい。
「国から犯罪者の集団が出て行ってくれるのならありがたいくらいだ。共闘もする。それに、旧シュベート国にホーンドラファミリアや難民が帰っていくのなら、将来的には交易の旨味もあるからな。我が家がその窓口になれるという打算もある」
「政治のことはよく分からないですけど、そういうことなら紹介します」
リオが承諾すると、ラスモアは満足そうに頷いた。
しかし、続くリオの一言で硬直する。
「イオナ、そういうことだから話に加わってくれる?」
「……気まずいんですけど」
言葉通り、気まずそうにそっと客室の扉を開けたイオナを見て、ラスモアが眉間を揉んだ。
「リオには少々、政治的な教育も施した方がいいな」
「同感ですね」
「なんでいきなり意気投合して俺の教育方針の話をしてるの?」
きょろきょろと、イオナとラスモアの間で視線を行き来させるリオに二人が同時にため息をついた。