軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話 奇襲

酷いことを考えるなぁ、とリオは呆れながら神剣オボフスを崖に押し当てる。

右手には神剣オボフス、左手には雑に魔法陣が書かれた紙を数枚。

大きく息を吸い込み、リオは単身で崖の中に突入する。

身体強化をほぼ限界まで引き上げて崖の中を疾走。突き出した神剣オボフスが空気を斬り裂いた瞬間にリオは左手を振り上げた。

頬に空気の感触。開けた空洞に出ると同時に見覚えのある顔が空洞の奥で喜色を浮かべて声を張り上げた。

「やはり来たね!」

ミュゼの声が耳朶を打つ。

リオは左手に掴んでいた魔法陣をばらまき、左脚を軸に進行方向を九十度反転、息を吸い込んで別の壁へと再突入した。

「――は?」

顔見せだけで壁の中に帰っていったリオにミュゼが呆気にとられたように声を上げる。

直後、リオは背中に莫大な熱を感じたが、無視して壁の中を全力で走った。

カリルが考えた作戦は非常に単純なものだ。

火炎を発生させる魔法陣をミュゼたちが待ち構える空洞に放り込む。

戦闘が展開できるような広い場所にミュゼたちが陣取る以上、魔法陣から発生した炎だけで窒息するはずもない。

だが――これで終わるはずもない。

リオは壁の向こうに待っていたカリルと合流し、ハンドサインを送る。

いたずらっぽい顔をしたカリルが神剣ヌラを壁越しに発動した。

壁の向こうでミュゼたちが慌て始めたのだろう、チュラスが少し同情するように壁を見つめた。

「神剣ヌラで炎だけを大量に再現し、火災を誤認させるとはな」

「それで、中の状況は?」

「ミュゼの他に手練れらしいのが十五、六人。重鎧を着たオックス流らしいのが五人混ざってる」

「チュラス、配置は?」

「ミュゼのそばに五名、その後ろに二名。残りはリオが撒いた魔法陣を撤去しようと向かってくる」

「合図を頼むぜ?」

「三、二、一、今!」

チュラスの合図と同時にカリルが神剣ヌラを腰の鞘に戻し、左手で武骨な鉄の剣を抜き放つ。

リオは神剣オボフスを壁に押し付けた。

カリルが剣を振り下ろす。

「――洗い流してやんよ!」

振り下ろした剣の切っ先から濁流が巻き起こる。

かつて、リオが押し流された濁流魔法。猿の邪霊が固有魔法として持っていたその魔法は猿自身が持っていた剣に宿り、邪剣となっていた。

名称がつけられる前に討伐されたことから、邪剣は無銘。だが、その威力をリオは身をもって知っている。

オボフスにより透過した壁を濁流が駆け抜ける。豪速でありながら空気のない壁を抜ける故に壁向こうの者たちには予兆すら感じられない。

暴力的なまでの濁流が何の心構えもしていない壁向こうの手練れに襲い掛かり、壁に叩きつけるだろう。

それで終わらせる気など、リオ達にはなかった。

濁流を先頭に、リオ達は一斉に壁を抜ける。

最速で駆けるリオは壁向こうの惨状を一番に目撃した。

濁流など意に介さずに燃え続ける神剣ヌラの幻影の炎。

濁流はリオが最初に侵入した外に通じる壁に吸い込まれ、手練れごと外に放出されている。

ミュゼたちが待ち構える空洞の隣にカリル達を連れて行ったあと、リオがわざわざ外から侵入したのは外へと敵を押し流す通り道を作るためだ。魔法陣をばら撒いたのも、カリルが神剣ヌラで火災を演出したのもおびき出すため。

どんな手練れでも神剣オボフスもなしに崖壁を潜り抜けることはできない。押し流された手練れたちは身体強化で防御しただろうが、戦闘に復帰するのは絶望的だ。

一瞬で半数に減った味方にミュゼが表情を歪ませる。

「神剣に邪剣に、何振り持ってきたんだい? 無茶苦茶するなぁ」

もっともな意見を口にして嘆くミュゼの前に重装騎士が五人ずらりと並ぶ。その構えからオックス流だと一目でわかる。

一糸乱れぬオックス流の騎士たちを補佐するのは後ろに控える二人の魔法使い。魔法陣が彫り込まれた木の板を連ねた杖を持っている。

二人が同時に杖に取り付けられた木板の一枚を手に取り、魔力を込めた。

リオは神剣オボフスを片手に地を蹴る。

リオの真横をカリルが邪剣無銘を持って並走する。

『――はしゃぎ爆ぜてほころべ 遊火花(あそひばな) 』

空洞にシラハの声が木霊する。

姿の見えない少女の声に魔法使い二人がぎょっとしたように周囲を見回した。

パチパチと可愛らしい音を立てて火花をまき散らす火の玉が宙に次々と生み出される。

火の玉はオックス流の重装騎士たちへと殺到するが、何もない空間に衝突して砕けた。

防御魔法で防いだらしい。

重装騎士たちも魔法攻撃が飛んでくることは想定していたらしく、陣形に乱れがない。構わず距離を詰めるリオとカリルに備えてどっしりとその場に構えている。

しかし、リオの魔法斬りを警戒したミュゼは鞘を片手で支えて抜き打ちの姿勢を取り、前に出た。

「片腕の男を狙え。少年は私が直接捕らえる。邪剣ナイトストーカーでの奇襲に備えろ」

仲間に伝えてリオに向かって駆け出したミュゼだったが、直後に脚を止め、後ろに飛び退いた。

『――籠る王者の大言木霊する、 鳴窟(めいくつ) 』

姿が見えないソレインの魔法詠唱を耳にし、分断されると気付いたのだろう。

事実、ミュゼがいた場所と重装騎士たちを分かつように土のドームが出現する。

分断してしまえば、リオがオックス流に飛び込み、その身の軽さと魔法斬りや神剣オボフスで暴れまわる。

分断できずとも、どっしりと構えるオックス流とミュゼが使う異伝エンロー流は連携が取りにくい。個人技の傾向が強い異伝エンロー流ではオックス流の邪魔にしかならない。

リオたちの狙いを正確に読み取ったミュゼの判断は早かった。

「魔法で壁を作れ!」

魔法使いへと指示を出しながら、ミュゼが懐から手鏡のようなものを取り出した。

銅鏡を獣の牙か角に嵌め込んであるらしいその手鏡こそが神鏡リィッペリだろう。

リオもミュゼの考えは読み取れる。

姿が見えない魔法使い、シラハとソレインの視線を切るための壁を作り、それを神鏡リィッペリで物質化することで魔法斬りの対策とする。

壁の内側に防御魔法を張っておけば、神剣オボフスの透過能力と邪剣無銘の濁流コンボは防げる。

壁を透過してリオ自身が乗り込んでくれば、シラハたちとの連携を壁で切れる。

ミュゼの的確な指示に、リオはカリルと視線を交わし、ミュゼ達への接近を諦めてその場で脚を止める。

仕切り直しにはなるが、手の内を全て見せたわけでもない。

リオたちの足が止まったことで、ミュゼがわずかにホッとしたような顔をして敵意はないと示すように両腕を広げた。

「リオ君、シラハさん、まずはようこそ。せっかちな君たちに単刀直入に言わせてもらおうか。我々には話し合いの余地がある。資料室からシラハさんのファイルを盗み出したのなら分かるはずだ!」

「うるさい。空と地面は話し合っても平行線ってことわざ知らないの?」

「それは立場の違いから相互理解が不可能という意味のことわざだ。我々は違う。目的は完全に一致していなくとも、手段は一致しているはずだ!」

まだ喚くつもりかと、リオは静かに神剣オボフスを腰だめに構えて前傾姿勢になる。

飛び出していこうとするリオをカリルが手で遮った。

「待て、リオ。奴らの退路を塞ぐのが先だ」

ちらりと、カリルが外へと通じる通路を見る。

二つある通路の内、片方がソレインの魔法、鳴窟で塞がれていくところだった。

わずかでも説得の時間があると知ったミュゼがポケットから白い球を取り出し、神鏡リィッペリと共に掲げた。

「我々は、これらを譲っても構わない」