軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話 避難開始

サンアンクマユが見えてくると、白面の介入を警戒していた冒険者たちがリオ達を見つけて手を振ってきた。

リオは手を振り返し、冒険者に歩み寄る。

「衛兵隊長たちと連絡を取りたいです。可能な限り早急に」

「何か問題があったのか? 衛兵隊長はいま、宿舎の方にいるはずだから直接行くといい。帰りを待っていたのはあの人も同じだ」

「わかりました」

冒険者に礼を言って、リオ達は町の中へと入って衛兵宿舎へ走り出す。

イオナが声をかけてきた。

「ホーンドラファミリアに戻ります。状況を伝えて、裏組織に周知させないといけませんから」

「分かった。あとで、ギルドで合流しよう」

イオナを送り出し、リオとシラハ、チュラスはそのまま衛兵宿舎の一階にある衛兵隊長の部屋を訪問した。

お茶を片手に書類を読んでいた衛兵隊長がリオ達を見て腰を上げる。

「なんだ、なんだ。ずいぶんと慌てて、また厄介ごとか?」

「詳細は後ほど、ギルドで話しますから手短に。邪神カジハがこの町に向かってきています」

「……予想されうる最悪の展開を引いたか」

盛大なため息を吐き出した後、衛兵隊長は書類を机の上に置いてティーカップを重石代わりに乗せた。

「ホーンドラファミリアは?」

「イオナが向かってます。ギルド前で落ち合う手はずです」

「了解。何はともあれ、住民の避難が最優先だな」

衛兵隊長は廊下に出て手近な隊士に簡単な指示を出す。

邪神カジハが動く事態は想定されていたため、よどみのない動きだった。

マニュアルに従って衛兵たちが各所へ散っていく。衛兵隊長の部屋にも重要資料をまとめて避難させるために数人の隊士が入って作業し始めた。

邪魔になっては悪いからと、リオはシラハと共に宿舎を先に出る。

ギルドへ走り出しながら、リオはチュラスを見る。

町に入ってから、チュラスは一言も話そうとしない。チュラスの正体がばれ、邪霊化しつつある事実が広まればこれ以上の混乱を引き起こしかねないからだろう。

「神器エレッテリで住人を落ち着かせて避難させられないかな?」

チュラスがリオを振り返り、無言で首を振った。

理由を話してはくれないが、難しいらしい。

ギルドには数人の冒険者と職員がいた。

駆け込んできたリオ達を見て、職員たちがすぐさま立ち上がる。リオ達がギルドに駆けこんでくるのにはもう慣れているのか、表情一つ変えなかった。

「どうしました?」

「邪神カジハがこの町を目指しています。衛兵隊には連絡済みです。ホーンドラファミリアにもイオナが説明に行きました。ここで落ち合う手はずになっています。避難の準備だけ、先にお願いします」

「……そうですか」

職員が冷静に呟き、頷きあって行動を開始する。この事態を予見してか、すでに重要資料はまとめてあったらしく早々に運び出しが始まった。

リオ達が手伝おうとすると、職員の一人に止められた。

「お二人は仮眠を取ってください。明らかに疲れが見えます」

「でも――」

「邪神カジハの件はリオさんたちのせいではありませんよ。この事態も予測したうえで、私たちは送り出したんですから」

そう言われても、リオは何か手伝えることはないかと視線を巡らせる。

その時、シラハに腕を掴まれた。

「カジハの術中に嵌ってる。悪い傾向」

「……まぁ、頭ではわかってるんだけどさ」

責任は取らないといけない。強迫観念でも何でもなく、自分に折り合いをつけるためのけじめが欲しかった。

足元にふわふわした感触を覚えて、リオは下を見る。チュラスが尻尾をリオの脚に巻き付けていた。

目が合ったチュラスが一声鳴く。

リオは職員に声をかけた。

「仮眠できる部屋ってありますか?」

「応接室を使ってください。毛布が欲しければ持っていきますよ」

「いえ、大丈夫です。自前のものがあるので」

旅の荷物をそのまま持ってきているため、毛布もカバンに入っている。

応接室に入ったリオはソファに横になる。シラハも向かいのソファで丸くなった。

チュラスがテーブルの上に飛び乗り、リオを見る。

何か言いたそうなチュラスに、リオは襲ってくる眠気に抗いながら声をかける。

「どうかした?」

「ふむ。道中考えていたのだが、カジハを斬れるやもしれんぞ」

「……どういうこと?」

チュラスが自らの首輪についた青銅の鈴を前足で揺らす。

「カジハの衝動は人に危害を加えるものではない。あくまでも、精神的に折るものだ。ならば、闘争心が湧く衝動ではない」

「エレッテリの効果で戦意を喪失させられるってこと?」

「一時的にだがな。だが、確実に隙が作れる」

まぎれもない朗報だった。

「でも、俺の戦意まで消えない?」

「消える。だが、リオが斬る必要もない。こちらに邪人もいるのだからな」

「そっか。邪人コンラッツなら衝動次第で戦意は喪失しないのか」

一太刀浴びせることは可能かもしれない。即死しなければ固有魔法でいくらでも再生するのが厄介だが、勝率は上がるだろう。

コンラッツの腕頼りだが、悪くない作戦に思える。

「それを俺から提案すればいいのか?」

「コンラッツの衝動が知りたいのだ。作戦が可能な衝動持ちならば、我の正体を明かし、作戦を持ち掛けよう」

「分かった。でも、今はとにかく寝たいな」

自覚していなかったが、ソファで横になると疲れがたまっていたのがよくわかる。

向かいのソファで丸くなっているシラハもすでに寝息を立てていた。

瞼を閉ざすリオにチュラスが小さく笑う。

「うむ。今は体を休めよ。来たるべき戦いに備えてな」