軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九話  偽装の村

チュラスに案内され旧シュベート国を歩くこと八日、ようやく目的地に到着した。

荒れ放題の森の中を邪獣や邪霊を気にしながら進んだが、七十年前であれば三日とかからず到着していたはずだ。

「村だね」

山の尾根から目的地を見下ろして、リオは呟く。

旧シュベート国の中でも辺境に位置する村だ。

平地も少なく、川もやや遠い。農業に向かず、邪獣が多いため狩りも危険。山に囲まれているため外部からの援軍も期待できず、街道から外れているため行商人や旅人も立ち寄らない。

何らかの事情がなければ、こんな場所に村を作らないだろう。

リオはイオナを見る。

「この村についての記録ってあるの?」

「国が滅んだ際に公文書も散逸していますからわかりません。ただ、国柄、こんな場所に村を作るとも思えませんし、そもそも領主が許可しないでしょう」

「偽装であろうな」

チュラスが口を挟む。

しばらく観察した限りでは、住人はもちろん獣もいないようだ。

罠が仕掛けられている可能性も考え、リオ達は慎重に村へと近づく。

中に入ってみても、どこにでもありそうな辺鄙な村にしか見えない。民家を覗き込んでも、家具もきちんと揃っている。

しかし、シュベート国が滅んでから人の出入りは途絶えているのだろう。道中に立ち寄った廃村と同じく家や家具は傷んでいた。

シラハが村を見回す。

「全部の家を探すの?」

「うーん」

小さな村だが、全部の家をくまなく探すとなると時間がかかる。

リィニン・ディアの施設だけあって、周囲に魔玉由来の邪霊の群れがいないとも限らない。早めに調査を終えなければ危険だろう。

「失せ物探しの魔法で何種類かの錠前を探知してみて。施設ってことなら装飾付きの鍵なんて使ってないだろうから」

「分かった」

特殊な鍵やシラハが覚えていないタイプの鍵が使われていれば、別の方法を探すことになるだろう。

どのみち、今夜はこの村に滞在することになる。保存状態のいい家を探して仮の宿にしようと、リオは適当な民家に目を留めた。

何の気なしに扉に手をかけたリオは、中に入りかけて脚を止める。

後に続こうとしたチュラスがリオを見上げた。

「どうしたのだ?」

「……なんか、家具の配置が気持ち悪い」

「なんだ、それは」

リオも上手く言語化できなかったが、家の中を見回してつぶさに観察するほどぞわぞわと気持ち悪さが背中を上ってくる。

今まで立ち寄った村の民家とは決定的に何かが違うのだ。

「……そうか。荒れてないんだ」

「何を言うかと思えば、荒れているだろう。窓も壊れて――いや、そうか」

チュラスもリオが言いたいことを理解したらしい。

「計画的に、冷静に、この家を後にしているな。それも、生活基盤が他に用意されている人間の逃げ方である」

大きな家具は当然残っているが、扉が崩れたクローゼットには衣類が残されている。タンスはきちんと引き出しが閉じられており、調理器具もそのままだ。

これまで見てきた廃村の民家を思い出す。

衣類はほとんど残っていなかった。ややかさ張るものの軽量で、買うとなればそれなりに金が必要になる生活必需品だけあり、必ず持ち出す物だからだ。

慌てて逃げ出したために引き出しは飛び出しているのが当たり前だ。中に宝石箱などの換金用の財産があったり、刺繍箱などのこまごました生活用品が入っているものだからだ。

調理器具も、鍋や包丁は消えているものだ。いざとなれば武器にできる刃物であり、避難中の食事を作るのに必要で、金属であるため売ればいくらかの金にもなる実用品だ。

リオは中に入り、厨房横の食材庫を開く。

「空っぽだ」

「かなり計画的に逃げておる。おそらくは、邪神カジハをこの国の人間が把握するより早く、余裕をもって逃げたのだな」

自分たちで作ったのなら、逃げる算段も立てやすいだろう。

後始末くらいしろよ、とリオはため息をつく。

その時、シラハがリオの肩を叩いた。

「ごめん。錠前は見つからなかった」

「そっか。気にしないでいいよ。探してくれてありがとう」

「うん」

シラハを労い、リオはチュラスを見る。

「普通の村に偽装してるなら、資料も隠してると思う。隠し部屋がないか調べたいんだけど、反響音とかって聞こえる?」

「お主らよりも耳は良いぞ。任せるがよい」

今夜の仮宿も決めたのだからと、リオ達はチュラスを頼りにしつつ村の家々を探し回ることにした。

イオナが村の中央にある大きめの家を指さす。

「村長の家でしょうから、あれが怪しいのでは?」

「外から人が来た時に対応する家でもあるんだから、見られて不味いものは逆に置かないよ」

「あ、なるほど」

リオの指摘にイオナが感心したように大きく頷く。

村の人間が出入りしてもおかしくないが、基本的に外の人間が興味を示さないだろう建物を探して、リオは陶器を作る工房らしき建物に目を留めた。

そこそこ大きな建物で陶器を焼くための窯が隣接している。工房の入り口には水がめや植木鉢が置かれ、建物の中には皿や土鍋がある。

周囲を山で囲まれたこの村で陶器を買い付けるとは思えない。道も悪く、山道を輸送中に破損するのがオチだ。

店先に出ている水がめなども出来があまりよくない。実用には耐えるだろうが、こんな重くてかさ張るものを輸送しても利益が出るような出来ではない。

「怪しいね」

リオの視線を追ったシラハが呟く。

チュラスが鼻をひくひくさせて、くしゃみをした。

「埃が酷い。それに、割れた陶器の破片が転がっていて我が歩くには危ないな」

「――では、私が抱えましょう」

やや食い気味に名乗り出たイオナがチュラスを抱え上げる。その瞬間、イオナの表情が緩んだ気がした。

リオは窯を覗き込む。

「これだね。使われた形跡がない」

「うむ、反響音にも違和感があるな。レンガの下が怪しい」

チュラスの言う通り、窯の床に敷かれたレンガを取り除くと鉄の扉が姿を現した。