軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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(また、薬の量が減ってきているわね)

毎日薬棚の在庫を調べていると、どの薬が減りやすいのかよくわかる。

治療院と併設な為か、塗り薬の使用頻度が本当に多い。

お母様と暮らしていたころは、塗り薬よりも咳止めの薬の需要が高かった。

特にお母様が独自に編み出したセンナギ草を混ぜた咳止めは、喉の痛みも抑えられるので、好評だった。ただ、センナギ草はこの修道院では育てていない。庭よりも室内で育てるほうが良い薬草だからかもしれない。

調合が必要な薬草をもらいに薬草園に向かっている途中で、モナさんと出会った。

「ルピナ! 洗濯物は終わらせておいたわよ。調合のほうはどう?」

当たり前のことのようにいうモナさんは、水仕事を厭わない。

わたしが泣いてしまったあの日から、モナさんは仕事を率先して手伝ってくれるようになった。

特に、わたしの手荒れを見て、水仕事だけはわたしがどんなに自分でやりたいといっても『その手がましになるまで水仕事禁止!』と一切手伝わせてくれない。

彼女の優しさは、伯爵家で唯一親切だった侍女のベネットを思い出す。

「モナさん、ありがとうございます。薬の在庫はやはり塗り薬の減りが早いようですね。それと、咳止めも使用が増えていますね」

「あー、やっぱりねぇ。ここのところ、咳をしている患者さんも増えたよね。冬に流行るゼカ風邪はまだ早いし、うーん?」

「例年よりも増えているのですか?」

「どうだろう。塗り薬はいつもなんだけど、咳止めが多いのはやっぱり冬のゼカ風邪だからさ。いまの時期にもないわけじゃないけど」

春が終わり、そろそろ初夏と言って差し支えの無い気候になってきているが、冬はまだまだ先のことだ。ゼカ風邪は初期のうちは咳だけで済むのだが、そのまま放置して悪化すると高熱で苦しむ厄介な病だ。体力のない子供や老人などは、運が悪いと死に至ることもある。

(……咳止めと、喉の炎症を抑える飲み薬も調合しておきましょうか)

モナが率先して仕事を手伝ってくれるようになって、他の修道女達も徐々にわたしへの当たりが和らいできている。おかげで、自分の時間すらも持てるようになった。

裏庭の薬草園につくと、グリフェさん達が先にいた。

「あらー、あらあらぁ? 元聖女様は薬なんかに頼らなくても治癒魔法で直せると思うのですけどぉ?」

くすくすと、常にグリフェさんと一緒にいるリーズルさんとルッテさんも意地悪く笑う。

(この方達とだけは、まだ和解できていないのですよね……)

特にグリフェさんは決してわたしを許そうとはなさらない。なぜそこまで憎まれているのか全く分からないのだが、もうあきらめている。

「あんたたちのほうこそ、今日の仕事は買い出しだったはずよ。こんなところで油売ってないでさっさと行ったら? それとも、調合できるっていうの? 不器用で調剤ぶちまけちゃったグリフェに?」

「なっ! モナには何も言ってないでしょっ。それにこの間のあれは、そいつが側でみていたから気が散っただけよっ」

そいつ、とは当然わたしのことだ。

薬の調合には、火を使うことも多い。

あの時は、モナさんと一緒にグリフェさんが薬草を煮詰めていたのだが、酷く具合が悪く見えたから気になっていただけだ。

くつくつと煮える薬草には特に異変がなかったのだが、グリフェさんが手元を滑らして追加する調剤を小鍋の中にすべて落としてしまったのだ。幸い、薬草を足せば配合を変えることなく薬を作れたので無駄にはならなかったのだが。

薬草が煮詰まって茶色く染まった煮汁をみて、グリフェさんは青ざめていたように思う。ヴェール越しだから表情はわからないけれど、みようによっては溶けるほどに煮込んだ薬草は不気味でもあるから、仕方がない。

「あ、貴方達、いくわよっ!」

「「はいっ」」

モナに言い返されて怒り心頭のグリフェさんは、リーズルさんとルッテさんを引き連れて去っていった。

「んっもう、あの子達は懲りないんだから。あたしがルピナの側にいる限り嫌がらせなんかもうさせないっての」

ふんっと鼻を鳴らすモナさんは、彼女達にとって怖い存在のようだ。

「そいえば、ルピナって実家から侍女は連れてこないの?」

「……罪を犯した身ですから」

本当は、侍女のベネットがついて来てくれようとしていた。

彼女はあの伯爵家の中でわたしを守るために、表面上は皆に合わせて冷たく振る舞っていた。けれど、人目のない所では常にわたしに尽くしてくれて、食事を抜かれていた時も彼女がこっそり差し入れを持ってきてくれたりしていた。

ベネットがいなかったら、わたしの生活はもっと悲惨だったと思う。

そんな彼女がとても大切にしている家族が、たった一人の母親だ。

彼女がわたしを大事にしてくれるのも、彼女の母をわたしが治癒魔法でこっそりと治療したから。

一緒に修道院に来てしまっては、母親の面倒を見ることができなくなるから、わたしの方から断った。

彼女の母の病はもう治っているし、伯爵家とは別の場所で働いているけれど、高齢の母と離れるのは心配だと思う。