軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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◇◇◇◇◇◇

ランドリック様の訪れから、一週間がたった。

(今日は一段と洗濯ものが多いわね)

晴れた空を見上げ、そんな事を思う。

春とはいえまだ水は冷たいが、汚れたシーツをてきぱきと洗ってゆく。

毎日毎日洗っていても、シーツや包帯、タオルは減ることがない。治療院併設だからか、汚れた衣類もとても多い。

いつも多いのだが、今日は普段よりも二割り増しぐらい多く思える。

今日は患者の治療だけでなく、買い出し当番もあるのだから、急がないと。

(風魔法を使えればよかったのだけれど)

風魔法なら、余分な水分を飛ばしてすぐに洗い物を乾かせる。けれどわたしに出来るのは治癒魔法のみだ。地道にもみ洗いして一枚一枚干していくしかない。

なんとか洗い終わった洗濯物を籠に入れて持ち上げる。

「やだぁ、聖女様なのに手で洗い物をしているわぁ」

「そう言わないであげなよ。あの人は『元』聖女なんだから!」

くすくすと笑いながら、修道女達が背後を通り過ぎていく。

「あっ!」

どんっと、背中に衝撃が走り、手にしていた籠と一緒に倒れた。

籠から飛び出して散らばってしまった洗い物を、修道女達が念入りに踏み荒らす。

「あらあら、ごめんなさいね? 急に目の前に投げ出されるから踏んでしまったわ」

「大切な洗い物を投げつけるなんて最低ね!」

「ちゃんと洗いなおしなさいよねっ」

キャハハと甲高い笑い声と共に、彼女達はその場をかけ去っていく。

ふぅっと、ため息をつく。

(この程度でしたら、すぐに洗いなおせるわ)

彼女達の嫌がらせは今に始まったことではない。

最初はヴェールで見分けがつかなかった修道女達も、段々とわかるようになってきている。

あの三人は修道院に来た当初から何かとあたってくる人たちだ。

似たような背格好だが、黒いリボンで茶髪を纏めているのがリーズルさん。

胸ぐらいの長さのこげ茶色の癖っ毛がルッテさん。

そして突き飛ばしてきた方が明るめの小麦色の髪をしたグリフェさんだ。

そして彼女達の嫌がらせは、わたしがアイヴォン伯爵家でされてきたこととなんら変わらない。それどころか、干した後に踏みつけて破いていかないだけ良心的だとすら思ってしまう。

汚されたシーツ類を洗いなおして、わたしはさっさと買い物に出ることにした。

◇◇◇◇◇◇

城下町はいつでも人でにぎわっている。

あちらこちらから威勢のいい呼び声が聞こえ、華やかで活気のある景色に自然と気持ちが上向いてくる。

アイヴォン伯爵家に引き取られる前は、母と二人でこの街の片隅に住んでいた。裕福ではなかったが、母と子の二人暮らしは、毎日が楽しくて幸せだったと思う。

父親であるアイヴォン伯爵には、母が生きている頃に会ったことはない。

母からは父は死んだと聞かされていたし、街の薬師のもとで働いていた母は、誰からも金銭的な支援を受けている様子はなかった。

だから、母が死んだとき、突然現れた父親と名乗るアイヴォン伯爵にはひどく驚いた。

初めて会う伯爵は、わたしとよく似た顔立ちをしていたのだから。わたしを男性にして、歳をとらせたら、きっと伯爵と同じ顔になるだろう。

母から父親についての思い出を聞かされたことはない。どちらかというと、聞いてはいけない話題のように感じていた。少なくとも、母にアイヴォン伯爵を慕っている気配は感じられなかった。

アイヴォン伯爵がそれままで放置していたわたしを、なぜ急に引き取りに来たのかもよくわからない。

わたしの顔立ちのせいだろうか。

伯爵にはもちろんよく似ていたのだが、それ以上に、ルピナお義姉様によく似ているから。

そんな事を思いながら街を歩いていると、見知った声に呼び止められた。

「ルピナちゃん、今日は珍しく川魚の干物が入荷したよ。安くするから買っていかないかい? 料理長のバンダなら扱えるはずだよ」

オウリュウ魚屋のチェル・オウリュウおばさまだ。

ヴェールを纏う修道女のわたしたちを、いつも間違わずに見分けてくれる。昔から王都の教会では彼女の店から魚を買っていて、ルピナの噂を知っているはずなのにわたしにも優しい数少ない人のうちの一人だ。

「チェルおばさまが勧めてくださるのなら、いくつか買わせて頂きたいです。それと、いつものジアの干物と、オツカ魚を三匹。海藻は一袋お願いできますか」

「あいよ! 毎度あり。まだほかにも買い物にいくかい?」

「えぇ、治療衣と包帯を受け取りに」

治療衣は入院する患者さんに着てもらう衣類だ。着脱がしやすく、治療もしやすい。

「なるほどね。テン衣料店だろう? それなら、この魚はいったん預かっとくよ。治療衣を受け取ったら戻っておいで。ここからだと大分遠いからね」

チェルおばさまが言う通り、テン衣料店までは離れていてる。

保存魔法のかかった鞄を持ってきているが、預かっていていただけるならそのほうがありがたい。

(本当は二人一組で買い物はするのですけれど、わたしと一緒に来てくださる修道女はいませんからね……)

だから、本来なら真逆と言っていいほど離れたテン衣料店とオウリュウ魚屋には、それぞれ修道女が向かうのだ。けれどわたしが当番の日は、必ずと言っていいほど相方になった修道女に用事が入り、わたしが一人で買い出しをすることになる。

これも嫌がらせの一環なのだと気づいてからは、門限までに一人で買い出しを済ませることができるように、早めに他の仕事を終わらせるようにしている。

門限までに修道院に戻れなければ、いかなる理由であっても夕食が抜きになる。

伯爵家では何かしらと理由を付けて抜かれることが多かった夕食だから、無いことに慣れてもいるけれど、空腹は慣れていても辛いものだ。

今日は洗濯物に時間がかかってしまってもいる。

急ぎ足でテン衣料店にいき、オウリュウ魚屋に戻ってくる頃には、大分陽が傾いてしまった。

(でもこの時間なら十分間に合いそうね)

治療衣は数着だし、包帯も数はあれど重さはさほどない。

――――っ、して――――っ

(……?)

どこからか、声が聞こえたような気がする。