軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◇エピローグ◇

王都の庭園は、真っ白なスノードロップに満たされていた。

雪はもう解け、春の日差しを感じる中、わたしはランドリック様に王城に招かれていた。

「そうですか……お義姉様は、治ることがないのですね……」

メイドが淹れてくれた紅茶に口を付け、ため息が零れる。

ルピナお義姉様が怪我を負った婚姻式から、一月ほど経った。

その間に、わたしの環境はめまぐるしく変わっていった。

まず最初に、アイヴォン伯爵家。

王命で決まったルピナお義姉様の修道院行きに逆らい、わたしを代わりに修道院に入れたこと。王家を謀った罪で、伯爵家から子爵家に降爵になった。領地も縮小された。

本来なら貴族籍を剥奪されてもおかしくなかったのだが、ランドリック様とロルト辺境伯家のフォースナー・ロルト辺境伯子息。この二人はもちろんのこと、多くの騎士と兵士を救った功績をもって、子爵家への格下げで済んだ。

アイヴォン伯爵家が治癒能力が強い家系であるということも、貴族籍剥奪にまで至らなかった理由だろう。

そしてルピナお義姉様は、あの時かけられた毒の影響か、治癒能力を失ってしまわれた。

お義姉様でなければ毒の影響を消すことはできない。

けれど、癒すことができなくなったお義姉様の身体には、いくつもの赤黒い染みが染みこんでいる。美しかった銀の髪も、毒で変色した後は真っ白に色が抜け、どれほど香油を使っても艶が出ることはなくなった。

顔に染みこんだ毒は、そのまま沈着し、痛みこそないものの二度と消えることはない、らしい。

わたしで治せるのは、爛れた皮膚を癒し、痛みを取り除くことだけだった。

毒は、どうしても癒せない。

だから、王都の治癒術師が治療に当たっていたのだが、今日、もう二度と治ることが無いと伝えられたのだ。

「自業自得であるのだが、ロザリーナは気に病んでしまうのだろうね」

ランドリック様が気づかわし気にわたしを見つめる。

自業自得。

そう言われてしまうのも、仕方がないことだった。

お義姉様を害した修道女は、カミーユ・ラングウィール伯爵令嬢。

以前、グリフェさんが仕えていたお屋敷のご令嬢だ。

淡い水色の髪が美しい方だった。

けれど大聖堂で見た彼女は、もう心ここにあらずといった態で、意味の分からない言葉とともにずっと不思議とほほ笑んでいらした。

(お嬢様は心を壊された、とグリフェさんは言っていたけれど)

グリフェさんの紺色の瞳をルピナお義姉様の藍色の瞳と見間違え、グリフェさんに紅茶をかけて大やけどを負わせたご令嬢。

ルピナお義姉様にいびり抜かれて心を壊したとは聞いていたことだったけれど、まさか、あんな凶行にはしるとはだれにも予測できなかったらしい。

(修道院では、グリフェさんと共に、普通に過ごしていたそうだから……)

本物のルピナお義姉様を修道院で見かけても、カミーユ様は何の変化もなかったらしい。

修道院では、個室が与えられている。

カミーユ様が過ごしていた部屋の中には、調剤室から持ち込んだと思われるさまざまな薬草と、そして、患者達の血が、残っていたとのこと。

それらを全て混ぜ合わせて毒を作り出し、大聖堂でのあの瞬間、お義姉様に浴びせた。

ふるりと震えが走る。

「ランドリック様が手を尽くしてくださったことに、感謝いたします……」

本当なら、お義姉様もわたしも罪人なのだ。

王宮の治癒魔導師の治療を受けられる立場ではない。

けれどランドリック様がすぐに手配をしてくださり、お義姉様の治療に当たって下さった。

「いや、俺は結局何の役にも立たなかったからね。君の手も、治してあげられない」

わたしの手を取り、ランドリック様は辛そうに顔を歪める。

あの時、お義姉様に駆け寄って治癒魔法を施した。その時に毒が指先に触れたのだ。

目立たない小さな痕だが、ランドリック様は気になってしまうらしい。

「痛みも、何もないのですよ? うっすらと赤いだけです。もともと、薬草に触れて緑に染まることも多かったのですから、いままで通りですよ」

「だが、俺がもっとうまく立ち回っていればこんな事には」

「ランドリック様のおかげで、わたしは貴族のままでいられるのですよ? それに、わたしは、ランドリック様の側にいられるだけで、幸せですから」

本当にそうなのだ。

ランドリック様は大勢の前でルピナお義姉様を糾弾さえしなければ、こんなことにはならなかったと思っていらっしゃる。

けれどそうしなければルピナお義姉様やアイヴォン伯爵家は上手く言い逃れてしまっていただろうし、わたしもきっと、いまこの場所にはいないのだ。そして罪が知られても貴族のままでいられたのは、ランドリック様と、そして辺境の魔獣王討滅に尽力してくれた騎士達、さらにロルト辺境伯の口添えまでもあったからだ。

婚約者のままでいられるなんて、思いもよらなかった。

「幸せなのか?」

「はい」

ランドリック様の手を、握り返す。

春の風が、柔らかな日差しを満たしていた。

FIN