軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8

◇◇◇◇◇◇

(…………?)

ぼんやりとする。

辺りがほんのりと明るくて、わたしは重い瞼をゆっくりと開いていく。

最初に目に入ったのは、見知らぬ天井。

否、数日前に見た天井だ。ゆっくりと視界を動かせば、ここが、ロルト辺境伯の城の客室だとわかる。

(いったい、どうしてこの部屋に……?)

わたしは、野営地にいたはずだ。

魔獣王の討伐に皆と向かい、奇襲にあった。

ヴェッタさんやチェリドさん、ランドリック様に守られながら。

(っ、ランドリック様!)

一気に思考が戻ってくる。

彼は、どうなったの?

ベットから跳び起きて、そのまま降りようとした瞬間、膝からかくんと力が抜けて立てなかった。

物音に気付いたメイドが、部屋にかけてくる。

「ルピナ様、お目覚めですか?」

その声に滲む優しさに戸惑いながら、返事を返す。

部屋に入ってきたメイドは、床に座り込むわたしに真っ青になって駆け寄ってきた。

「ごめんなさい、何故か力が入らなくて」

「どうかご無理をなさらずに。ルピナ様は一週間も眠り続けていらしたのですから」

「えっ」

一週間?

「そんな、ランドリック様は!」

「大丈夫です、皆様ご無事ですよ。みんな、ルピナ様のおかげだと感謝しています。さぁ、まだベッドに横になっていてください。魔力が完全になくなるまで癒してくださったのですから」

いたわりに満ちた声で宥められ、わたしはベッドに横になる。

そうして、気づく。

(ヴェールが、ない……)

一気に血の気が引いた。

「あのっ、わたしの、ヴェールは……」

まずい。

あれが無ければ、ルピナお義姉様と入れ替わっていることが知られてしまう。

お義姉様にあったことがない人たちにはわからないだろう。

けれどここには、ランドリック様がいる。

彼に見られれば、もう、どうにもならない。

「それでしたら、こちらに。けれど眠られるのであれば、必要ないのでは?」

クローゼットの中にしまわれていたヴェールを見て胸をなでおろす。

「いえ、わたしは修道女です。常に、ヴェールを身に着ける決まりですから」

「そうですか。では、お渡ししておきますね」

綺麗に洗われているそれを受け取り被ると、立ち去るメイドに頭を下げる。

(いつからヴェールは外れていたの?)

ランドリック様に見られてしまっただろうか。

もしみられてしまったとしても、気づかれなかっただろうか。

あれほど激しい戦いのさなかだったのだ。

必死に癒していたから、ヴェールの存在など途中から全く意識していなかったことが悔やまれる。

ルピナお義姉様とわたしは双子のようによく似ている。

違うのは、お義姉様よりもわずかに薄い瞳の色と、髪の色だけ。

二人並んで見比べられたりしなければ、よく知っている人でない限り見分けはつかないはず。

(ランドリック様は、ルピナお義姉様をよく知る人……)

無事だったことは嬉しい。

助けることができたのだと。

けれど、入れ替わりが知られてしまったら、もう、どうにもならない。

コンコンと、ノックの音が響いた。

びくりと、肩が跳ねる。

「ルピナ。目覚めたと聞いた。入ってもいいだろうか」

控えめな気遣う声は、ランドリック様だ。

(どうしよう……)

一瞬、眠っているふりをしてやり過ごした方がいいのではという考えが思い浮かぶ。

けれど、それは結果を先延ばしにするだけ。

ごくりと喉が緊張で動く。

「……起きてはいるのですが、まだ、ベットから出られないのです。身だしなみも、整えることができません……」

ぎゅっと、服を掴む。

一週間眠っていたと聞かされているが、身体はとても清潔なようだ。おそらく、浄化の魔法をかけてくださっている。

治療院でも、湯浴みを出来ない患者さんには浄化魔法で身体を清めていた。

だから決して、みすぼらしくはないのだが、ランドリック様にお会いするのにベッドに上半身を起こしたままでというのは不敬すぎる。

(いえ、そうではないですね。少しでも、結果を引き延ばしたいから……)

ふるりと頭を振る。

逃げてても始まらないと、先ほど思ったばかりなのに。

「それでも、お許しいただけますか?」

「っ、あぁ、もちろんだ。入るぞ」

ランドリック様が部屋に入ってくる。

その無事な姿に、涙が込み上げた。

「おい、ルピナ、まだどこか痛むのか?」

大股でベットまで近づき、わたしの肩を掴む。

その表情はどこまでもわたしを心配するもので、騙していることに胸が痛んだ。

「いいえ、違うのです……ランドリック様が無事で、本当に、よかったと……」

「お前が俺を命がけで癒してくれたからだ。覚えているか? お前は、俺を癒すためにすべての魔力を捧げたんだ」

「すべて……」

そう、覚えている。

ランドリック様に死んでほしくなくて、必死に癒した。

そしてそんなわたしの頬を撫で、ランドリック様は自らの魔力を分け与えてくれたのだ。

ランドリック様はベット脇に跪き、わたしの手を取る。

「そう、すべてだ。お前が俺を生かしたんだ。そのすべてをかけて。だから俺も、お前にすべてを捧げる。……ルピナ。どうか、俺と生涯を共にして欲しい。 お前が何者でも(・・・・・・・) 構わない。俺に、お前を守らせてくれ」

ヴェール越しに、ランドリック様の真剣な瞳が映る。

(わたしを? 生涯? それは……)

「わ、わたしは、咎人です。生涯を修道院で過ごさなくては……」

「今回の討伐で、お前はすべての騎士を癒して見せた。あの、フォースナー・ロルトですら、命懸けで守ったんだ。ミミエラ・ロルトを侮辱した罪は、これで充分償えたはずだ。俺が、ロルト辺境伯を説得してみせる。だから、答えてくれ。俺が、嫌いか?」

嫌いなはずがない。

最初の出会いは、階段だった。

熱の出た身体で水を運ぶのは辛くて、足を踏み外した。

落ちるはずだったわたしを助けてくれたのは、ランドリック様だ。

次に出会った時は、ルピナお義姉様として、憎しみを向けられた。

けれど、王都の路地裏で助けてくれたのもランドリック様だ。

わたしを、憎いルピナお義姉様だと思っているはずなのに。

治療院で魔力が足りない時も、惜しみなく魔力を分けてくださった。

グリフェ様に冤罪をかけられかけた時も、わたしを信じ、守ってくれた。

そしてこの辺境伯領でも、ずっとずっとずっとランドリック様はわたしを守り続けてくださった。

そんな人を、どうして嫌うことができるというのか。

ふるりと頭を振る。

瞬間、立ち上がった彼にぎゅっと抱きしめられた。

心臓が高鳴り、顔が赤くなるのを感じる。

「ランドリック様……」

「好きだ。愛している」

「わ、わたしも、です……っ」

より一層強く抱きしめられて、わたしはまた、嬉しくて泣いてしまった。