軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6

◇◇◇◇◇◇

「ルピナ、ほら、あーんして、あーん」

ベッドの上で上半身だけを起こしているわたしに、モナさんが粥を匙にすくって差し出してくれるのですが、その、これを食べろ、と……?

ヴェール越しに、にこにこと笑っている気配がする。

「自分で食べられますから……」

「駄目! あたしのせいで丸一日寝込んでたんだから、大人しく世話されなさい」

モナさんが言うには、わたしは治癒魔法の使い過ぎと疲労で熱も出してしまっていたらしい。

一日寝たら熱もすっかり引いて元気だと思うのだが、どうあっても引いてくれないモナさんに、わたしは恐る恐る差し出された匙から粥を食べる。

「どう? 美味しい?」

モナさんにわたしはこくこくと頷く。

「これね、料理長がルピナの為に個別に作ってくれたのよ。ジア魚のすり身も入ってるから栄養満点よ」

「ありがとうございます、でも、本当にもう動けそうなのですよ。午後からでも治療院に行きたいのですが……」

「そういうと思ったけれど、今日は駄目、というか、完全に体力が回復するまでルピナは治療院にはいかせられなくなったわ」

「どういうことですか?」

「昨日ランドリック様がいらしてたじゃない? 隣国でいまのゼカ風邪と似た症状の別の風邪が流行ったんだって。それで、万が一その風邪のほうだと危険だから、いま咳をしている患者は隔離してるの。いまのあんたは間違いなく体力が落ちててうつりやすいから、万全な状態になるまでは治療禁止」

「で、でも、それですと急患の方を診る事ができません! 薬だけでは間に合わないはずです。治癒魔法を施さないと……」

「大丈夫。これを見て」

モナさんが修道服のポケットからいくつもの小さな石を取り出す。淡い黄緑色をしたその色合いは見たことがある。

「それは、魔石ですか?」

「そそそっ。しかも治癒魔法入り。疫病の可能性があるから、ランドリック様がすぐに届けてくださったの。いま修道院では全員この治癒魔法入りの魔石を持っているわ。だからあんたが無理に治癒魔法を使わなくても当分持つから安心しなさい」

治癒魔法が込められた魔石は、とても高価だ。

それを、惜しげもなく大量に届けて頂けたことに感謝の念が沸き起こる。

アイヴォン伯爵家で使用人として働いていたわたしにも、ランドリック様は治癒魔法入りの魔石を使ってくださった。王族でありながらも平民を見下すことがない。

「あと、次にランドリック様が来たら、ちゃんとお礼言いなさいね? あんたをこの部屋まで運んでくれたの、彼だから」

「えっ、この部屋の中に入ったのですか!?」

「入らないとベッドに寝かせられないじゃない」

「で、でも、この部屋にはセンナギ草がありますし……」

うねうねと捻じれた草は、あまり見目が良いとは言い難い。

院長に喉の痛みが取れる効果を伝えて、実際にすりつぶしたセンナギ草をいままでの薬湯に混ぜてもらい、患者の様子も見てもらった。

そして高い効果を得たのだけれど、見た目が見た目なので、いまはまだわたしとモナさんの部屋でしか栽培されていない。

「そんなの一切気にしている様子はなかったわよ。ルピナがぐったりしていたから、そっちが心配だったんでしょ。ただ、魔力切れと疲労は治癒魔法の管轄外で魔石は使えないから、あんたは今日一日ちゃんと休むこと。わかった?」

「……はい」

こうまで言われてしまっては、頷くしかない。

わたしはモナさんに大人しくお粥を食べさせられながら、ふと、気づく。

(っ、ヴェールが、無い!)

はっとするわたしにモナさんが笑う。

「あぁ、そんなに慌てないで。あんたのヴェールならちゃんとあるわよ。ただ、寝込んでるときにヴェールしたままだと息が苦しくなるでしょ。だからあたしが外したの。流石に寝るときはヴェール外してても問題ないしね」

モナさんは気軽にいうけれど、わたしはどきどきが止まらない。

ランドリック様にも見られたのだろうか。

ルピナお義姉様とわたしの容姿はよく似ている。

けれどそれは、お義姉様をよく知っている人間から見てもそうだろうか。

「モナさんのほかには……」

「顔を見たのはあたしだけ。何よ、そんなに美人なのに見られるのが不安なの? じゃあ、あたしの顔も見せてあげる」

いいながら、ぺらっとヴェールをはぎ取った。

その瞳の色に驚く。

「ふふっ、驚いた? こんな瞳の色の人、まずいないでしょ。せめて金色だったなら良かったんだけどね。銀色だと不気味だったらしくてさ。おかげで実の親の顔も知らないのよね」

なんてことはないようにいうけれど、物心つく前に親に捨てられた、という事なのだろう。

「ここの修道院はほんといいわよね。みんなヴェールで顔を隠せてる。どんな顔をしていても、平等に扱ってもらえるの」

何故ヴェールで顔を隠すのか。

修道女として清廉さを表すだけでなく、容姿から来る悪意から守ってもらえていたのかもしれない。

「……わたしは、自分の容姿が嫌いでした」

お母様に似たかった。

お父様によく似た容姿は、お義母様とお義姉様の憎悪の対象だった。

お義姉様ともよく似た容姿でなければ、身代わりにされることも無かった。

モナさんは、黙って頷いてくれる。

「ですが、この容姿のおかげで、わたしはモナさんと出会えたんです。いまは、この容姿に感謝できます」

「そっか。あたしと出会えたことを喜んでもらえてうれしいわ。ま、ルピナならあたしのこの眼も厭わないってわかってたから見せたんだけどね」

「とても綺麗な色に思えます」

「そうでしょ? あたしも気に入ってるの。ま、世間的には嫌われる色だから隠すけれどね。ん、お粥は食べ終わったし、そろそろあたしは行くわね。ちゃんとゆっくり休んでるのよ?」

もう一回念を押して、モナさんは食器を片付けて去っていく。

久しぶりのゆっくりとした日になりそうだ。