軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転生王女の交流。

芋の皮を剥き、アゴの部分で芽を抉る。

単調にその作業を繰り返していると、視線を感じた。顔をあげると、パウルさんと目が合う。

なんで見られているんだろう。私のやり方、どこかおかしい?

疑問を伝えるべく首を傾げる。

「手慣れてんなぁ。驚きだぜ」

パウルさんは、顎に手をあて、感心したように呟いた。

え、そこですか。

私、自分から手伝うって言ったのに。出来もしない事を請け負うと思われていたのなら、心外だ。

そんな微妙な気持ちが顔に出てしまったのか、パウルさんは慌てて手を顔の前で振った。

「疑っていた訳じゃねえんだよ。ただ、もう少しぎこちないもんだと予想していた」

「それは、私が子供だからですか?」

「いや、嬢ちゃんくらいの年齢だったら、花嫁修業も兼ねて母親の手伝いをしてる子も多い。そうじゃなくてオレは、てっきり嬢ちゃんは良いとこのお嬢様だと思ってたんだよな」

「!」

ぎくり。

電流が走ったかのように、体が跳ねた。

なんとも分かり易い反応をしてしまったが、パウルさんは気付いた風もなく、勘違いして悪かったなぁ、なんて笑う。

「ど、どうして、そう思ったんです?」

髪型や服装は、市井の女の子を参考にした。言葉遣いも丁寧になりすぎないよう、気をつけているつもりだ。……まぁ、元々内面は粗野なので、その辺りはあんまり心配ないかもしれないが。

「嬢ちゃんは、なんていうか……仕草や表情に品がある。姿勢もいい」

品があるなんて初めて言われた。

嬉しいけど喜んでいる場合ではないと、己を戒める。

「あとな、手が綺麗。だから、水仕事なんてしたことのないお嬢様なんだろうって勝手に判断しちまったんだよ」

手……! 手かぁ!

確かに私は、洗い物なんて殆どしない。気分転換がてら厨房を使わせてもらう時は、片付けまでやるけど、月に一度、二度くらいの頻度だし。

温室の水やりや土いじりは、手が荒れるほどではない。

それに万が一、手が荒れたとしても、有能な侍女達によってピッカピカに磨き上げられる。

「でも、良いとこのお嬢様が、芋の皮剥きなんて出来るわけないな」

パウルさんは豪快に笑い飛ばしてくれたが、私は顔が引き攣りそうだ。乾いた笑いを洩らす私のコメカミを、冷や汗が伝った。

「可愛らしいお嬢さんが、こんなにも貴重な戦力になるなんて驚きですよね。見てくださいよ、この皮の薄さ。芸術的です」

私が剥いた芋の皮を摘み上げ、クルトさんが目を輝かせる。

誉められて嬉しいけど、ボロが出そうで怖い。

フォローして、という意味を込めて視線を向けたクラウスは、笑顔でクルトさんの言葉に頷いていた。

なんで孫娘を誉められた爺ちゃんみたいな反応してんの!?

そんな場合じゃないから! ちょっとは空気を読んでくれるかなあ!?

意思疎通の出来ない護衛を睥睨しつつ、誰か話を逸らして下さいと切に願った、その時。

厨房の扉が開き、食材を片手で担いだヤンさんが戻ってきた。

「お前ら、お嬢さんに仕事押し付けて遊んでんじゃねえぞ!」

ヤンさんに一喝され、二人はそそくさと仕事に戻る。厨房のトップはパウルさんだが、実質的な力関係はちょっと違うらしい。

まぁ、なにはともあれ、話が逸れて助かった。

「マリーちゃん!」

「へ?」

安堵に胸を撫で下ろした私は、女性の声で呼ばれ、目を丸くする。

「ここにいたのね? 道理で探しても見つからない訳だわ」

「ビアンカさん!」

ヤンさんに続き、厨房に入ってきたのはビアンカ姐さんだった。倉庫から戻る途中で、会ったらしい。ビアンカ姐さんが私を探していると知り、案内してくれたそうだ。

「どこにも姿が見えなくなっちゃったから焦ったわ」

「ご、ごめんなさい」

「あら、謝らなくていいのよ。会いたくて、勝手に探していたんですもの。それに私が、悠長に着替えをしていたせいだし」

笑ってそう言ったビアンカ姐さんは、確かに乗船時と服装がガラリと変わっていた。

さっきまで、清楚な濃紺のワンピース姿だった。しかし今のビアンカ姐さんは、麻のシャツにダークブラウンのジレ、それから黒のパンツに黒のブーツ。

波打つ豊かな黒髪は、項のあたりで一つに括られている。

「その服装……」

どう見ても、男装だ。

妙齢の美女が、男物を身に纏う。一見、アンバランスにも見えるが、不思議と……。

「似合うかしら?」

「はい、とっても」

むしろ、似合いすぎて怖い。

ゲームのスチルでも見たことのないビアンカ姐さんの男装は、凛としていて格好良く、妙な扉を開けてしまいそうだ。

ポロリと零れ落ちた私の本音を聞いて、ビアンカ姐さんの艶のある唇がにっこりと弧を描いた。

「ありがとう。貴方にそう言ってもらえるのが、一番嬉しいわ」

妖艶な笑みを向けられ、思わず怯む。

しかしすぐに、彼女の笑顔は見えなくなった。私とビアンカ姐さんの間に割って入った、クラウスの背中によって。

「……どういうつもり?」

ビアンカ姐さんの声が、低く硬質なものへと変化する。

「どういうつもり、とは?」

相対するクラウスの声も硬い。

室内の空気が一、二度下がったような気がした。己の腕を温めるように擦る。

「私とマリーちゃんの間に入らないで欲しいのよ。邪魔なの」

「呼ばれてもいないのに乗り込んできた身分で、随分勝手な言い草ですね。邪魔者はどちらでしょう」

「私だと言いたいの」

「ここは厨房ですよ。手伝いもしない人間がいていい場所ではない」

お前が言うな。そう突っ込みたかったが、口には出さなかった。

手伝う意志はあったクラウスを止めたのは、他ならぬ私だからだ。

でも、私の作業を見守っていただけの人間が言っていいセリフではないと思う。

「手伝えばいいのね?」

ふん、とビアンカ姐さんは鼻を鳴らし、居丈高に言い放った。

「マリーちゃんは、芋の皮剥きをしているの?」

ビアンカ姐さんは、クラウスを押しのけて私へと近付く。

私の手元を覗き込んだ彼女は、芋を一つ拾い上げて、パウルさん達の方へと視線を向ける。

「船員さん。私も手伝っても宜しいかしら?」

「……あ、ああ。美人が手伝ってくれるなら、大歓迎だ」

クラウスとビアンカ姐さんの遣り取りを、呆然と見守っていたパウルさんは、慌てて頷く。

彼の笑顔は引き攣っていたが、ビアンカ姐さんは全く気にした風もなく、近くにあった椅子を引き寄せて座った。

「料理はあんまり得意じゃないけど、頑張るから。宜しくね、マリーちゃん」

なんでも完璧にこなし、自信に満ち溢れているビアンカ姐さんでも、そんな謙遜を言うんだなぁと。

そう思っていた時期が、私にもありました。

芋の皮を入れるための桶を挟み、二人で向かい合って作業を開始して、僅か三秒。ごろん、と響いた音に、私は目を丸くした。

視線を桶へと落とすと桶の中には、半分に割られた芋が転がっている。

手が滑って落ちてしまったのだろう。そう判断した私の視界に、今度は四分の一にカットされた芋が転がり込む。

芋を拾おうと伸ばした手を止めた私の、思考も一緒に止まる。

おかしいな。私、芋の皮剥きをしているのかと聞かれた気がしたんだけど。

芋を角切りにしているのか、の聞き間違いだったんだろうか。

ごろん。

私が現実逃避をしているうちに、更に追加で八分の一サイズの芋が桶に転がり落ちた。

「び、ビアンカさん!?」

「え?」

必死の形相をした私とは対照的に、ビアンカ姐さんはきょとんと目を丸くして、小首を傾げる。不思議そうな表情が、可愛らしい。が、それよりも彼女の手元……小さな欠片となってしまった芋の方に目が行く。

剥かれた芋というよりは、切り刻まれた芋だ。

「その芋……」

続ける言葉を探しあぐねる私の前で、芋は更に半分に切り落とされた。

「一つ剥けたわ」

笑顔で言い切るビアンカ姐さんの掌には、ダイスサイズとなってしまった芋が一切れ。

私は目頭を押さえたあと、生温い笑顔を浮かべた。

「ビアンカさん。あとは私に任せて頂けますか?」

「え、どうして?」

「私、芋の皮剥き、死ぬほど好きなんです。趣味と言っても過言でないくらい皮剥き作業大好きです。誰かに奪われるなんて考えられないくらい愛しているんです」

だから、お願い。大人しくしていて。

薄ら笑いを浮かべながら捲し立てる私の勢いに呑まれたのか。それとも据わった目をした私を気遣ってくれたのかは定かではない。ないが、ビアンカ姐さんは、押され気味に頷いてくれた。

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