軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転生王女の依頼。(4)

いやいやいや。

見間違いって事もあるでしょ。

脳内でセルフ突っ込みをいれつつ、まじまじと女性を見る。

波打つ豊かな黒髪に、目尻のつり上がった琥珀の瞳。意思の強そうなラインを描く眉に、彫りの深い目鼻立ち。艶のある赤い唇と、その左下にあるホクロが色っぽい。

スタイルは抜群で、形の良い豊満な胸から引き締まったウエストへと続くラインが美しい。襟の詰まった紺色のドレスはシンプルで、彼女の華やかな美貌を際立たせる。

どこからどう見ても、ビアンカ姐さんだ。

ゲーム開始時より少し若いけど、本人だ。

あんな美女、見間違えるはずがなかった。

でもユリウス様とビアンカ姐さんの接点なんて、ゲームではなかったはずだけどな……。

私は、もう既に大分薄れてきている、前世の記憶を掘り起こした。

ビアンカ・フォン・ディーボルト。

子爵家の長女で、修道女。ゲーム中の年齢は、確かミハイルの一歳上の21歳だったと思う。

ミハイルルートでしか登場しないサブキャラだが、さっぱりした性格と面倒見の良さから、プレイヤーからは『ビアンカ姐さん』と呼ばれ、人気も高い。

かく言う私も大好きだ。だって姐さん、格好良いんだもん。

気弱だった弟の変貌に戸惑いながらも、確証を得られずにいるビアンカ姐さんと、ミハイルの闇に気付いた神子姫が協力して、真実を探ろうとするのがミハイルのルート……別名真相ルートだ。

その過程で神子姫は、危険な目にあったり、挫けそうになったりもするのだが、守るのも慰めるのもビアンカ姐さんだったりする。

おい、誰ルートだと突っ込んだ記憶があるよ。

まぁ、ミハイルの正体を探るのが目的だから仕方がないかもしれないけど、それにしても酷い。

徐々にヤンデレの本性を発揮し始めるミハイルから、神子姫を守るビアンカ姐さん。

真実を知るのが怖いと嘆く神子姫を叱ったあと、抱きしめて慰めるビアンカ姐さん。

ついでにビアンカ姐さんの胸で一頻り泣いたあと、頬を赤らめてお礼を言う神子姫。

本当、誰ルートなんだと開発スタッフに問いたい。

沢山の困難を乗り越えて迎えたエンディングのスチルに、ミハイルと神子姫の二人だけしか描かれてなかったのは正直納得いかなかった。

ミハイルはいいから姐さん! 姐さんはどこ!? と嘆き悲しんだのは、私だけではなかったらしい。

『ビアンカルートクリアしたのに、スチルがミハイルとかイミフ』

『姐さんとの百合エンドを迎えたのに、ミハイルという小舅がついて来る件について』

『なにそれ怖い』

『バグじゃね?』

『残念ながら仕様です。実はね…真相ルートのヒーローはビアンカ姐さんじゃない…ミハイルだったんだよ!!』

『ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー!?』

上記のような茶番が、ネット上で多く見られた。

あと、『一貫して媚びない姿勢は買う』とか『予想の斜め上をいくシナリオ、嫌いじゃない』という謎な褒め方もされてた。

確かに、格好良い男子達との恋愛を求めてプレイする乙女ゲームなのに、攻略対象の男子に見せ場がないとか新しい。新しすぎて誰も追いつけてないけど。

「……マリー様」

「……」

「マリー様」

「え……あ、はい!?」

ぼんやりとしていた私は、レオンハルト様の声で意識を引き戻された。

必要な情報だけ思い出そうとしていたはずなのに、いつの間にか脱線しまくっていた。

慌てて顔をあげると、苦笑しているレオンハルト様と目が合う。視線で誘導され、示す方向を見ると……今度は絶世の美女と目が合った。

「!?」

店内からガラス越しに私をじっと見つめているのは、ビアンカ姐さんだった。

いつの間に、こんな近くに……。

そして何で、そんなにキラキラした目で私を見るの?

その後、ユリウス様にも発見されてしまい、店内に入れてもらった。

ここはユリウス様の知人が経営する飲食店。営業するのは夜なので、話し合いのために昼間だけ、ユリウス様が借りたそうだ。

奥のテーブル席を借りて、私達は簡単に自己紹介を済ませた……といっても、私は一応お忍びなので、マリーという名で通している。設定は、レオンハルト様の知人の娘。まあ、嘘ではないよね。近衛騎士団長と国王を知人という括りに入れていいならの話だけど。

「押しかけてしまって、申し訳ありません」

「いいえ。会いに来て下さって、寧ろ嬉しいですよ」

約束も取り付けずに、押しかけてきてしまった事を詫びる。しかしユリウス様は、笑顔で許してくれた。

さすが紳士だなぁと感心していると、ユリウス様は微妙に視線を逸らしつつ、ボソリと小さな声で呟く。正直、助かりましたし、と。

それはもしかして、現在進行形で私を見つめ続けるビアンカ姐さんに関係したお話でしょうか。

さっきまで眉を逆立てて怒りを露わにしていたはずのビアンカ姐さんは、頬を染め、うっとりと目を細めている。色っぽすぎて直視出来ない。正直、目の毒だ。

「あの、マリーちゃん?」

「マリーちゃん!?」

「あ、ごめんなさい。馴れ馴れしかったかしら」

「い、いいえ!」

嫌だったんじゃない。家族以外には、様付け以外で呼ばれる事が殆どないから新鮮だっただけだ。

しゅんと萎れてしまったビアンカ姐さんを見て、慌てて否定する。

「嬉しいです。是非、そう呼んで下さい」

「本当?」

「はい」

「じゃあ私の事も、ビアンカと呼んでね」

「はい。ビアンカさん」

呼ぶと、ビアンカ姐さんは、とても嬉しそうに破顔した。

ゲーム中では、凛々しくて、男の人顔負けな格好いい姿ばかり見てたけど、こんな蕩けるような笑顔は初めて見たかもしれない。

……もしかしなくとも、ビアンカ姐さんて、子供好き……?

「マリーちゃんの好きな食べものはなあに?」

「甘いものですね」

「好きな動物は?」

「猫です」

そうなの、うふふふ、と緩んだ顔でビアンカ姐さんは笑う。正直、ちょっと怖い。なんか分からないけど怖い。

「好きなドレスの色は?」

「青です」

ていうか、これいつまで続くんだろ……?

私が遠い目をしていた事に気付いてくれたのか、ユリウス様が咳払いをした。

「……話を遮ってしまって申し訳ないけれど、そろそろ本題に入ってもいいかい?」

ビアンカ姐さんは、冷たい目でユリウス様を睨む。私に向けてくれていた視線との温度差がすごくて風邪をひきそうだ。

「そういえば、船が出せない理由をお伺いしていませんでしたね」

「えっ」

ビアンカ姐さんの言葉に、私は声をあげる。思わずレオンハルト様と顔を見合わせた。

船が出せないって、何で?