軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転生公爵の歓迎。(4)

「……なんて、偉そうな事を言いましたけど、それが、どれだけ難しい事かも分かってはいるつもりなんです」

憤りが治まるにつれ、羞恥が顔を覗かせる。

言うは易く行うは難し。

私だってまだ、道の途中。何も成し遂げていないくせに、人様を批判するなんて何様のつもりだ。

重たい空気を和らげる為に、へらりと笑う。

しかし兄様は笑い返してはくれなかった。

俯けていた顔を上げ、兄様は真剣な表情で私を見る。

「兄様?」

「……その難しい事に私も挑戦したいと言ったら、どう思う?」

「……!」

私が目を見開くと、兄様は困ったように眉を下げる。

「笑うか?」

「笑いません!」

考えるより先に否定した。

身を乗り出し、食い気味に返した私に、今度は兄様が目を瞠る。

珍しくも、まん丸だった目が通常の大きさに戻るのと共に、薄い唇が弧を描く。ふ、と息を零すような笑い方だった。

「一瞬も躊躇わないんだな」

「私が兄様の夢を、笑うはずないでしょう」

兄様がシスコンなら、私だってかなりのブラコンだ。

兄様に悩み事があるなら、いくらでも相談に乗るし、手伝ってほしい事があるなら、全力で力になる。

レオンハルト様やプレリエ領の人達の事も大事だけど、だからって家族がそれ以下の存在になった訳ではないんだよ。別ジャンルで大切で、大好きな人のままだ。

心外だと私が腹を立てているのに、兄様は何だか嬉しそう。

「うん、そうだな。ありがとう」

安堵したような顔を見て初めて、兄様が緊張していた事に気付いた。

今では互いに立場のある身だから、諫められる事も覚悟していたのかもしれない。

確かに、簡単に背中を押せるような内容ではない。私達は兄妹だけれども、次期国王と公爵家当主でもある。幼い頃のように、無責任に大丈夫なんて言えない。

でも、相手は兄様だから。

真面目で、慎重で、誰よりも民の幸福を願っている兄様が、安易な思い付きで無謀な事を仕出かすとは思えなかった。

父様に丸投げしようとした、かつての私とは違い、たぶん口に出す前に物凄く考えて、悩んだはず。

「兄様、……」

話を進める前に、私は戸口付近に立つ侍女に視線を向ける。

彼女達は私の意を正確に汲み取り、頭を下げてから退室した。

「それで? 兄様はどんな学び舎を作りたいんですか?」

前のめりで聞く私に、兄様は戸惑いながらも口を開いた。

「市井の子供達が生きていく為に必要な知識を、学べる場があったらいいと考えている。ローゼが作ろうとしている学舎のような専門知識ではなく、基礎知識を」

「いいと思います」

専門知識を学ぼうにも、読み書きや計算が出来なければ、理解するのも難しい。

私は色々すっ飛ばして専門学校を作ろうとしているが、兄様はその手前の小学校に相当するものを作ろうとしてくれているのだろう。

「作るとしたら、王都にですか?」

「いや、叶うならば全国に作りたい。ただ、予算を考えると厳しいだろうな」

「そうですねぇ……。時間をかけて徐々に広げていくにしても、お金はかかりますし。でも、削れる部分もあるんじゃないですか? 例えば、建物なんかは、新しく作るのではなく、既存の建物を借りるとか」

「借りられる場所……。教会なら、小さな村にもあるな」

「そう。あとは集会所とかですね」

「なるほど。それならば予算は抑えられる」

隣国の話を聞いた時にも、考えていた事だ。

対外的なアピールではなく、実利を優先するのならば、建物なんていらない。後から資金繰りで揉めるくらいなら、他に遣り様が……。

「……あ、でも、場合によるかもしれません」

「?」

首を傾げた兄様は、視線で私に続きを問うた。

「高位貴族の方々の中には、名誉や体面を何よりも気にする人がおりますよね」

「いる……というか、殆どがそうだ」

「その方々の説得材料になるんじゃないかなと思うんです」

「建物が?」

「ええ。その土地の領主に、資金の一部を負担してもらう代わりに、学舎にその貴族の名前をつけるんです」

気難しい方々には『高貴なる者の義務』を果たせと迫るよりも、その方が、気持ちよくお金を出してもらえそうだ。

あちらは名誉欲を満たせて、こちらは予算の一部が浮くので、ウィンウィン。

そう説明すると、兄様は唖然としていた。

「ローゼの口から、そういう案が出るとは思わなかった」

「昔の私は、箱入り娘でしたからね」

私はそう答えて、苦笑した。

父様にイノシシと呼ばれていた頃の私は、潔癖のきらいがあった。理想ばかりを追い求め、実現に伴う 柵(しがらみ) から目を逸らしていた。

今もその名残はあるけれど、以前に比べると多少はマシになったと思う。

「少しは、成長しているでしょうか」

「ああ、頼もしいよ」

兄様は太陽を見た時のように、眩しげに目を細める。

「大きくなったんだな」

「兄様ったら……。そういう言葉は、父親が言うものですよ」

「いや、あの人には言わせん。ローゼの保護者は私だ」

しみじみと呟かれて、照れ臭くなる。恥ずかしさを誤魔化すように憎まれ口を叩くと、被せるように否定された。父様への対抗心が凄い。

「えぇ……? まぁ、父様は保護者という感じではないですけど」

「そうだろう、そうだろう」

満足そうに頷く姿は、何処か子供っぽい。

非常にレアな顔を見せる兄様に、私は破顔した。