軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転生公爵の企み。

天井を仰ぎ見ると、鉄の梁の向こう側に雲一つない蒼空が広がる。

屋根に阻まれない日差しが、燦々と降り注いで目に眩しい。

手で簡易的な日除けを作りながら、ぐるりと辺りを見回してみる。

天井だけでなく四方にも惜しみなくガラスを使った為、日当たりの悪い場所は今のところ無さそうだ。

屋内の温度は順調に温まっており、初夏を通り越して夏の陽気に近い。薄く汗が滲んだ首筋を、換気窓から吹き込んだ微風がさらりと撫でた。風通しも良好。

「うん、良い感じ」

「まぁた、とんでもないもの作ったわねぇ」

満足気に頷いた私に、背後から声が掛かる。

振り返ると、呆れと感嘆が混ざったような顔をしたヴォルフさんがいた。その少し後ろに立つ男性もまた、同じような顔をしている。

「王城の温室の大きさに匹敵しません? コレ」

天井を見上げながら呟いたのはテオだ。

「大きさだけはね」

彼とルッツと私の三人にとって馴染み深い場所である王城の温室ほど、豪華ではない。あちらはドーム型の天井や蓮の浮かぶ池、水路の配置など、観賞用としても優れている。

対するこちらは一切の無駄を省いて、温室としての機能だけ追求した無骨さ。

でもそれでいい。希少な薬草を育てる予定なので、一般に開放する予定はそもそも無いし。

「この温かさなら、南国の植物も育てられますね」

ミハイルは、きょろきょろと物珍しそうに周囲を見回しながら目を輝かせる。

いつも控え目な彼にしては意外なほど、声がはしゃいでいた。地属性の魔導師らしく、植物が好きなんだろう。

「ええ。根付くようになるまで、貴方の手を借りる事になると思うけど」

「任せてください」

なんて頼もしい言葉。

植物の生育を助ける力を持つミハイルがいれば百人力だ。

「こんなにも素晴らしい施設があるなら、何でも出来そうです」

文字通り、何でもしてしまいそうな勢いのミハイルに、頼もしさと同時に一抹の不安が過った。

これまでの付き合いの中で、ミハイルがとても真面目で勤勉な人だと理解している。

誰も見ていないところでもコツコツ仕事を進める彼は、控え目な性格も相まって、前世の日本人の気質に近い気がした。

地味な単純作業も楽しそうに熟すし、手が空くと寧ろ不安そうにしている。

社畜の素質、あり過ぎるんだよなぁ……。

「頼もしいわ。でも無理は禁物よ」

水を差すのも躊躇われるが、つい小言を付け加えてしまう。

するとミハイルはハッと我に返り、恥ずかしそうに頬を染めた。

「……気を付けます」

「ミハイルはルッツと違って真面目だからな。オレが見張って、適当に息抜きさせますよ」

テオは快活に笑って、ミハイルの肩を叩く。

面倒見が良いテオがついていれば安心だ。誰とでも仲良くなれるコミュ強だし、大雑把に見えて人一倍、気配り上手。

人見知りなミハイルとも徐々に距離を縮め、今では信頼を勝ち取っている。気難しい人揃いのクーア族にも気に入られているんだから凄い。

改めて思うけれど、プレリエ領って人材に恵まれ過ぎでは?

「マリー。アンタが規格外なのは知ってたけど、これはぶっ飛び過ぎ」

「ここは気に入りません?」

ガリガリと頭を掻くヴォルフさんを見上げる。

すると彼は思いっきり顔を歪めた後、「バカ」と言った。

「逆! 最っ高よ!!」

「良かった」

「薬師が薬の材料を育てられる最高の環境与えられて、喜ばない訳ある?」

キレ気味だけれど、どうやら喜んでいるらしいと分かり、安堵の息を零す。

地属性の魔導師と、薬作りのスペシャリストであるクーア族。両方が揃っているからこそ、ここまで大きな温室を建てる決意が固まったのだから。

「私としては物凄く嬉しいわ。でも、大丈夫なの?」

高かったでしょう、これ。

ヴォルフさんが視線で問うのに、私は重々しく頷いた。

ユリウス様の伝手で工房を紹介してもらえたとはいえ、ガラスはまだまだ高価。しかも温室自体が珍しい為、設計や建築が可能な職人も数が限られていた。

珍しい材質×特殊な技術なら、お値段も跳ね上がるのは当然。

医療施設をどどんと建てたお財布に、更なる打撃を与える。

王女時代にも個人の買い物は殆どしなかった私にとっては、震えるのを通り越して失神する金額だ。

けれど、敢えて言おう。

これは必要経費である、と。

「お金はこれから稼げばいいんです」

「大きく出たわね」

「まぁ、確かに今なら市場で何でも売れそうではありますが」

「『何でも』では駄目なのよ」

テオの言葉に、頭を振る。

プレリエ領はかつてない好景気に沸いている。

世界各地から人も物も集まっているので、やり方次第では大金が稼げるだろう。

とはいえ、単純に農地を潰して市場を広げる方法は却下だ。

商人を呼び込む為に、農民から職を奪うのは悪手。当座の金だけ渡して、領民の未来を摘むような真似はしたくない。

それと、医療施設という付加価値のついた今のプレリエのブランド力だけに頼って、安く仕入れて高く売るという手も同じく却下。

客だって馬鹿じゃないんだから、価値以下の物を売り付けられたら気付く。好景気という夢から覚めた後、プレリエ領に残るのは悪評だけになってしまう。

ならば私は、良いものを高く売ろう。

質の良い商品の価値を上げて、より高く。

東の島国オステンとの取引は続いており、食品以外にも珍しい物が入ってきている。

他国からの輸入品も、王都でも見ないような珍しい品があった。流石に全てが一級品とは言えず、玉石混交だが、掘り出し物も見つけた。

加工については、幸いにも現在、プレリエ領には医者と商人だけでなく、ありとあらゆる職人が成功を夢見て集っている。

若い原石、拾いたい放題。

世界各地から集まる原料と高い技術力なら、良いものが出来る……否、出来たと確信している。

「また面白そうな事、企んでるのね」

ヴォルフさんは目を細め、口角を吊り上げる。

「もしかして近々、王都に行く目的はソレ?」

「ええ、まぁ。それもあります」

そろそろ、社交の季節が始まる。

去年は医療施設計画が本格的に始まったばかりで、しかも領主一年目。

各国からの視察申し入れも後を絶たない為、社交シーズンは無視してプレリエ領に引き籠っていても許された。

でも今年はそうもいかない。

高位貴族の義務だし、領地を発展させる為にもコネは大事。元王族で初の女公爵という目立つ肩書きを活用して、人脈を広げる事が目標。

ついでに広告塔の役割も果たしてこよう。

社交は苦手だと逃げ続けてきたけれど、どうせやらなきゃいけないなら、一石二鳥は狙いたい。

「頑張ってきます」

ぐっと握りこぶしを作って宣言した。