軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転生公爵の逢引。(3)

私が悩んでも仕方のない事とはいえ、色々と考えてしまう。

政略結婚が当たり前である王族に生まれながらも、一人だけ例外的に恋愛結婚した身として、負い目があるのかもしれない。

兄様にもヨハンにも、寄り添える相手が見つかるといいなと思うし、その為に助力は惜しまないつもりだ。

とはいえ、目の前でプンスカしているヨハンに結婚する意思があるのかは疑問ではある。

「そんな訳で少しの間、匿ってくださいね」

決定事項のように軽く言い、ヨハンはにっこり笑う。

「それは別に良いのだけれど……」

その場凌ぎにしかならないのでは?

言い辛くて濁した部分を、レオンハルト様が引き継ぐ。

「逃げると後々、更に大変になりますよ」

レオンハルト様が言うと、ヨハンは渋面を作る。

「他人事だと思って」

「先達からの助言です」

苦笑したレオンハルト様の言葉に、私とヨハンは同じように目を丸くした。

そういえばレオンハルト様も、三十過ぎまで独身だった。

私としては幸運以外の何物でもないが、ネーベル王国ではその年まで未婚というのは少数派だ。

しかも彼は由緒正しい伯爵家の嫡男であり、近衛騎士団長という地位にもあった方。

縁談の一つや二つ、いや何十件と持ち込まれていた可能性が高い。

二十代半ばという若さで出世した事による多忙とか、周りの状況、彼自身の恋愛観や結婚に対する考え方、色んな要素が折り重なって今に至るのだろう。

でももし何処かのタイミングで何かが違っていたら、レオンハルト様は私ではなく、別の方と結婚していたかもしれない。

そう考えるとゾッとした。

思わず、隣に座るレオンハルト様の手を握る。彼は少し戸惑った様子ながらも、私を気遣うように覗き込む。

「ローゼ?」

「レオンが独身でいてくれて良かった」

「え?」

「貴方と結婚出来た私は幸運だなって、そう思ったの」

消えた過去の選択肢に勝手に怯えて、安堵する。

一人で一喜一憂しているのが恥ずかしくて、はにかむみたいに笑った。

するとレオンハルト様は、唖然とした表情のまま固まる。

呼吸すら止めているのではと心配になるくらい動かなかった彼は、十秒以上経過してから、ゆるゆると動き出す。

繋いでいない方の手で顔を覆い、長く息を吐き出した。

呆れられたのかと心配になったけれど、よく見ると耳が少し赤い。

もしかして、照れてくれている?

「……どう考えても、幸運なのはレオンハルトの方でしょ」

机に頬杖を突いたヨハンは、溜息交じりに呟く。

半目で睨まれたレオンハルト様は手を外す。

「同感です」

目を伏せ、咳払いをした彼の頬はやはり赤く色付いていた。

「あーあ……」

ヨハンは頬杖から崩れるようにして、机に突っ伏す。

外面が完璧な彼らしからぬ、だらしない姿をなんとなく見守っていると視線がかち合った。

逸らさずにじっと見つめられて、居心地の悪さを感じる。

「な、なに……?」

「……僕と姉様って本当の姉弟なんでしょうか?」

「は?」

「血が繋がっていない可能性は」

「無いですね」

ヨハンが意味不明な事を言い出した。

呆気に取られている私の代わりに、レオンハルト様がバッサリ切り捨てる。

「鏡を見てください。血の繋がりがないと言い張るのは、無理があります」

「いや、鏡を見ても全然違う」

「性格と表情の差で印象は変わりますが、目や鼻の形、髪質など、一つ一つはそっくりですよ」

「でもゼロとは」

「言い切れます」

往生際悪く食い下がるヨハンの言葉は、綺麗に却下された。

私とヨハンは二人共、母様譲りの顔立ちだ。男女の性差で多少の違いはあるが、パーツごとに見るとよく似ている。

血縁ではないと言い張るのは無理がある……のだが、それ以前に、だ。

「王家の醜聞になりかねない、質の悪い冗談は止めなさい」

アンタは橋の下で拾ってきたのよー、なんて古のおかんジョークは、王族相手になると洒落にならない。

両親とはいえ国のトップ。侮辱罪、不敬罪、エトセトラ。あっという間に大罪人だ。

はーい、と憮然とした声で応えるヨハンに緊張感はない。

「仮に血の繋がりが無くとも、既にローゼは私の妻です。諦めてくださいね」

レオンハルト様のセリフに、私は驚く。

いくらシスコンとはいえ、流石にヨハンも本気で言ってない。弟相手に牽制する必要はないと思うけれど、嬉しいものは嬉しい。

ヨハンはふてくされた顔でそっぽを向き、舌打ちした。

「お前はいいよな。最愛の人と結婚したんだから」

「ええ、お蔭様で」

「独り者に惚気るとか、性格悪いな」

「独り身が嫌なのでしたら、お相手を探されては?」

レオンハルト様の返しに、ヨハンは「本当、性格悪い」と呟いた。

「僕は自分が結婚に向いているとは思わない。年寄り連中は、結婚は王族の義務だなんだと言うが、妻の実家の後ろ盾など無くても兄様を支えていく覚悟はある」

拗ねた子供みたいな顔から一転、真剣な顔付きになる。

ヨハンは淡々とした口調で言った。

「寧ろ下手に身内を作れば、柵も増える。争いの種は極力作りたくない」

ヨハンの言いたい事はなんとなくわかった。

王子妃の実家が権力を持ち、暴走したケースが過去にある。

他にも王太子夫妻に子供が出来なかった場合などを考えると、ヨハンが二の足を踏む気持ちも理解出来た。

とはいえ、それが罷り通るかどうかは別問題だ。

当人もそれは痛い程に分かっているはず。

「夫婦ではなく、契約上のパートナーだと割り切ってくれる女性が、何処かにいないものかな……」

誰に聞かせるでもない独り言は女性に大分失礼なものではあったが、偽りない本音なのだろう。