軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転生公爵の逢引。

プレリエ領でお米が密かなブームになる……かもしれない。

あくまで希望であって、まだ可能性の段階だ。

ユリウス様の商会が営む店舗でも取り扱いを始め、目端の利く商人達が興味を示しているものの、それ程、流通はしていない。

なんせ未知の食材。他の食材との組み合わせや味付けどころか、『炊く』という基本的な工程すら難易度が高い。

気軽に手を出せる代物ではないのだ。

一部の好事家が好む珍味という立ち位置に収まってしまうかと思われたが、現在、風向きが変わっている。

キッカケはなんと私。

旦那様に愛妻弁当を作るついでに、使用人や騎士達に振舞った手料理が口コミで広まっているらしい。

特に市街地の警備を担当してくれる第二騎士団は領民と交流する機会も多く、世間話として何人かが話して、そこから徐々に……という流れのようだ。

ならば、今がチャンス。

ここで米食が広まってくれたら、いつか日本食……ではなく、オステン国料理専門店が出来るかもしれない。

私がいつでも好きな時に食べに来られるという私欲だけでなく、珍しい料理としてプレリエ領の名物にもなる可能性もあるし。良い事しかない。

そんな時に、ユリウス様から相談を受けた。

彼も今が商機だと思っているらしく、試作としてお店を出したいらしい。

もちろん最初から専門店なんて無謀な話ではなく、まずは広場に屋台を出して、反応を見るつもりだそうだ。

相談は、その屋台で扱うメニューについてだった。

でも、お米って万人受けする食材じゃないよね。

おにぎりは好きだし、騎士達には好評だったけれど、好き嫌いは分かれる。それなら入り口はもう少し、馴染みやすいものの方がいいかな。

もち米使って、お菓子っぽいものとかどうだろう。

「それで、出来上がったのがこちらです」

ジャーン、と脳内で効果音をつける。

どや顔の私がレオンハルト様に披露したのは、お団子。

串に刺さった四つの白いお団子の表面には、網目模様の焼目。たっぶりと掛かった飴色のタレは、私の監修の元に試行錯誤を繰り返した、みたらし。

「『みたらし団子』って名前です」

「こっちも?」

そう言ってレオンハルト様は、手に持っている串を軽く上げる。

「そっちは『みたらし』ではなく『いそべ』ですね」

醤油を塗ってこんがり焼いてから、海苔を巻いた磯部団子。

ちなみに今回は買ってないけど、餡子のお団子もある。しかも、ちゃんと小豆の餡子。

オステン王国との交易が増えたお蔭で、小豆が手に入るようになったのは大収穫だ。

ようやく満足のいく出来となり、屋台がオープンしたのは先週の事。

物珍しさから人が集まり、一週間経った今も人足は途絶えていない。リピーターも増え、列の長さは順調に伸びている。

もちろん私も、ちゃんと並んで買った。

試食でかなり食べたし、なんならユリウス様は別に用意すると仰ってくれたけど、行列に並ぶのも街歩きデートの醍醐味だ。

わざわざこの為に、二人でお仕事頑張ってお休みを捻出したんだから。

ちらり、と隣に立つ旦那様を見上げる。

今日のレオンハルト様はお忍びという事もあり、ネイビーのシャツに黒のトラウザーズ、それにブーツという極々シンプルな装い。

髪型もいつもみたいにピシッと整えておらず、前髪も全部下りている。だというのに、罪な程に恰好良い。

正装や軍服とはまた違った良さがある。

「? どうかした?」

あまりにもじっと見過ぎたのか、視線に気付かれた。

レオンハルト様は私を見て、軽く首を傾げる。

その仕草が恰好良くも可愛くて、もうどうしたらいいのやら。

「かっこよ……すき」

「ローゼ?」

「お団子食べましょうか」

思わず拝みたくなったのを堪え、笑顔でそう返した。

せっかくのお団子が冷めてしまっては勿体ないというのも本音だし。

「いただきます」

ぱくんと大口を開けてかぶり付く。

お団子は柔らかく、仄かに香ばしい。甘じょっぱいタレとの相性も抜群で、飽きる程に試食したにも拘わらず、素直に美味しいと感じる。

「んー!」

咀嚼しているので言葉には出せないが、美味しさの余り、笑み崩れる。

「美味しい」

「うん、これは美味いな」

呑み込んでから呟くと、レオンハルト様も同意を示してくれた。

キラキラと目が輝いているので、気を遣ってくれたのではないと分かる。

「ふふ」

嬉しくてニコニコと笑っていると、それに気付いたレオンハルト様は不思議そうな顔をする。

視線で意図を問われた。

「私が好きなものをレオンも好きになってくれて、嬉しいなって」

「!」

目を丸くしたレオンハルト様の頬が、うっすら赤くなる。

「同じ物食べて、美味しいって思えるのって幸せね」

「……ローゼ」

自分で言っておいて、なんだか照れ臭くなってしまった。

レオンハルト様が感極まったような声で呼んでくれるから、余計に恥ずかしい。

平常心を装いながら、お団子を食べるのに集中する。

「うん、美味しい。帰りに屋敷の皆にも、お土産……!」

早口で話していた言葉が途切れる。

空いていた方の手を、指を絡めるように繋がれた。驚いて隣を見上げると、酷く優しい眼差しとかち合う。

「オレも」

「え?」

「毎日、幸せを噛み締めてる」

「!」

「隣で眠る貴方を見る度、涙が出そうになるんだ」

「年かな」なんて言って照れ臭そうに笑うレオンハルト様に、胸を撃ち抜かれた。

恥ずかしいのを我慢して好意を伝えたら、倍返し以上のものを貰ってしまった。

私は一生、レオンハルト様に敵う気がしない。

「こっちも食べる?」

レオンハルト様は恥ずかしさを誤魔化すように、お団子を差し出した。

公衆の面前で『あーん』する方が恥ずかしい気はするけど、気にしない。

髪を押さえながらお団子にかぶりつくと、レオンハルト様は軽く目を瞠った。

自分から言い出したくせに、本当に食べるとは思わなかったらしい。ちょっと照れているのが、なんとも可愛い。

磯部団子を味わってから、今度は私が差し出す。

受け皿のように下に手を添えて、「あーん」とみたらし団子を持ち上げると、益々頬が赤くなっていた。

逡巡しているのが、視線の動きと眉間の皺で分かる。

虐め過ぎたかな、と苦笑して引っ込めようとすると、強い視線がこちらを向く。覚悟を決めたような顔で口を開けた。

しかし次の瞬間、誰かに手首を掴まれた。

レオンハルト様の口に運ぶ筈だったお団子は、別の人間の口の中へと入っていく。

しかめっ面でむぐむぐと咀嚼している人の顔を見て、私とレオンハルト様は唖然とした。

ふわふわと波打つブロンドに、目尻の吊り上がった青い瞳。

幼い頃は中性的だった顔立ちは、すっかり精悍な青年のものへと変貌している。体つきも逞しく、レオンハルト様には及ばないものの、背丈はおそらく百八十センチ前後ある。

母様譲りの美貌は、形の良い唇にみたらしのタレを付けていても欠片も損なわれない。

「よ、ヨハン……?」

久しぶりに会った弟は、不機嫌そのものな顔で私達を睨んだ。