軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転生王女の相談。

「…………」

……ど、どうしよう。

レオンハルト様に抱きついてから、十数分が経過した。

ふと我に返った私は、今置かれている状況と己の大胆さを思い返し、だらだらと冷や汗を流していた。

気持ちが抑えきれずに抱き着いてしまったけれど、これってセーフですか、アウトですか。どっち?

了承も得ずにしがみ付くとか、状況と立場によっては痴漢と言う名の犯罪だ。いや、互いの地位を考えれば、セクハラかもしれない……。

拒まれていないんだからセーフと判断しかけたが、早計だった。嫌だったとしても、王女は突き飛ばせないだろ。

そこまで考えたなら、今すぐ離れるべきだと思う。思うけれど、離れるタイミングが分からない。今?今なの!?誰かカウントダウンをお願いします!!三から……いや、心の準備があるから十からで。

「……王女殿下?」

「っ、ひゃいっ」

混乱を極めた脳内で、 居(い) もしない相手に助けを求めていた私を現実に引き戻したのは、そっと囁かれたレオンハルト様の声だった。

弾かれたように顔をあげた私は、へんてこな声をあげながら飛び 退(すさ) る。

私の奇行を見た、レオンハルト様は目を丸くした。

うん。我ながら今の動きは、かなり蛙っぽかったと思う。死にたい。

じわじわと顔に熱が集まるのが分かる。おそらく真っ赤になっているだろう。

これ以上の醜態は晒したくないとは思うが、自分の意思ではどうにもならない。

滲んだ視界でレオンハルト様は、数度瞬いた後、喉を鳴らして笑う。

思わず、といった感じに洩れた笑いに悪意は感じられなかった。

でも恥ずかしいものは、恥ずかしい。更に涙目になった私に気付いた彼は、右手で口元を覆いながら、咳払いを一つ。

「……失礼」

うう……。誰か私を、地中深く埋めて下さい……。

「……こちらこそ失礼致しました。取り乱した上に、勝手に抱き着いてしまって。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。オルセイン様」

羞恥に逃げ出したくなるのを堪え、私は頭を下げた。

「迷惑などと仰らないで下さい。自分としては、もっと頼って頂きたいくらいです」

「……嫌では、ありませんでしたか?」

「勿論です」

好意的な言葉に勇気を貰い、一番気になっていた事を聞いてみる。すると彼は、私の不安を払拭するように、躊躇いなく頷いてくれた。

良かった。

嫌われずにすんだようで、私は安堵の息を吐き出した。

「しかし……王女殿下?」

「えっ……何でしょう?」

安心したのも束の間、意味ありげな視線を寄越され、私は狼狽した。

あれ。やっぱりアウトでしたか?セクシャルハラスメントになりますか??

顔を強張らせる私とは対照的に、レオンハルト様は悪戯を企む子供のような目で、楽しそうに笑った。

「もうレオンとは、呼んでいただけないのでしょうか?」

「!!」

レオンハルト様の言葉で、さっきまでの醜態がリプレイされる。

そういえば、もう一個やらかしていたんだった……!!

「あ、あれは……えと、その」

咄嗟に、欲望が口から零れ落ちたと言うか……。願望が前面に押し出されてしまったと言うか。ぶっちゃけ心の中では、いつも名前呼びでしたけど。

何とか誤魔化そうとするものの、頭に浮かぶ案は全て使えないものばかり。寧ろ言い訳というより、自白だよね。コレ。

どうあっても取り繕えない。そう判断した私は、ごくりと息を呑みこみ、深呼吸をした。

「……そうお呼びしても、宜しいのですか?」

窺うように彼を見ながら、恐る恐る尋ねる。

どうせ誤魔化せないなら、かねてからの願いを口にしてみようと思った。だって、兄様だけ名前呼びなんて狡い。私も呼びたい。

「是非」

「!」

緊張に早鐘を打つ胸を押さえながら、返事を待つ私と視線を合わせ、レオンハルト様は微笑んでくれた。

「あ、……ありがとうございます……!」

よっしゃぁああああ!!と内心ではグッと握りこぶしを作りつつも、表面には出さないように気をつけた。王女らしくない以前に、普通に引かれるからね。うん。

「お礼を言われるような事ではありませんよ」

レオンハルト様は、瞳を優しく細めて私を見る。

動物や子供などの、微笑ましいものを見るような表情を見る限り、どうやら本性はバレてない模様です。

「では、……レオン様」

改めて、名を呼ぶ。緊張に、少し声が震えた。

何気ない遣り取りを、ずっとしていたいと思う気持ちはあるけれど、時間は有限だ。兄様がクラウスを連れ出してくれている、今のうちに。

「私の話を、聞いていただけますか?」

「……はい」

私の言葉に軽く目を瞠ったレオンハルト様は、笑みを消して頷く。

彼の低い声音と凛々しい表情は、私の気持ちまでも引き締める。

私は覚悟を決めて、口を開いた。

「……幼い頃に、私は、夢を見ました」

「夢、ですか?」

彼の問いかけに、頷く。

「現実と然程変わりのない、ありふれた夢でした。見慣れた景色に、見慣れた人達……でも少しだけ、違和感があるんです。いつも見ている人達が、少しだけ年齢を重ねているように見えました」

私の言葉に、レオンハルト様は息を呑む。

「……未来視」

呟いた声は、掠れていた。

「そのように大層なものではありません。神がかった力が、私に備わっているとも思えない。けれど、短い期間だけ見ていた夢は、いつもの夢とは何かが違っていて……私は、思い過ごしだと割り切る事が出来無かったのです」

嘘を吐く事に、勿論抵抗はある。

けれど本当の事を全て話すのは、あまりにもリスクが大きすぎた。

前世の記憶を持っての転生も、信じて貰えるかは分からないけれど、それよりも説明が難しいのは、ここがゲームの中の世界かもしれないという事。

テレビもないこの世界で、『ゲーム』という物を上手く説明出来るとも思わないが、そもそも、するべきでは無いと思う。

自分が生きている世界が、人工的に作り出されたものだなんて知ったら、どんなに強い人だってショックを受けるだろう。それにまだ、ここがゲームの『裏側の世界へようこそ』と同じ世界だと決まった訳じゃない。良く似た異世界かもしれないし。

今大事なのは、全てを打ち明ける事じゃない。

私の持っている情報を、レオンハルト様にちゃんと伝えて、未来に起こる事件を回避する事。

レオンハルト様に、協力者となってもらう事だ。

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