軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転生公爵の交流。(6)

「では、一度帰って在庫量を確認してきますね」

少しでも早い方が良いだろうと考えて、提案する。

メイドさんに馬車の用意を視線と手振りで頼みながら、話を続けた。

「屋敷に直接取りに来ていただくと、却って手間になる可能性が高いので、ユリウス様にお渡しする形でも良いでしょうか?」

物理的には引き取りに来てもらった方が早くとも、手続き等の手間を考慮すると倍以上の時間がかかる。

一応は公爵家なので、事前に約束を取り付けていない人間は原則入れないからね。

私が一旦戻って、ぱぱっと持って来た方が早い。

しかしユリウス様はその提案に、困ったように眉を下げる。

「そこまでしていただく訳にはいきません。私の方で引き取りに伺いますので」

正直、大した手間ではない。

でもここで突っ撥ねても、逆に気を遣わせるだけかと頷く。

「ところでどの程度、必要なんでしょうね?」

「確認して参ります」

ユリウス様はそう言って、店へと戻って行った。

譲ってくれる人が見つかったという旨を伝えると、男性客は「本当か!?」と弾んだ声になった。

感情が隠せないタイプの人なんだなと、微笑ましく思う。

「ご希望に沿えるかは分かりませんが、具体的にどの程度の量をお求めでしょう?」

「あればあるだけ……は、流石に図々しいな。譲ってもいいと思われる分は全て。もちろん言い値で」

「かしこまりました。ちなみに、お急ぎですか?」

「可能な限り早く欲しい」

あるだけ全部、超特急で、と。

ふむ、と頷くとメイドさんから「奥様」と呼ばれた。

「宜しければ使いの者を出して、取って来させますが」

「ありがとう。助かるわ」

うちのメイドさん、めっちゃ気が利く。

笑顔で答えると、メイドさんは僅かに口角を上げる。普段は眉一つ動かさないクールビューティーの笑顔は、破壊力が凄まじい。

良いものを見た……とほっこりしている間も、店での会話は進む。

「店主。譲ってくれた御仁が奥におられるのなら、お会いしたい」

「いえ、それは……」

「私にとっては、天の助けに等しい。顔を見て礼が言いたいだけだ、頼む」

中々に強引な方のようだ。

ユリウス様がやんわりと断っても引かない様子。

真っ直ぐで善良、悪意なんて欠片もなさそうではあるが、同時に折れる事を知らない傲慢さが透けて見えた。

『言い値で』なんてアッサリ言えてしまう金銭感覚と合わせると、なんとなく思い浮かぶ人物像がある。

愛され、大事に育てられた高位の人物。

そして米食に抵抗がない文化圏の人間と考えると、自ずと答えは出たようなものだ。

確実な証拠はないけれど、おそらく当たっている。

ただそうなると、米を必要としている理由が分からない。

長期の旅行になるのは分かっていた事だし、備蓄は余裕をもっていただろう。……もしかして、駄目になっちゃったのかな。

船旅だったし、海水に浸かって傷んだとか。高温多湿だと虫とかもあるな。

途中で米をロストしていたのなら、陸路での移動中はずっと、洋食を食べていた事になる。

もしかして、食事会を断った理由ってソレ?

長旅で疲弊して、慣れない食事を続けて、ダウン寸前。

そこで絶対に機嫌を損ねられないお偉いさんとの食事会、しかもメニューは胃に優しくない高カロリーな料理が確約されてしまっている。

ああ……私でもキャンセルするな。

歓迎会を断って気分を損ねるのも困るけれど、無理やり参加して、もし吐くなり倒れるなりしてしまえば、目も当てられない事態になる。

それくらいなら、体調不良が理由の欠席でお茶を濁すわ。

となると、コレ、絶対に会っちゃ駄目なやつ。

ドタキャンした相手と出先でばったりとか、気まずいどころの話じゃない。どっちにとっても地獄でしょ。

裏口からこっそり帰ってしまおうか。

いやでも、家にお米を取りに行ってもらっているんだった。

悶々と考えているうちに扉が開き、ユリウス様が戻ってくる。

珍しく困り顔だ。たぶん狡い人や横暴な人よりも、善良で裏表がない人の方が、扱いが難しいんだろう。

会うだけで済むなら協力してあげたいんだけど、こちらの都合もあるんだよなぁ……。

「マリー様?」

考え込む私を覗き込んだユリウス様の肩越し、ふと、若い男性の姿が見えた。

まず印象に残ったのは、切れ長な一重の目。黒い瞳には濁りがなく、切れ上がった目尻が涼しげな印象を与えた。

肌は多少日に焼けているが、日本人に馴染み深い象牙色。顔の彫りは浅く、アッサリした顔立ちではあるが、凛々しく、エキゾチックな魅力がある。

項の辺りで括った黒髪は真っ直ぐで、長さは腰まで届く。

背丈はおそらく、百八十センチは欠けるくらい。服装は、和服というより、漢服に近い民族衣装。

上衣は黒地に白とグレーを重ねた交領、下衣も黒一色と色合いは地味だが、仕立ては上等。施された刺繍は気が遠くなる程細やかだ。

裾の長い羽織りの隙間からチラッと柄が覗いたので、帯刀しているのだろう。

年の頃は十代半ば。

体つきは一見細身。けれど手首や首筋を見るに、相当鍛えているのが分かる。

声の印象の通り、涼やかで凛々しい若武者がそこにいた。

こちらの世界に転生してから美形は山ほど見てきたけれど、和風美形は初だなと、場違いな感想が思い浮かぶ。

「店しゅ……、っ!?」

私の存在に気付いた青年の目が、大きく見開かれた。

ばっちり会ってしまった以上、逃げるのも隠れるのももう不可能。

どうしたものかと半ば投げ遣りな気持ちで見守っていると、ユリウス様の肩越しにある端整な顔が、さっと赤く染まる。

「?」

何事かと思って首を傾げると、青年の顔がぶわっと一瞬で沸騰した。

色付くなんて、生温い表現では足りない。茹っている。首筋から耳の先まで、見えている部分が全部、真っ赤だ。

え、だ、大丈夫!? 病気!?

私の視線で後ろの彼の存在に気付いたユリウス様は、双方を見比べてから額に手を当てて目を伏せた。

あちゃあ、とかユリウス様でも言うのね。

「い、いや、礼を言いたかっただけなのだが、すまない。失礼した」

青年は吃りながらそう言って、店の方へと引っ込んだ。慌てたのか、ドアの縁に思いっきり肩をぶつけて、鈍い音がした。

「だ、大丈夫かしら?」

よろよろと歩く姿があまりにも危なっかしくて、独り言のように呟く。

するとユリウス様だけでなく、護衛の騎士と、いつの間にか戻って来ていたメイドさんの視線が私に集まった。

「……手遅れでしょうね」

「えっ」

「もう手の施しようがありません」

「えっ」

「戻り次第、旦那様にご相談させていただきます」

「何の話!?」

末期の病を患った患者と主治医みたいな会話に、私一人だけが付いていけてなかった。