軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転生王女の憂鬱。

ついに、神子姫が召喚されたらしい。

曖昧な言い方になってしまうのは、まだ一度も会えていないからだ。

フラグ折りの影響なのか、予定よりも一年くらい早い。そもそも、魔王が復活していないという状況なので、その位の差異は些細なものかもしれないけれど。

それよりも私にとっての大問題は、神子姫の専属護衛がレオンハルト様になったらしいって事だ……!

ゲーム本編とは色々と変わってきてしまったので、その分の狂いが出るだろうなぁとは確かに思っていた。

召喚の儀式の日取りが決まっても、クラウスが私の護衛を外れないのも、地味に不思議だったよ。神子姫が召喚されてからじゃ、遅いだろうし。

だからってまさか、レオンハルト様が護衛だなんて思いもしなかった。

でも、改めて考えてみると、仕方ないのかもしれない。

神子姫は我が国にとって重要な人であり、よその世界からお預かりしている大切なお客様だ。しかも私達の身勝手な理由を押し付けて、協力してもらっている立場だし。

それにラプターが魔王復活を望んでいるのなら、神子姫は命を狙われる可能性が高い。

実力者であるレオンハルト様が彼女の護衛になるのは、妥当な判断だと思う。

ゲームの中でクラウスが護衛だったのは、たぶん国の情勢が落ち着いていなかったからなんだろうな。

魔王が復活している上に戦争中である状況下で、指揮官であるレオンハルト様を抜けさせる訳にはいかないし。

「…………」

ふぅ、と溜息が洩れた。

頭では理解出来ても、気持ちは別だ。どうしても、落ち込んでしまう。

だって神子姫、すごく可愛いんだよ。

外見も可愛いけど、中身はもっと可愛いの。

天然でちょっとドジだけど、明るくて頑張り屋さん。

そんな可愛い女の子が、好きな人の傍にいると知って冷静でいられるほど、私は強くなれない。

レオンハルト様は攻略対象ではないのが、唯一の救いだ。

「……マリー様?」

「……え?」

ぼんやりと物思いに耽っていた私は、誰かに呼ばれて我に返った。

「如何されましたか?」

私を気遣う言葉をかけてくれたのは、ゲオルクだった。

「お顔の色が優れないようですね。少しお休みになった方が宜しいのでは?」

そしてゲオルクの隣に座る紳士……ユリウス様も、同様に私の心配をしてくれている。

「大丈夫です。少しぼんやりしてしまって……ごめんなさい」

私は笑顔で頭を振った。

いけない、いけない。

ゲオルクとユリウス様は、外出禁止期間が長引いている私の気晴らしの為に、こうして訪ねてきてくださったんだろうに。

当の本人である私が、いつまでもうじうじと塞ぎ込んでいたら駄目だよね。

「こちらこそ、押しかけてしまって申し訳ありません。久しぶりに貴方にお会いしたかったのですが、無理をさせてしまってはいけませんね」

「無理なんてしていません。最近は室内に閉じこもってばかりだったので、訪ねてきてくださって嬉しいです」

今にも帰ってしまいそうなユリウス様を、慌てて止める。

久しぶりに二人の顔を見られたのも嬉しいし、城の庭にあるガゼボでも、外でゆっくり出来るのは本当に有り難い。

いくら安全の為とはいえ、室内に閉じこもってばかりでは気が滅入る。

本心からそう言えば、ユリウス様とゲオルクは心配そうな面持ちではあったが、一応は納得してくれたようだ。

「少しでも具合が悪いようでしたら、すぐにおっしゃってください」

「はい」

ゲオルクの念押しに、笑って頷く。

可憐な少女のようだったゲオルクは、すっかり精悍な青年へと成長した。

すっと綺麗な線を描く眉の下、長い睫毛に飾られた菫色の瞳は理知的な光を宿す。母親であるエマさんに似た顔立ちではあるものの、昔はふっくらとしていた頬は削げ、中性的な雰囲気は消えた。

今の彼は、貴族の令嬢達が夢見るような、完璧な美貌の貴公子だ。

それでも、心配性なのは相変わらずなんだなと思うと微笑ましくなる。

すっかり健康体になったエマさんも、たまに朝寝坊するだけで、具合が悪いんじゃないかと心配されると手紙に書いてあった。マザコンというより、母親思いの素敵な息子さんだと思う。

「無聊の慰めになるかは分かりませんが、珍しい本を何冊かお持ちしました。後でお手元に届くはずです」

ユリウス様は、何年経っても変わらない美貌を優しく緩める。

もう三十歳を超えたはずなのに、いつまでも若々しい。笑うと更に幼くなって、二十代前半くらいにしか見えない。

でも年相応の落ち着きと威厳はあるのだから、凄いなって思う。

「ありがとうございます。ユリウス様の持ってきてくださる本は興味深いものばかりだから、とても楽しみです」

「私は、貴方様のお話の方がずっと興味深いと思いますよ」

「私の話、ですか?」

心当たりがなくて首を傾げるが、ユリウス様は目を輝かせて頷く。

「はい。なんでも、この国に大型の医療施設が出来ると聞いたのですが」

「!」

「その構想は、貴方様の案を元にされたと噂になっております」

吹き出しそうになったのを、ギリギリで堪えた。

大学病院建設のプロジェクトが動き始めているのは知っていたけれど、とっくに私の手を離れている。

案を出したって言っても、ザックリとした理想を語っただけ。たたき台とも呼べないような代物なのに。

というか、噂になっているって言ったよね。

父様が関係していて、情報が簡単に洩れるとは思えない。つまり、意図的に流した。もしくは噂になっても構わないと思われているって事だ。

父様の偉そうな顔が思い浮かぶ。

『お前が持ってきた案件なのだから、最後まで責任をとれ』という、幻聴まで聞こえた気がした。

なんだろう……私が自意識過剰なのか、被害妄想が強いのか。

どちらにせよ、私のメンタルと胃に宜しくないので、深くは考えないようにしよう。

「その医療施設は学び舎も併設されると聞いて驚きました。想像の範疇を超える計画ですので、最初はほとんどの人間が懐疑的でしたが、国が動き出しているのを知って、今では皆、出来上がるのを心待ちにしているようです」

かく言う私もですが、と付け加えて、ユリウス様は笑った。

「医療従事者だけでなく、商人や学者など色んな分野の人間が興味津々で見守っておりますよ。ネーベル王国全体が活気づいているのを肌で感じます」

なるほど。病院を建てるとしたら、医師や薬師だけでなく、色んな方面が関わってくるもんね。

そこまで考えての提案ではなかったけど、良い方向に作用しているのなら喜ばしい。

「貴方様はやはり、素晴らしい慧眼をお持ちですね」

そんな事はないと慌てて頭を振るが、「ご謙遜を」と笑って流されてしまう。

違うんだ。本当に、なにもしていないんです。

ふわっとした案をぶん投げただけで誉められても、嬉しいというより逆に居た堪れない。

「私はなにもしておりません。実現しようと動いてくださっている皆様のお力です」

冷や汗をかきながら否定すると、ゲオルクは眩しいものを見るような目で私を見つめながら微笑んだ。

「……マリー様は、変わりませんね」

絶対に、謙虚だと思われてる。

違うのに! 本当に私の功績じゃないのにー!!

「その医療施設には貴方様のお名前が付けられるだろうと、市井では噂になっているようですよ」

ユリウス様の言葉に、私は笑顔のまま昏倒しそうだ。

父様に直談判してでも、それだけは阻止しなきゃと心に決めた。