軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転生王女の不安。

キレかけているクラウスを宥めすかし、何とか話の筋を本題へと戻した私は、ルッツとテオの話を聞き終えた後、彼等と別れた。

ルッツとヒルデが、今後親密になる可能性は低いと思うが、ルッツが誘拐されるフラグ自体が折れたとは思えない。

何せ敵は、一国家と繋がっている。簡単に諦めてくれるとは思えない。ヒルデが失敗したところで、次の策略を練るだけだろう。

早急にヒルデの背後の人物を炙り出す必要があると思っていたのだが、有力情報は、なんともアッサリと転がり込んで来た。

情報を持っていたのは、テオ。

ルッツとテオは、その生い立ちと生まれ持った魔力のせいで、人の悪意に敏感だ。表情や動作、言葉から、嘘や裏を読み取る事に長けている。

だからこそ二人は、ヒルデの裏に気付いた。流石に何を企んでいたかまでは分からないものの、何かしらの思惑があって近付いてきているだろう事は察していたので、距離を置いていたと言う。

彼女が積極的に絡むのはルッツだけだった為、ノーマークだったテオは、彼女の行動に目を配っていた。

そして一度だけ、ヒルデが人目を避けるように移動していた所を目撃。後を付けた彼が見たものは、物陰で男と密会するヒルデだった。

しかも揉めていた様子で、ヒルデは振り払う男に、必死で縋っていたらしい。

これはもう、黒幕コイツで当たりなんじゃないだろうか。

ヒルデと密会していた男こそが、ヒルデを唆し、ルッツを浚おうとしている犯人でファイナルアンサーだと思う。

ヒルデが悪事の片棒を担いでしまった理由は、お金でも富でも名誉でもなく、想いを寄せる男性に好かれたい一心だったとか。

そう考えると、ゲーム中でヒルデがルッツと一緒に捕まっていたのは、男に騙され裏切られたからだと推測出来る。

最初から男は、彼女もまとめて売る気だったんだろう。ルッツに言う事を聞かせる為の人質として。そして男に裏切られ捨てられたと知ったヒルデは、ルッツを拒絶した。

……なんて奴だ。

ルッツを利用しようとしたヒルデも酷いし許せないけれど、少女の恋心を利用しようとしたその男こそ、真の屑だ。許し難い。

まだ何の証拠も無い推測段階にも関わらず、私は憤慨していた。勝手な妄想がどんどん膨らみ、私の頭の中のヒルデは、初恋をひっそりと育ててきた一途な乙女になっている。

ローゼマリー・フォン・ヴェルファルト、10歳。趣味は妄想です。

まぁ、取り敢えずそれらが真実かどうかは置いて置くとして。

まずはその男について調べるべきだろう。今のところ情報はテオの目撃証言しかないけれど、近衛騎士の装束だったらしいので、そこから切り崩すつもりだ。

デリケートな問題なので、なるべく内密に調べたかったが、後手に回っている私に、選択肢は殆ど無かった。

そうこうしているうちに、ヒルデが切り捨てられてしまうかもしれないし、別ルートでルッツが攫われてしまうかもしれない。

出来る事は全部、やっておかなきゃ。

「明るい髪色で、長髪。細身で左利きですか」

私が伝えた特徴を繰り返し、ふむ、と彼は考え込む。

「はい。ご存じでしょうか?」

「そうですね。……おそらく」

私の問いに、彼、レオンハルト・フォン・オルセイン様は、さして間を置かず頷いた。

時間の差し迫った私は、てっとり早く、レオンハルト様に聞く事にした。

クラウスも近衛騎士団所属だが、彼よりもレオンハルト様の方が、視野が広い。誰とでも仲良くなれそうに見えるクラウスは、その実、とても偏りがある。興味の無い人間は視界にも入れない徹底ぶりだ。

レオンハルト様に聞いた方が、有益な情報が手に入るだろうと見越しての選択だ。決して私情ではない。……たぶん。

実際レオンハルト様はすぐに思い当ったようだが、彼は何故かすぐに教えてはくれなかった。

暫し沈黙した彼は、私へ視線を向ける。濁りのない黒曜石の瞳に見据えられると、心の内まで見透かされてしまいそうで、居心地が悪い。

「お教えする前に、一つ。何故彼をお探しか、理由をお聞かせ願えますか?」

「……それは」

私は言葉に詰まった。

本当の理由は、言えない。もしかしたら、重罪人かもしれませんなんて、証拠の一つもなく言える訳が無い。

かと言って、彼に嘘は吐きたくない。

どうしたらいいんだろう。上手い誤魔化しも思い付かないまま私は、黙り込んだ。

「自分には言い辛いお話でしょうか?」

「い、いいえ。そんな事は……」

レオンハルト様は、挙動不審な私の真意を探るように、ひたと見つめた。

ああ、やばい。嫌な汗が出てきた。

ぐるぐる考え込んでも、良い案は出てこない。時間だけが無情に過ぎ、私はレオンハルト様の前で、立ち尽くす事しか出来無かった。

「彼は、女性にとても好かれやすい男ですから、もしや」

「っ!?違いますっ!!」

俯き、焦っていた私をどう捉えたのか、話がとんでもない方向に行きかけたが、私は反射的に、彼の言葉を否定した。

弾かれたように顔をあげ、叫んだ私を、レオンハルト様は目を丸くして見ていた。

恐らく今の言葉は、本気では無い。

頑なな私の態度を緩和させる為の、冗談みたいなもの。取っ掛かりを探すような、他愛のない話題だった筈。

でも、私は流せなかった。

「……違います」

彼だけには、そんな事、言われたくなかったから。

零れ落ちそうになる涙を堪え、私は唇を引き結ぶ。

そんな私を見てレオンハルト様は、神妙な顔付きで頭を下げた。

「……申し訳ありません。下らない冗談で、貴方を傷つけてしまいました」

「…………」

無言で頭を振ると、彼は益々困った顔になった。

こういう時、自分は子供なんだと嫌でも思い知る。会話をスムーズにしたいのなら、さっきの話題には乗っかっておくべきだった。

どうせ私はまだ、十の子供。彼に恋愛対象として見てもらえるまでには、早くとも後5、6年はかかる。一途さを示すよりも、素敵な方だと耳にしたのでとか、適当に合せて情報を引き出した方が、余程有益だ。

分かっているのに、口を閉ざす事しか出来無い自分が、嫌になる。

私は、なんて融通が利かないんだろう。

「……ニクラス・フォン・ビューロー」

「……え?」

身を屈め、私の耳元でレオンハルト様は囁いた。

思わす顔を上げると彼は、微苦笑を浮かべ、私を見下ろしている。

「貴方が探していた男の名前です」

「…………」

教えて貰っても、喜ぶよりも戸惑いが勝る。さっきまであれ程渋っていたのに、何故急に教えてくれたんだろう。

困惑する私を見つめ、レオンハルト様はもう一度、頭を下げた。

「恐れ多くも王女殿下を試すような物言いをしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。ですがどうか、あの男には必要以上に近付かれませんよう」

「……」

レオンハルト様は、とても真剣な目で告げる。

その迫力に気圧され、私は身を固くした。流石、周辺諸国に名を轟かせる勇将。その鋭い眼光に晒されると、蛇に睨まれた蛙の如く、身動ぎすら出来無くなる。

私が怯えていると気付いた彼は、表情を緩めてくれたけれど……びっくりした。

「……クラウス!」

レオンハルト様は、私に泣かれては困るからか、それ以上脅す事は無かった。

代わりに、少し離れた場所に控えていたクラウスを呼ぶ。小声で何か話しているが、内容は全く聞こえない。

一体何故彼は、そのニクラスとやらを警戒しているんだろうか。

私が睨んだ通り他国と通じているにしても、ゲーム中では気付かれる事は無かった筈。もしマークされていたのだとしたら、王宮の警備を掻い潜ってルッツを浚う事なんて出来無かっただろうし。

なんか、ゲームと齟齬が生じている気がする。

「いいな」

「了解致しました。団長」

そうだ……。これもゲームとの違い。今年に入りレオンハルト様は、近衛騎士団長に就任した。

確かにゲーム内でレオンハルト様は近衛騎士団長だったけれど、現時点での就任は早すぎる。『就任したばかり』という表記がゲーム中に出て来たし、神子姫が召喚される少し前、おそらく私が14、5になった辺りじゃないかと思う。

でもこの差異は恐らく、私が絡んでいる気がするんだよね……。

5歳の頃の私が、兄に頼んで教師を一斉解雇して貰い、代わりにレオンハルト様がヨハンの剣の師となった。

その解雇された一人は近衛の騎士で、実力主義の騎士団にありながら己の身分をひけらかし、レオンハルト様を目の敵にするどうしようもない男だったらしい。

私自身は、ヨハンがまともに育てばいいなぁ、という程度の考えしか無かった訳だが結果、今まで押さえ付けられていたレオンハルト様は、実力に見合う評価をされるようになった訳だ。

……ん?

もしかして、そのせい?

彼がトップだからこそ、ゲーム内では見過ごされていた異変に、気付く事が出来ているんじゃ……。

「王女殿下。お出かけになられる時は必ず、クラウスをお連れ下さい」

「レオンハルト様……」

クラウスとの話が終わったレオンハルト様は、私へと視線を移す。気遣わしげな表情と声に申し訳なくなった。

私、随分彼を心配させちゃっているのね……。

確かにコソコソ嗅ぎまわった挙句、指摘されて都合が悪くなると黙るとか、性質悪いわ。我ながら。

「……はい」

頷くと彼は、ほっと息を吐き出し安堵した。

本当は色々調べたりもしたかったんだけど、自分の身も守れない私がフラフラしていては、レオンハルト様達の邪魔になってしまうだろう。

後はお任せして置けばいい。

そう思うのに、不安は拭えなかった。信頼していない訳じゃないのに、ゲームでの結末を知っている私だからこそ出来る事があるんじゃないかって。全て終わってから、後悔する羽目になるんじゃないかって、嫌な考えが消えない。

ネガティブな思考を追い出すように、私は軽く頭を振る。

「お時間をとらせてしまい、申し訳ありませんでした」

「……王女殿下」

「はい?」

何とか気持ちを切り替え、立ち去るべく挨拶を口にすると、レオンハルト様が何故か私を呼び止めた。

「もし」

身を屈めた彼は、私の耳元に囁く。

「もし何か思い悩んでいらっしゃるのでしたら、行動を起こされる前に自分をお呼びください」

「……っ?」

必ずお力になりますので。

そう告げる彼の顔は、酷く真剣で。

私は何と返せば正解なのか分からず、呆然とする事しか出来無かった。

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