辺境騎士団 恋のワイングラス
作者: ユミヨシ
本文
ここは魔物討伐を本業とするヴォルフレッド辺境騎士団。
四天王の一人、エダルは、ベッドで冒険記を読んでいた。
S級冒険者が書く魔物討伐記は本当に面白い。
つい時間が過ぎるのを忘れて読んでしまう。
いきなり、同室のマルクが部屋に飛び込んで来た。
「エダルぅーーー。騙された。俺、お金盗られちゃった」
エダルが身を起こしたら、背から触手を数本ウネウネ出したマルクが抱き着いてきた。
「オルディウスとの新居がぁーーー。うわーーーん」
「新居?お前、家を買ったのか?」
「うん。マディニア王国の王都に買ったんだ。土地だけだけど。頭金を払って後は分割にって話だったのにーー。頭金だけ、だまし取られたーーー」
エダルに取ってマルクは世話の焼ける同僚である。
そんなマルクは情報部の貴公子で、情報部長でもあるオルディウスに恋をしていた。
銀髪碧眼のオルディウス。皇族の隠し子だと言われている高貴な男だ。
勿論、マルクなんぞ相手にすらしていない。
なのに新居?土地をだまし取られた???
マルクは泣きながら、
「話を聞いてよ。俺さ。こんなとこ、辞めていずれアクセサリー職人になりたいんだ。高いお金払って魔族に転移して貰って、マディニア王国にあるアクセサリーショップ、ソナルデ商会でアクセサリー作りを習っているんだよ。俺の触手はアクセサリー作りに向いているんだって。褒められてさ。だから、アクセサリー職人になって、マディニア王国でオルディウスと夫婦生活を送る為に、土地を買ったんだ。家はいずれ建てるつもりで」
「ちょっと待て。お前がここを辞めたいって話、初めて聞いたぞ。俺達は四天王だ。アラフやゴルディルは知っているのか?」
「知っているはずないじゃん。俺、初めてエダルに話したんだ。俺達、友達だろ?」
「アラフ達は友でないと?」
「アラフはさ。暗いし…いつまでもメリーナって泣いているし。俺とはあわないし。ゴルディルなんて大雑把な奴に繊細な俺の相談できるわけないだろ。エダルならさ。聞いてくれると思って」
「散々だな。アラフとゴルディル。それで?ここを辞めたいって」
「いつまでも魔物討伐なんてしたくないし。屑の美男だってさらって教育?単に性の餌食にしているだけじゃん。俺は愛するオルディウスを妻にして、マディニア王国のソナルデ商会で働いてアクセサリー職人として生きたいんだ。それなのに。土地を買う為に頭金を払ったら、だまし取られてさ。俺、お金無いよ」
「マルク‥‥‥夢だけはでかいな」
「エダルだってこんなとこ、ずっといないだろ?魔物討伐だって危険だし」
「俺か‥‥‥」
先の事を考えた事、なかった。
ずっとここにいることしか考えていなかった。
今は若いからいい。
でも、将来は?これから先、どうしたらいい?
いつまで体力が持つとは思えない。
ここを追い出されたら俺は???
「ともかく、アラフとゴルディルを交えて話をしよう。一応、アラフが四天王のリーダーだからな」
「解った」
食堂でアラフとゴルディルを呼んで話をすることにした。
「ってなわけで、マディニア王国の王都で、マルクが詐欺にあったんだ」
エダルが説明すると、アラフが、
「えええっ?詐欺?金、いくら盗られたんだよ」
「俺の貯金全て‥‥‥。俺、いずれ家を建ててオルディウスと住む予定だったんだ」
ゴルディルが酒を飲みながら、
「で?オルディウスは承知しているのか?」
「この話、知らないし‥‥‥じっくりオルディウスを口説いていくつもりだよ」
エダルは頭が痛くなった。きっとアラフも同様だろう。
マルクは夢はでかいが、現実が伴っていない。
マルクが、
「俺、危険なこの仕事をいずれ辞めたいんだ。マディニア王国でアクセサリー職人になる。みんなだってずっとここにいないだろ?」
エダルは思う事を言った。
「俺はここで魔物にやられて死ぬか‥‥‥下働きでもいいから雇ってくれと泣きつくかそのどれかだな‥‥‥ここを出たって行くところがない。何をしたらよいか解らない。そもそも、公爵家に生まれたけど、無能だったからここに来る羽目になったんだ。だから、俺はここに骨を埋めるしかないだろうな」
むなしい。でも、この仕事が好きだ。
魔物討伐の仕事が好きだ。
だから、この騎士団を離れたくない。
アラフも酒を飲みながら、
「俺は、そうだな。身体が動かなくなったら、街に出て仕事を探すかな。ここにずっといたいって執着がない」
ゴルディルも頷いて、アラフに向かって、
「俺はアラフの行くところならどこへでもついていくぞ。どうせお前、今更、女と結婚なんてしないだろ?」
アラフはため息をついて、
「今更、まともな結婚が出来るとでも?俺達の悪名は知られているからな。屑の美男をさらって教育する変態騎士団」
マルクが、
「アラフが言い出したんじゃん。異世界の勇者がまき散らした病気のせいで俺達、女を抱けなくなった時期があったから。それなら屑の美男をさらって教育という名目でさ」
アラフが真面目な顔をして、
「俺は自分の尻が狙われたから、我が身が可愛かっただけだ」
エダルは皆に向かって、
「まずはだまし取られたマルクの金を取り返す事から始めないか?」
マルクが触手を背中からウネウネさせながら、
「取り返してくれるの???」
ゴルディルが、皆に向かって、
「強面を揃えよう。第一隊のガイディス隊長に相談すれば、強面を揃えてくれるだろう」
アラフが立ち上がって、
「それじゃマルクの金の為に」
第一隊の隊長ガイディスは強面だ。
アラフ達四天王が、新人の時から世話になった古株だ。
第二隊の隊長ブルガスは輪にかけて強面だ。
彼も古株で、がちがちの屑の美男推進派だ。
この二人の隊長たちが、
「解った。強面なら任せておけ。他の隊からも集めておく。20名ほどでいいか?」
「一睨みすりゃ、大抵の奴は腰を抜かす」
マルクが感激して、
「有難うございます。ガイディス隊長、ブルガス隊長。俺のお金の為によろしくお願いします」
変…辺境騎士団、強面20名が出動した。
マルクを騙した不動産業者は、恐ろしい連中に囲まれて、泣きながらお金を返してくれた。
あまりの強面ぶりに、夜な夜な、夢にうなされるだろう最高レベルマックスの連中。
その中に、しっかりゴルディルがいたのも、当然といえよう。
彼も大男で強面なので。
金が帰って来た。
マルクは皆に感謝をした。
そして、エダルにだけ見せてくれたものがある。
「これ、オルディウスの為に俺が作ったんだ。銀とサファイアをはめ込んだワイングラス。師匠にも褒められたんだ。オルディウス、受け取ってくれるかな」
情報部長のオルディウスはモテる。
しかし、この屑の美男を教育するという危険な騎士団の中で、絶対に隙を見せない男だ。
オルディウスの部屋には誰も入ったことがない。
いや、アラフだけは入ったことがあるらしいが。
マルクはアラフが入ったことがあると聞いた時に触手を床に叩きつけて悔しがった。
せめて部屋に入りたい。
このワイングラスを持って部屋に…オルディウスの部屋に。
エダルはマルクに引っ張られて、オルディウスの部屋の前に立つ。
一人だと不安だと連れていかれたのだ。
エダルにとってオルディウスは苦手だ。
ああいうちょっと気取った奴はエダルの趣味ではない。
エダルの趣味は……
ドアをエダルがノックする。マルクはエダルの後ろに箱を持って隠れていた。
ドアが開いてオルディウスが顔を出す。
「これはエダルとマルク。俺に何か用か?」
エダルが、
「マルクがオルディウスに渡したいものがあるっていうから、俺は付き添いだ」
マルクは触手でオルディウスに箱を差し出して、
「これ、俺が作ったんだ。オルディウスが好きそうなワイングラス。使ってほしくて」
「マルクはいつも俺に気を使ってくれる。有難く使わせて貰おう」
箱を受け取ってドアを閉めようとしたオルディウス。
エダルは足でドアを抑えた。
「マルクが、使う所を見たいって言っているんだ。見せてやれよ。貴公子」
オルディウスは考えるように、
「部屋はまずい。書類が散らばっているからな。食堂へ行かないか」
情報部の貴公子はさすがに用心深いようだ。
それでも、マルクは嬉しそうに、
「食堂へ行こう。オルディウス。俺のワイングラス、使う所を見せてくれよ」
三人で食堂へ行った。
箱を開けて、ワイングラスを見つめるオルディウス。
手に取って、銀とサファイアのあしらわれたワイングラスを見て、微笑んだ。
「綺麗なワイングラスだな。これを俺にくれるのか?」
マルクがもじもじしながら、
「オルディウスの為に作ったんだ。使ってくれよ」
「有難う。それなら、とっておきのワインで乾杯しようか」
オルディウスが自室から持って来た赤ワインをテーブルに置いた。
エダルがそのワインを見て驚いた。
「これって、ファイール産の?幻のワイン?」
オルディウスはマルクが作ってくれたグラスと、他に二つのグラスにそのワインを注ぎながら、
「情報を提供した礼に、とある貴族から貰った。マルクが作ってくれたグラスに初めて注ぐワイン。それなら最高の物を注がないとな」
オルディウスが持って来たワインをマルクの作ったグラスに注ぐ。
優雅な手つきで後の二つのグラスにもワインを注いだ。
綺麗な赤。幻のワイン・・・・・
三人で乾杯をする。
オルディウスはワイングラスを優雅な手つきで持って、ワインを一口飲み。
「美味いな。素晴らしいグラスで飲むワインは又、格別だ。有難う。マルク」
幻のワインは美味かった。
今まで飲んだことのあるどんなワインよりも‥‥‥
マルクは真っ赤になって。
「こんな凄いワインを俺達にご馳走してくれて嬉しいよ」
エダルも礼を言う。
「有難う。貴公子。さすが幻のワインだな」
ふとエダルは聞いてみた。
「オルディウスはずっとこの騎士団にいるつもりか?」
オルディウスはワインを一口、飲んでから、エダルに向かって、
「俺の仕事は頭脳だからな。ボケない限りはここで働くつもりだが」
マルクの触手が二本、しゅんと床に垂れ下がっている。
がっかりしているな。マルク‥‥‥
エダルはマルクの為に畳みかけてみる。
「誰かと一緒に過ごしたいと、思ったことは無いのか?」
オルディウスは笑って、
「なんだ。エダル、口説いているのか?俺を」
違うっーーーー。それは違うぞ。俺の好みじゃないっ。俺の好みは‥‥・
オルディウスは笑って、
「エダルの好みは把握済みだ。情報部長を舐めるな」
なんだかバレている‥‥‥
マルクは顔を輝かせて、
「それじゃ俺の好みも???」
オルディウスは優雅な手つきで、つまみのチーズを箱から出して、
「さぁ、どうだか‥‥‥情報部長も万能ではないからな」
「はぐらかしたっーーー」
それでもマルクは嬉しそうで。
特別なワインをふるまって貰っただけで、幸せなのだろう。
単純な奴だな。
ワインを飲み終わると、グラスを洗って大事そうに箱にしまうオルディウス。
「楽しい夜だった。そろそろ俺は部屋に戻る。おやすみ」
部屋に行ってしまった。
それでもマルクは、
「オルディウスが喜んでくれた。俺の作ったグラスをーー。今夜は寝られない」
「よかったな。マルク‥‥‥」
こいつの恋は叶いそうにはないが、幸せそうなのでいいか。
そう思うエダルであった。
翌朝、
「エダルさん。おはようございます。この間は、お仕事を手伝って下さり有難うございました」
騎士団長秘書のアルトに礼を言われた。
彼は黒髪美男でおとなしい男性だ。
エダルは慌てて手を振って、
「いや、図書を探すのを手伝っただけだから、また何かあったら」
「今度、お礼にチーズケーキでも作って差し入れますね」
アルトはお菓子作りが趣味なのだ。
チーズケーキ。アルトから???
心の中でガッツポーズをするエダルであった。
屑の美男を教育する変…辺境騎士団。
詰所の夜はどこかから悲鳴が聞こえてくるそんな夜。
エダルとマルクはそれぞれ、ニマニマと愛しい人を思いながら今宵も過ごすのであった。