軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第49話 5年間ずっと、と証言した人の声を聞いた日

エルンスト爺やが廊下に立っていた。

委員会の入口の前で、両手を前に揃えて待っていた。王都にいた頃と全く同じ立ち方だった。変わっていない。何一つ変わっていない人が、ここにいる。

「今日は青い花を持ってきませんでした」と言った。

「なぜですか」「今日は証言が仕事ですので」

ただそれだけだった。「証言が仕事ですので」という言葉が、廊下の空気に落ちた。私は何も言えなかった。爺やは「参りましょうか」と言って委員会室の扉へ向かった。

カイが私の横に立った。「大丈夫ですか」と言った。いつもの問いだが、今日は一拍早かった。「はい」「——ならいいです」「それだけですか」「……長い話になります」「なりません」「今日は少しだけなります」「……少しだけなら」

扉が開いた。

委員会室に入ると、アレクシス殿下が上座にいた。書記官が3人、記録帳を前にしている。窓の光が書類の束を白く照らしていた。あれが5年分だった。差出人欄に「マリエル・ヘルダ」と書かれた全部が、あそこにある。

書記官が「本日の審議事項を確認いたします」と言い始めた。「申請番号——記録名義の訂正に関する照合審議。筆跡照合の結果を先に報告いたします。差出人欄の筆跡は一貫して同一人物のものと確認されます。当該人物は——」

殿下が手元の書類を少し押さえた。その手に万年筆がなかった。今日も。

「証人の方、お願いします」という声がして、エルンスト爺やが立った。

「エルンスト・リーデルと申します。王宮勤務の侍従でございます」という声が室内に響いた。穏やかで、低く、5年前と全く変わらない声だった。「申し上げます」「——ミラベル・ヘルダ嬢です。5年間ずっと」

室内が静かになった。

「毎朝、薬草の束に花を添えておりました。配合の記録も。温度管理も。どれも、ミラベル・ヘルダ嬢でした。5年間ずっと、同じ人物です。一度も違いません」

私の喉が一度だけ動いた。泣かなかった。でもその動きの中に、5年分の何かが全部入った気がした。

室内の静けさが、もう少しだけ続いた。

殿下が手元を見た。書類の端に指先が触れた。触れたまま、動かなかった。

「……そうか」という声が来た。小さかった。独り言に近かった。「5年間」

誰にも向けていない言葉だった。だからこそ、室内に残った。書記官が照合書に目を戻した。カイは私の横にいた。

書記官が続けた。「以上の証人証言と筆跡照合の結果をもとに、記録名義の訂正を承認いたします。関係各位の署名を確認いたします」

カイが先に書類へ進んだ。羽根ペンを取って、証人欄に名前を書いた。速さがいつもの速さだった。日付が入った。

次に書記官が殿下を見た。

殿下が立った。ゆっくりと、書類の前に来た。羽根ペンを受け取った。一拍止まった。

その一拍が、室内で一番長かった。

「……これが」と殿下が言った。「私にできる、最後の正しいことです」

声が低かった。誰に向けた言葉でもなかった。でも聞こえた。ペンが書類に触れる音がした。署名が入った。

書記官が書類を受け取った。「確認いたします」照合書に目が落ちた。「——記録名義の訂正を、承認いたします」

平坦な声だった。感情のない、一切揺れない声だった。

その声で、5年分が動いた。

殿下が先に退室した。扉が閉まる音がした。

廊下に出ると、3人になった。カイが「大丈夫ですか」と言った。「はい」「——それだけですか」「今は、それだけです」

爺やが廊下の壁際に立っていた。私が近づくと、小さく頷いた。泣きそうな顔は私だけだった。爺やの顔は、仕事を終えた人の顔だった。

「……ありがとうございます」と言った。声は震えなかった。

「事実を言っただけです」と爺やが言った。「5年間、事実でしたので」

少し間があった。廊下の石床が光を反射していた。

「——青い花は、わたしの好みでして」

爺やが静かに言った。5年間、毎朝束を受け取るたびに言っていたのと、全く同じ言い方だった。全部が終わった廊下で、同じ言い方で言った。

喉がもう一度だけ動いた。今度は少し苦しかった。

「……来年も、届けます」と言った。「辺境から。毎年」

「はい」と爺やが言った。「楽しみにしております」

笑っているわけではなかった。でもその「はい」の中に、5年間の全部が静かに入っていた。

仮の証明書を受け取ったのは、庁舎の窓口だった。

「ミラベル・ヘルダ(現:ミラベル・ヴェストール)」という名前が書いてある。差出人欄に誰も読まなかった名前が、1枚の紙になっていた。染みの多い左手で持った。

重かった。

花1本と同じ種類の重さではなかった。これは別の重さだった。押し花の軽さでも、新しいリュゼリカの冷たさでもなく——5年間、誰も読まなかった差出人欄が、最後に全部ここへ来た重さだった。

「——5年分、全部です」とカイが言った。

「はい」と言った。「……全部」

「全部です」

何度も「はい」を言った。でも全部、違う「はい」だった。「はい」という言葉の中身が、一つずつ別の場所に入っていった。

「次の招聘が来ています」とカイが言った。「別の地域の薬草学会からです。辺境の品種について、発表の依頼が」

「……辺境だけでなく」

「はい。来月、王都で。——行けますか」

手の中の紙が、庁舎の外の光の中にあった。「ミラベル・ヴェストール」という名前が、光の中に出ていた。来月、王都で——この名前で、また声を出す。また遠くまで届かせる。

「当然です」と言った。

カイの耳が、少し赤くなった。