軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新しいお友達

「サラさん、提案なのですけど、ひとまず花園の妖精たちに来てもらったらどうかしら」

「え、ここにですか?」

「だって妖精たちならすぐ来られるもの」

「「「えっ? そうなんですか?」」」

レベッカは頷いた。

「妖精たちには、彼らしか使えない『妖精の道』があるの。それを使えば離れていても、すぐに来てくれるわよ」

『なに、それ知らなかった! 絶対に妖精限定かな。使い方教えてくれないかしら』

「サラさん、なんとなく考えていることはわかるけど本当に妖精限定よ。私も使ってみたくて確認したから」

『あ、バレた! やっぱりみんな思うことはおんなじか』

サラはやや苦笑気味に微笑みを返した。

「ひとまず、フェイを呼んで、花園にいる子たちに声をかけてもらいましょうか」

「じゃぁ私もミケに声かけたほうが良いですかね」

レベッカは周囲を見回し、少し考えた。

「ちょっと人目が多すぎるかもしれないわ。妖精が見える人は少ないけど、皆無ってわけではないから気付く人もいるかもしれないわね。私に妖精の友人がいることは知られてるから問題ないけど、サラさんはあまり知られたくないのでしょう?」

「そうですね。そのうちバレるにしても、大々的に公にしたい情報ではないですね」

『なんか狙われそうで怖いし!』

すると、勝手にミケがサラの上に現れた。

「私を呼ばないなんて酷くない? 乙女たち以外の人間に気付かれないようにすればいいってことでしょ?」

『あ、ミケって怒ると耳が倒れて尻尾膨らむんだ。ほんと猫みたいだなぁ』

などとほのぼのと見てしまうサラは、実はとっても猫好きだった。

「レベッカ先生、呼ばなくてもミケはきちゃいました」

「ええ、声は聞こえてるわ」

「私も聞こえました」

「あ、私もです」

乙女たちには声が聞こえているらしいが、相変わらず熱い話し合いをしている男性陣はまったく気づいていないようだ。

「あちらには聞こえてなさそうですし、大丈夫みたいですね」

すると乙女たちの傍に、それぞれの妖精の友人たちも姿を現した。

「あら、結局全員きちゃいましたね」

「そりゃぁ友達が困ってたら、誰だって協力するだろう?」

レベッカの周りをぐるぐるまわっているフェイは、にこやかに笑いながら言った。

「でも、そういうトコは、サラって全然わかってないの!」

相変わらずミケは憤慨しているようだ。

「ごめんね。すごくうれしいよ、ありがとうミケ」

「うん、わかればいいのよ」

ミケは機嫌をなおして、サラの髪にじゃれ付き始めた。サラがミケのおでこを指先で軽く撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らす。

「ひとまず外に出て、他の妖精さんたちを呼んでもらいましょうか。もし見える人がいても、レベッカ先生の周りに集まってるってことで誤魔化しちゃいましょう」

ひとまず熱い男性陣を放置し、乙女たちはテントの外に出て辺りを見回した。テントに入る前と比べると、周囲のライ麦はかなり刈り取りが進んでいるのが良く分かった。

「サラは刈り取りを手伝わないの?」

ミケがサラに質問する。

「うーん。手伝ったら早く終わるのはわかってるんだけど、やってもいいかちょっと悩んでるかなぁ」

「どうして?」

「目の前でサクッとやっちゃうとさ、自分たちで刈り取るのがバカバカしいって思っちゃうかもしれないでしょ? それに、思い入れがある作物っぽいから、自分たちでやりたいって気持ちもあるかもしれないなぁって思って」

このやり取りを見ていたアメリアは、「これは農家を手伝ったものとしての見解ですが」と前置きしてから意見を述べた。

「そういうサラお嬢様の気持ちも含めて、彼らに聞いてみるといいと思いますよ。これだけの畑を急いで刈り取るの、物凄く大変ですからね。今回は緊急事態でもありますし、ささっとやっちゃうほうが喜ばれると思います」

「そういうもの?」

「そういうものです」

アメリアはにこっと笑って頷いた。この意見にはレベッカも同意する。

「サラさんは自分を平民って思ってるでしょうけれど、彼らからしてみればグランチェスター家のお嬢様なの。『領主一族が、魔法を使って自分たちを助けてくれた』っていう実績を作れるって結構重要よ。いかにも貴族っぽい考え方だから、サラさんはあまり好きじゃないかもしれないけど、ここは一気にやっても良いと思うわ」

『なるほど。デモンストレーション的にも良いってことか』

「レベッカ先生、穴を掘ったり火をつけて燃やしたりしても問題ないですか?」

「きっと大歓迎だと思うわよ。特に穴掘りなんて、凄く重労働だもの」

「わかりました。では、祖父様たちに、魔法で手伝って良いかを確認して、許可をもらってきますね」

するとフェイがサラの近くに飛んできて、サラの髪を引っ張った。

「ちょっと待ってサラ。まずは花園の妖精たちを呼んじゃおうよ」

「その方がいいの?」

「あいつらだったら、この麦の病気のことも、いろいろ教えてくれると思うよ」

『そっか、その手があった!』

「それはいいかもしれませんね。フェイ、妖精たちを呼んでもらってもいいかしら?」

「任せて!」

フェイは妖精の道にスルスルと入っていった。

それを見ていたアリシアは、好奇心を抑えられずにフェイが消えた裂け目に手を伸ばして触ろうとした。しかし裂け目に触れることができず、伸ばした手はスカッと空振りした。サラとアメリアも触ろうとしたが、やはり空振りするだけだった。

それを見てレベッカも小さく笑った。

「ふふっ。昔の私と同じことしてるわね」

「これ、すごく不思議ですね!」

「本当にそうよね。でも彼らが持てるくらいの小さいモノは、運んでくれたりするわよ」

「そうなんですね。それだけでもかなり便利そう!」

不意に裂け目が倍ほどの大きさに広がり、中から大勢の妖精が飛び出してきた。到着したばかりの妖精は見たことがない景色に浮かれてびゅんびゅんと飛び交い、時折妖精同士空中でぶつかって目を回している。

『ファンタジーな光景再びって感じだなぁ』

ひとまず乙女たちは妖精たちが満足するまで、好きなようにさせることにした。あまりにも可愛いので、ほのぼのと見つめていたという方が正しいかもしれない。

しばらくすると、フェイが彼らに声を掛けた。妖精たちは一斉にサラの周りに集まってくる。中にはサラの頭の上に乗ろうとして、ミケに追い払われる妖精もいた。

「サラ~。私たちに手伝って欲しいことがあるって本当?」

「そうなの。実はね、ここのライ麦が病気になってしまったから、刈り取ってるのよ」

「病気って、これのこと?」

全身が緑色で犬のような姿をした妖精が、近くに生えていた麦の穂をパクっと咥えて放り投げた。パサっとサラの手元に落ちてきた麦の穂には、やはり黒い麦角があった。

「この子たちも悪気があるわけじゃないんだよ。自分たちを増やしたいっていうのは生き物の本能だから」

「確かにそうね。人間にとっては毒になってしまうけど、麦角菌だって繁殖のために寄生しているのだものね」

「うーん、そこまで難しいことを考えてるわけじゃないとおもうけどね」

手のひらサイズの緑犬はふわふわとサラの手元まで飛んできて、サラが握っていた麦に前足で軽く触れた。すると、麦の穂はパラパラとした粒子となって風に飛んでいった。

「サラが麦角菌って呼んでた子たちは消えたよ。まぁ麦もまとめて消えちゃったけどね。あのライ麦は変質してしまっていたから、元には戻れなかったんだ」

「変質した麦の穂ごと麦角菌を消しちゃったってこと?」

「そう。人間の言葉で言えば、殺しちゃったってことになるのかな」

その瞬間、サラはぞっとした。この妖精はサラの目の前で麦と麦角菌、もしかしたらそれ以外の微生物もまとめて死滅させたのだ。

もちろんサラだって、これから麦や雑草を刈り取り、焼却する予定なのだから、この妖精とやろうとしていることは変わらない。しかし、この妖精が一瞬で麦の穂を消滅させてしまった光景を見ると、その対象が人だったらどうしようと考えてしまう。

「サラが考えていることはわかる気がするよ。もし私が人間を麦みたいに消しちゃったら怖いなって思ったんでしょ?」

「うん。ごめんなさい。私たちのためにやってくれたのに、怖いって思ってしまって」

「気にしないでいいよ。人間ならそういう反応するのが普通だってわかってる」

緑の犬は、前足でサラの頭をポンポンと軽く撫でた。…というより肉球で頭を軽くぷにぷにした。

「私は植物を司る妖精なの。だから植物である麦の穂を、違う存在に変える力があるのよ。これは創造神から貸し与えられた私だけの能力なの」

『創造神? そんな存在がいるんだ。私を転生させたのも創造神なのかな?』

「じゃぁ消せるのは植物だけってこと?」

「消すっていうより、別の植物に換えたっていう方が近いかも」

「もしかして、麦から別の植物を作れるの?」

「うん、そうよ。さっきの子は、マリーゴールドの花に変えたんだよ」

『ナニソレ。とんでもないチートじゃない!』

「それは凄い能力ですね」

「でも、とっても魔力を使うから、普段はあんまり使わないかな」

「魔力だったら私のを使いますか?」

「サラが私をお友達にしてくれるなら、魔力を借りられるかもね」

するとミケが毛を逆立てて、猛抗議した。

「ちょっと! サラのお友達は私よ!」

「あら、お友達って一人とは限らないじゃない。私だってサラとお友達になりたいわ」

「なんですって!!」

サラの頭上で小さな犬と猫が喧嘩を始めた。可愛いが、ちょっと五月蠅い。

「ごめん、二人とも落ち着いてくれるかな。耳がおかしくなりそう」

「ちょっとサラ、この犬に道理を教えてやって頂戴」

「道理?」

「そうよ。サラは私のお友達でしょ!」

「確かにそうね」

ミケがドヤ顔で緑犬の顔に、長い尻尾をぴしゃりと叩きつけた。緑犬はミケの尻尾攻撃に怯んでサラの頭から滑り落ち、サラの肩に着地する。

「ちょっとミケ、なにしてるの。可哀そうじゃない」

「だってこの犬ったら厚かましいんだもの」

「じゃぁミケに質問だけど、ミケは自分のお友達に親切にしてくれた妖精にヒドイことしてもいいの?」

「それは…ダメだけど……」

ミケはしょんぼりと耳を伏せた。

「じゃぁ、もう一つ質問。妖精のお友達って一人しかなれないの?」

「そんなことないけど、でもサラは私だけのサラでしょ?」

「うーん。ミケにはたくさんの人間や妖精と仲良くして欲しいけどな。だってその方が楽しいと思うよ。他の子と仲良くしたって、私がミケの友達なのは変わらないでしょ?」

「それは、わかってるけど」

「じゃぁ、ちゃんと謝りなさい」

サラの肩にちょこんと座った緑犬に、ミケはちゃんと謝罪した。

「ごめんなさい。お友達を取られちゃうかもって思って、焦っちゃったの」

「いいよ。サラは素敵だもんね」

「うん! そうなの!」

「そっか。ミケが羨ましいな」

「じゃぁ、あなたもサラのお友達になれば良いと思う!」

「いいの!?」

「サラだったら大丈夫だよ!」

『あー、ミケ単純だわ。これって乗せられてるよねぇ…』

「じゃぁあなたも私のお友達になる?」

「うん、なる!」

「じゃぁ名前つけないとね。うーーーん、じゃぁあなたの名前は『ポチ』でいいかしら?」

「うん! 名前をありがとうサラ。私の名前はポチよ」