軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

些細なイヤガラセと新天地

祖父から許可をもらった1週間後、サラはグランチェスター領へと出発することになった。マリアも付いてきてくれることになったので、持っていく荷物や身の回りのことはマリアにお任せだ。

出発する前日、サラは皆が寝静まった頃を見計らって、こっそり従兄姉たちの部屋に近づいた。もちろん"些細な"イヤガラセをするためである。

まずはアダムだが、彼はメイドの下着を盗んで蒐集する悪癖があった。思春期の少年であることを差し引いても、明らかに変態であり犯罪である。アダムの衣裳部屋にこっそり忍びこみ、チェストの奥に隠してあるコレクションの箱をベッドの下に隠すように置いておいた。その箱には絵画集も一緒に収納されていたが、まぁ中身はお察しだ。

毎日部屋を掃除してベッドメイクをするメイドたちが、置かれた箱に気づかないわけがない。すぐに見つかって没収されることだろう。もちろんメイドたちから白い目で見られることは不可避である。

『必殺、オカンに勝手に部屋を掃除されてエロ本が見つかる男子中学生の刑!』

クロエには、髪から少しずつ水分が抜けていく魔法をかける。毎日時間をかけて手入れしているご自慢のブロンド(しかも縦ロール!)が、バサバサと枝毛や切れ毛だらけになるはずだ。前世の知識も動員した、地味にひどいイヤガラセである。

この"少しずつ"というのがポイントだ。時間をかけて痛んでいくため、サラの犯行が疑われる心配はない。

『秘儀、キューティクルボロボロの刑!』

クリストファーへのイヤガラセは、ちょっと苦労した。早朝に部屋をそっと抜け出し、庭の木を登ってクリストファーの部屋のバルコニーへと忍びこんだ。そして、窓越しに水属性の魔法を発動し、熟睡しているクリストファーの股間部分とマットレスに"ちょっとした染み”をつけた。うっすら黄色味がかった色を付けることも忘れない。さすがに10歳にもなってオネショとは、かなり恥ずかしい思いをすることだろう。

『奥義、うわーお前まだオネショしてんのかよの刑!』

実はイヤガラセを実行するにあたり、サラは邸にある図書室で魔法の基礎理論と初級の水属性魔法の本を読み漁った。そして、魔法の発動にはイメージが大事であることを知り、ひたすらイヤガラセのイメージトレーニングをするという地味にイヤな感じの練習をしていた。

『ふぅ、仕掛けはOK。まぁ結果を知る方法がないのは残念だけど、ひとまずこれでいいわ。本格的な復讐はもっとゆっくり考えようっと』

…… サラはまだまだやる気だった。それにしてもサラのネーミングセンスはだいぶ残念なのではないだろうか。

とにかく、無事に些細なイヤガラセを置き土産に、すっきりした気持ちでサラは旅立った。

----------

王都邸からグランチェスター領までは、馬車で3日の行程である。野営を覚悟すれば、もっと早くに到着も可能だが、サラの体力を考慮してゆっくりと街道を進み、夜は宿屋に泊まっている。

馬車に揺られながら、サラはずっと考えていた。

『ここってラノベとかゲームの世界じゃないよね?』

ちょっと恥ずかしかったが、サラは夜中にこっそり『ステータスオープン』と呟いてみたこともある。しかし、ゲームのようなステータスウィンドウが開くことはなかった。

イヤな可能性としては乙女ゲームのヒロインや悪役令嬢への転生だが、いまのところ思い当たるゲームや小説に心当たりがないので、ただの異世界転生と思うことにした。今のところは。

『いやいや、ただの異世界転生ってなんだよ』

と、セルフつっこみしつつも、ラノベの知識のおかげであまり動揺はしていない。しかし転生時に神様に会ってもいないし、チート能力をもらったわけでもない。強いて言えば低年齢での魔法発現と前世の知識はチートなのだろうが、それがどれくらい役に立つのかは未知数だ。

そんなことをつらつらと考えているうちに、サラはグランチェスター領に無事到着した。

王都邸も大きいとは思っていたが、グランチェスターの領都には複数の建物で構成された城があった。建物は建てられた時代ごとに異なる建築様式ではあるが、バラバラな印象はなく、全体が不思議な調和を保っている。

馬車は比較的新しい南側の建物の車寄せで停車した。どうやら普段の生活に使用するのは、この建物のようだ。

「はじめましてサラ。僕が君のもう一人の伯父だよ」

正面玄関までロバートが出迎えにきてくれていた。サラが馬車を降りるのに手を貸してくれたロバートは、やわらかい微笑みを浮かべて歓迎の意を示す。ロバートの顔立ちはアーサーによく似ており、サラは父を思い出して胸の奥が少しだけキュッとなった。

侯爵のウィリアムと小侯爵のエドワードはよく似た親子だと言われていたが、どうやらロバートとアーサーは亡くなった侯爵夫人に似たらしい。

「サラです。ロバート伯父様とお呼びしてもよろしいでしょうか。それともグランチェスター卿とお呼びすべきでしょうか」

ロバート伯父は一代限りの騎士爵を賜っている。この国で爵位を持つ貴族家の次男や三男は、ロバートのように騎士爵を賜ることが一般的である。騎士爵といっても実際に"騎士"というわけではなく、名目上の爵位に過ぎない。なお、騎士爵の妻までは貴族だが、その子供は平民に下ることとなる。

複数の爵位を持つ貴族家であれば、それぞれの子供に別の爵位を継承させて分家を創設することも可能ではあるが、領地の分割などで骨肉の争いに発展してしまうことを避けるため、嫡出の長男がすべてを継承するという家が多い。

「そんな堅苦しい呼び方はいらないよ。僕のことはロブと呼んで欲しいな」

「それでは、ロブ伯父様と呼ばせてください」

「伯父様ってのも本当はいらないんだけど、さすがにこんなおじさんを呼び捨ては難しいだろうから僕が妥協するしかないね」

どうやらロバートは、フレンドリーな性格のようだ。父によく似た伯父を、サラは好きにならずにいられなかった。

「ロブ伯父様、これからよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく頼むよ。男所帯だから、城全体が無骨で華がないんだよね。ぜひサラには力を貸して欲しい。この城の雰囲気を変えてくれないかい」

むさ苦しい男所帯とは言っているが、実際には侍女やメイドがたくさんいるため、まったくそんなことはない。しかし、どこか無骨な感じがしてしまうのは確かだ。

「私にそんなことできるでしょうか」

「もちろんだよ。使用人たちもみんな協力してくれるはずだよ」

ロバートが振り返ると、傍に控えていた侍女頭と思われる年配の女性と、出迎えの時に挨拶をしてくれた家令の男性が軽く会釈をする。

どうやらサラは本当に歓迎されているようだ。到着して間もないはずなのだが、サラは早くもグランチェスター領とロバートが大好きになりはじめていた。