軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

絶対カッコいい男になってみせる

踊り過ぎて疲れたサラは、臨時に置かれている木製のベンチに腰を下ろした。夜市の屋台やダンスの会場からは少し距離があり、やや暗いため周囲に人は少ない。

「スコット、水飲む?」

「いいね。凄く喉が渇いたよ」

サラは空間収納からグラスを二つ取り出し、常温の水を注いで片方をスコットに渡した。

「ふぅ。美味しいな」

「踊り過ぎたみたいね。少し足が疲れたわ」

「うーん。そんなサラに残念なお知らせがあるんだけど」

「わかってるわ。もう少し踊らないといけないのでしょう?」

「僕がソロで踊るべきかな」

「あら、私たちはパートナーでしょう?」

会話しているうちに、暗がりから数名の男たちが下卑た笑いを浮かべながらサラたちに近づいてくるのが見えた。

「ひゅーひゅー、お二人さん仲いいねぇ。どっかの貴族のお忍びかい? 地味だけどいい服着てるよな」

「っていうかお嬢ちゃん、凄く可愛い顔してるね。そんな坊やなんかポイしてオレたちと遊ばない?」

一人の男がサラに近づいてきた。

「彼女に近づくな」

「ほう、ガキがカッコいいじゃないの。そこの可愛い彼女を守りたいなら金を出しな」

「お前たちに金を払ったところで穏便に済むとは思えないんだけどな。とにかく、自分の身が大事なら彼女には近づかない方がいいぞ。これは警告だ」

スコットは腰に佩いているレイピアに手を掛け、わざとカチリと音を立てた。

「ふん。騎士見習いってとこか。だが、そんな細っちい剣で彼女を守りながらオレら全員を相手にできると思ってるのか?」

「スコットが私を守るの?」

「どうだろう。守ったほうがカッコいいかな?」

「正直、スコットにそのカッコよさを求めてないんだけど」

「ガッカリだよ」

だが、この会話を男たちは都合よく解釈したらしい。

「にーちゃん、どうやら彼女からは信頼されてないみたいだな」

「そうだね。僕があまり強くないから仕方ない」

「そりゃぁ残念だったな。じゃぁ金と彼女とついでに、そのレイピアも置いていけよ。そしたらお前は無事にお家に帰してやるぜ」

「さっきよりも要求が増えてるな。まぁ彼女は僕のものだし、このレイピアもお気に入りだからお断りだけどな」

「だから、いつ私があなたのものになったのよ。勝手に決めないでくれるかしら」

「こういうのは、言ったもん勝ちだと思うけどな」

「どう見ても、火に油を注いでるじゃない」

二人の会話に取り残された男たちは、既に刃物を手にしていた。

「お前らごちゃごちゃうるさいんだよ。良いから金目の物を寄こせ」

仕方なくスコットは抜剣して構えた。

「あなたたちバカねぇ。わざわざスコットに抜剣する時間を与えるなんて」

「やかましい!」

先頭にいた男がスコットに襲い掛かると、他の男がサラの方に近づいてきた。サラはスカートをサッと捲り上げ、一瞬男たちがスカートに視線をとられている隙に鞘ごと短剣を引き抜いた。

「おうおう、こっちのねーちゃんもなかなか勇ましいぞ」

「それはどういたしまして」

と言った瞬間、サラは飛び上がって目の前に立ちふさがる男の 鳩尾(みぞおち) に回し蹴りを喰らわせ、鞘の付いたままの短剣で男の 蟀谷(こめかみ) を強打した。そのまま男は前向きに倒れ込んで、ピクリとも動かなくなった。

「サラ、くれぐれも派手に踊り過ぎないでくれよ」

「はいはい」

その間に、スコットは最初に襲い掛かってきた男の腕を斬り付け、一気に間合いを詰めてレイピアの柄で相手を強打して昏倒させた。

「スコットも速くなったわねぇ」

「練習相手に恵まれてるからね」

瞬く間に二人の仲間が昏倒させられたことに驚いた男たちは、本気の顔になった。

「ガキども舐めるなよ。オレはこれでもグランチェスター騎士団に所属してるんだ」

「ふーん。それじゃ所属を聞いてもいいかな」

「なんだと! 見習いの癖に生意気な」

「確かに僕は騎士見習いだけど、グランチェスター騎士団に僕の顔を見て気付かない阿呆がいるとは思えないんだよ」

スコットはぶわりと魔力を滾らせ、周囲を威圧し始めた。

「お、おい。あの赤髪ってジェフリー卿の息子じゃないのか?」

「そういえばスコットって…マズい!」

「お前たちの発言は騎士団への侮辱だ。絶対に許さん」

スコットは地面を蹴り、一気に自分の周囲に居た3名の男たちの意識を刈り取った。

「う、動くな。動けばこの娘の顔に傷がつくぞ」

一人の男がサラを羽交い締めしてナイフを当てていた。

「えーっと…どういう状況?」

首を傾げながら、スコットはサラに尋ねた。

「見たままよ。わかりやすく襲われている女の子じゃない!」

「なんでその男に捕まってるわけ?」

「彼らの中では比較的清潔そうだったから」

「これって僕が助ける感じなのかな?」

「シチュエーションが大事かなぁって思って」

「まず言えることは、君のことをバックハグしてるのが気に入らない。まだ僕もやったことないのに」

「まだって、これからやる気なの?」

「一応、計画はしてるかな」

「ちょっとハンサムなのも気に入らない。そいつの顔を気に入ってるでしょ」

「まぁ蹴ったり殴ったりするのはちょっと可哀そうって思ったかも?」

だが、褒められているはずの男は、まったく意味が解らなかった。

「お前たちナイフ見えてないの? 顔に傷がつくかもしれないのに、なんで怖がらないんだよ」

男を見つめながら、スコットは深いため息をついた。

「あのさ、お前は自分の首に何があるか気が付いてないの?」

「え?」

指摘されたことで、男は自分の首に金属でできた細い糸がぐるりと巻き付いていることに気付いた。

「な、なんだこれ」

「彼女がその糸を引けば、お前の首は落ちる。良かったなハンサムな顔のまま死ねるぞ」

「え、ちょっとそれは困る。助けてくださいぃ」

男は慌ててナイフを投げ捨てた。

「うーん。顔は良いけど度胸は無いわね。台無しだわ」

「襲ってきた時点で男としてはナシでしょ? なんで僕が気に入らないヤツを助けないといけないのかジレンマを感じたよ」

スコットは男に歩み寄り、素手で男の顔を殴り倒した。相手は鼻血を出してそのまま意識を失った。

「ちょっと、鼻が折れちゃってるじゃない」

「治療しなくていいからね。それくらいじゃ死なないから」

「スコット、ヤキモチ焼いてるの? ただの暴漢じゃない」

「サラが抱きつくのを許したことが気に入らない。なんで初めてのデートなのに、他の男がサラを抱きしめるんだよ」

スコットはサラが空間収納から取り出した縄で、次々と暴漢たちを縛り上げつつ、ぶちぶちとサラに文句を言っている。

「はいはい。後で好きなだけ抱きしめて良いから」

「マジで? キスしてもいい?」

「お父様が見ても怒らない場所になら良いわよ」

「ロバート卿は、サラの髪にキスしても怒るに決まってるだろ!」

「しょうがないなぁ」

サラはスコットに近づき、背伸びをしてその頬に軽く口づけた。

「守ってくれてありがとう」

スコットは顔を真っ赤にしながら叫んだ。

「ま、待って。不意打ち過ぎる。っていうか一瞬で終わったぁぁぁ」

その頃には既に男たちは全員縛り上げられており、大半が意識を取り戻していた。猿轡をされているため彼らは何も言うことはできなかったが、全員が同時に同じことを思っていた。

『オレたちは一体何を見せられているんだ?』

たぶん、スコットのアオハルである。季節は間違いなく冬だが。そして、男たちは自分の昔を思い出し、尻の方からもぞもぞと居心地の悪い 擽(くすぐ) ったさを感じていた。

『ちくしょーーー。甘酸っぺーーーーーーーーーーーーー』

そんな暴漢を適当に転がしておき、サラとスコットは立ち去った。一応、騎士団の詰め所に報告しておいたので、そのうち余裕が出来たら彼らを迎えに行くだろう。雪まつりの時期、領都を警護する騎士団はとても忙しくなるため、かなり遅くなるかもしれない。凍傷にならないことを祈るばかりである。

「ねぇ、スコットあれ見て。凄く綺麗」

サラが指差した先には、ステンドグラスのランプがあった。四角い筒状になっており、それぞれの側面がステンドグラスになっている。どうやら中には小さな魔石灯が仕込まれているようだ。

「いろいろなデザインがあるね。気にいったのをプレゼントするよ。もうじき誕生日だろ? サラの誕生日は王都で祝うって聞いてるから、たぶん僕は参加できないと思うんだ」

スコットはサラと一緒に屋台を覗き込むような姿勢を取りつつ、さりげなくサラの肩を抱きよせていた。そのことにはサラも気付いていたが、スコットの機嫌がすこぶる良いため何も言わずスコットの望むままにさせておくことにした。

ユリの花がデザインされているランプをサラが選ぶと、スコットは包装用の小さな木箱と一緒に買い求めた。

「ありがとうスコット。凄く嬉しい」

「どういたしまして。できればサラの寝室に置いて欲しいな」

「そうするつもりだけど、どうして寝室?」

「眠り就く前に、少しでも僕のことを考えてほしいから」

「きっとこれを見るたびに今日のことを思い出すんでしょうね」

「それって最高だな!」

そして二人は再びディムナの背に揺られ、ゆっくりと乙女の塔へと戻ることにした。空には大きな満月が浮かんでおり、澄んだ冷たい空気が二人を包み込んでいる。

「サラ、寒くない?」

「うん大丈夫」

だが、スコットは後ろからそっとサラを抱きしめた。

「でも寒そうだ」

「抱きしめたいだけでしょ」

「バレたか」

「調子に乗り過ぎね」

「今夜が特別だってことは理解してるからね。今頑張らなかったら、いつ頑張るんだよ」

「スコットは本当にグランチェスター男子なの?」

「たぶん、僕と父上は祖母様の血が濃いんだろうな。この赤毛も含めて。凄く情熱的な人だったらしいよ」

「そうなんだ」

「侯爵家の令嬢で、爵位持ちの婚約者がいたらしいんだけど、祖父様と恋に落ちちゃったんだ」

「それはそれは」

「今でも語り草になってるんだけど、ダンスパーティで祖父様を酔い潰して、翌朝に同じベッドで目を覚ましたんだって。主催者のゲストルームだったから、隠すこともできない大スキャンダルだ」

「うひゃ、それは凄い」

「両家は慌てて二人を結婚させるしかなかったんだ。先代の侯爵は『花嫁を略奪するとは愉快』と言って、結婚の祝儀にと祖母様の婚約破棄に必要な慰謝料を支払ってくれたらしい」

『ほほう。泥酔してても頑張れるとは凄いな』

やはり、サラの脳内はオッサンであった。

「その夜に父上が宿ったんだって。だから小侯爵よりも父上の方が年上なんだよ」

「どうしてその夜だってわかったの?」

「結婚まで祖父様は領地で謹慎させられてたんだよ。だけど、すぐに祖母様が身籠ってることが判明してね、急遽結婚式も前倒しになったんだ」

「貴族令嬢も気合入れれば意外と自由ね」

「少数派だと思うけどね。普通はメグたちの母上みたいに、好きな人がいたって親の言う相手とおとなしく結婚するんじゃないかな」

「私は好きな人と結婚するつもりよ」

「是非とも僕を好きになってくれ。僕ならサラの自由な生き方を全力で応援するよ」

「ありがとうスコット。だけど私は……」

「だから、すぐに振ろうとしないでくれってば。もっと大人になった僕も見てから決めてほしいんだ。絶対カッコいい男になってみせるから」

「はいはい。わかったわ」

それから乙女の塔に着くまでの間、二人は何も言わずに黙りこくり、ディムナが雪を踏む音だけが響いていた。それでもスコットはサラを後ろから抱きしめることを止めず、サラも敢えて離せとは言わなかった。

乙女の塔の車寄せで、スコットはサラが馬から降りるのに手を貸した。

「送ってくれてありがとう。スコット」

「どういたしまして」

「寄っていく?」

「いや、遅いから今日はこのまま戻るよ。そうだ、サラがいない間も乙女の塔で勉強させてもらっていいかな。アダムも自習したいらしいんだけど」

「図書館までなら好きにしていいわ。ゴーレムたちにも言っておくね」

「良かった。アカデミーの試験まであまり時間もないからね」

「確かにそうね。でもマーグやミリーもいるから無理はさせないで」

「わかってる」

ふっと黙り込んだスコットは正面からサラを抱きしめ、耳元で囁いた。

「今日はめちゃめちゃ嬉しかった。ありがとうサラ」

「私も楽しかったわ。ありがとうスコット」

スコットはサラのマントのフードをそっと後ろにずらし、頭のてっぺんに軽くキスを落とした。

「また一緒に遊びに行こう」

「今度はブレイズも一緒にね」

「ちぇ。サラは手強いな。それじゃ行くよ。お休みサラ」

それだけ言うと、スコットは爽やかに微笑み、ひらりとディムナに跨って去っていった。スコットの後ろ姿を見送ったサラは、自分の頭にそっと触れてからボソリと呟いた。

「ヤバいわぁ。なかなか強敵に育ってるじゃない。ジェフリー卿に激似だからグラグラするわぁ」

「ふむ。なかなか興味深いですね。それをスコット様に伝えれば喜ばれたのではありませんか?」

背後から零号がサラに話しかけた。

「そういえば、あなたたちに見られてることを忘れてたわ」

「一応、姿は見せないよう気を遣っていたのですが」

「そういう気遣いもできるようになってきたわけね。マギおそるべし」

「一応報告もありますよ。先程、サラ様たちを襲った暴漢の正体は、騎士団に出入りしていた業者の配達員だったそうです。納品物を横流ししたことがバレてクビになり、下町で 破落戸(ごろつき) になったようですね。特に背後に組織がいる気配はありません」

「なるほどね。わかったわ」

こうしてサラとして生まれて最初のデートが幕を閉じた。