軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オレのアリシアは美人

「でも距離が離れたら通信に遅延が発生するんじゃないかと思って。それが少し心配なの」

「実験したことが無いからわからないな」

「あと、マギとの通信が切れた場合、ソフィアゴーレムの機能はどれくらい制限されるのかも心配してる」

「どういうこと?」

アリシアが不思議そうに首を傾げた。

「つまり普段のゴーレムの動きをすべてマギで制御しているのか、それともゴーレム自体がそこそこ高性能で、必要に応じてマギに問い合わせをしているだけなのかってこと」

「サラが心配してるのは、マギと通信できなくなったゴーレムが、ただのお人形になっちゃうのが心配ってことなのかしら?」

「その通りよ」

「えっとねゴーレムに搭載しているユニットが、高純度で大き目の魔石を複数個搭載している理由は、ユニットの中を小型のマギみたいに構成させるためなの。もっともマギと違って賢者は1人だけだけど。記憶させる領域も多めに取ってある。複雑な分析とかは時間がかかっちゃうかもしれないけど、会話に困ったりはしないわよ」

「アリシアは優秀過ぎて怖くなるね。オレの適当理論を短時間であっさり組み上げるとか。マジでおれの300年って何だったのかなって最近よく考えるよ」

「おじいちゃん、それは基礎研究に必要だった時間だよ。おじいちゃんの理論がなきゃマギはできてないから」

「うちのアリシアはマジで最高!」

リヒトが爺馬鹿モードに突入していたが、面倒なのでサラはスルーして話を続けた。

「それと、マギのバックアップを置くべき場所も探しておくつもりでいるわ」

「うん。場所の選定は重要だね」

「他人事みたいに言わないでよ。リヒトとアリシアには、急いで中継器を作って欲しいんだから。リヒトにはマギのバックアップも構築して欲しいし」

「中継器くらいならすぐ作れるけど、バックアップシステムはすぐには無理だ。せめて熱病が終息するまでは待ってくれ」

「もちろん分かってるわ。バックアップ置くなら建屋も必要だと思うの。それと中継器を置く場所には、今後ソフィア商会の休憩施設みたいなものを作っておこうかなって思ってる。なんなら替えの馬を用意してもいいかもしれない」

「もしかして、商会の流通網を整備するのかな?」

「ええ、その通りよ。さすがリヒトね。ロジスティクスは商売の基本だもの。ううん、正確に言えばロジスティクスも含めたサプライチェーンマネジメントが重要だと思う」

やや興奮気味にサラは捲くし立てたが、アリシアとリヒトはポカーンとした表情になっていた。

「ごめん、サラが何を言ってるか私にはわからないわ」

「大丈夫だ。オレも詳しいことまではわからないから。単語の意味はわかるんだけどね」

「まぁそうだよね。リヒトやアリシアに専門分野があるように、私にも専門分野があるってだけよ。いろいろ調べたんだけど、シルト商会はこの世界の中ではトップクラスの流通網を持ってるわ。マイアーは天性の商人なんでしょうね。悔しいけど、まだソフィア商会では太刀打ちできそうにない規模よ」

サラが悔しがるのも当然と言えば当然である。沿岸連合の特性ではあるが、シルト商会は海運事業も展開している巨大商会なのだ。陸路と海路の両方で商品を運べるというのは大きな強みである。

「でも、そんなシルト商会を敵に回してるんだろ?」

「そういうことになるわね」

「大丈夫なのか?」

「やるしかないでしょ。これはガチの戦争なんだから。で、こちらが勝てる最大の武器は通信だと思うの。情報力ね」

「うわ、前世チートがないと勝てない相手ってことか」

「否定はしない。だって、何年も前から周到に仕組まれていた計画なのよ? そう簡単に崩せるものじゃないわ。下手したら向こうの資金力で、こっちがタコ殴りにされちゃうわ」

「サラにそこまで言わせるなんて、マイアーって凄い人なのね。どうしてそう感じるのかの理屈は、錬金術師の私にはさっぱりわからないけど」

「うん。マイアーは怪物だと思う」

「ドラゴンと怪物の対決か? 前世でも怪獣映画はあんまり好きじゃなかったんだよ。悪いけどオレは避難してていいかな?」

「ダメに決まってるでしょ」

「だよなぁ」

リヒトは頭をポリポリと掻きながら、手元にメモをとっていく。

「ひとまずサラが欲しいのは中継器だよな?」

「うん」

「作るのは簡単なんだけどさ、魔力供給が問題になりそうだ。今、ゴーレムのユニットになってる魔石1つで、10日くらいしか稼働させられない。中継器なら常に稼働していないとマズいだろう?」

「待っておじいちゃん。なんでそんなに魔力消費が多いの? ちょっと魔法陣見せて」

「あ、うん」

リヒトは空間収納に手を突っ込み、ゴソゴソと中継器の設計図と魔法陣を描いた紙を取り出した。アリシアはそれらの書類をテーブルの上に広げてじっくりと眺めた。

「あー、やっぱりそうだ」

「え、なになに?」

「マギのプロトタイプと同じ無駄がある。この部分をよく見て、魔力の変換に大きなロスがあるのがわかるかな」

「え、こういうものだろ?」

「わかってないなぁ。ここをこんな風に書き換えるんだよ」

アリシアは別の紙にサラサラっと改造した魔法陣を描き始めた。

「うぉっ、そんな手があるのか。オレが40年眠っている間に世界が変わった!」

「それに、この部分だけど、サラの作った魔石は純度が高いから、こんなことする必要ないのよ。ここを直接繋いでしまえばいい。うっかり魔石を嵌め間違えたとしても、ここが安全装置になるから壊れる心配もないんじゃないかな」

「ほうほう。それなら、設計そのものをこんな風に変更もできるんじゃないか? 魔法陣もこうやって描けば、もっと魔力消費が抑えられる」

「あ、良さそう」

サラは二人の錬金術師が目の前で何について議論しているのか理解できなかった。魔法陣も上級レベルまで描けると自負していたサラだったが、そんな生半可な知識などまったく役に立たないレベルで高度な議論が展開されているのだ。

「えーっと…リヒト良かったわね。優秀な玄孫がいて」

「マジでオレのアリシアは最高だよ。すげー才能だ」

「え、やだ。それほどでもないよぉ」

『ダメだ。さっきから完全に爺馬鹿になってるわ。アリシアが優秀なのは確かだけど、”オレの”とかいう? アリシアが彼氏作ったら大騒ぎになりそう』

「それでどれくらい魔力消費は抑えられそう?」

「もう少し検討する必要はあるけど、魔石1つで3か月くらいにできるかも。1年なら4つ。念のための予備を含めて5つの魔石を使えば良いんじゃないかな」

「かなり伸びるわね。だとしたら、中継器に魔力を注ぐ専任のゴーレムを作っても良いかもしれない。液状の魔力を注いで補給するって状況を想像してるんだけど」

「まさに燃料補給だね」

「あとは、盗難をどうやって防ぐかが課題じゃないかな。魔石は値段付けられないくらい高価な代物なんだけど」

「そうだよねぇ。どうしたものかしら」

するとアリシアがキョトンとした表情を浮かべた。

「自壊するようにしたらいいだけなんじゃ?」

「魔石を壊しちゃうの?」

「壊してしまうというより、無理に魔石を持ち去ろうとしたら、魔力を放出しきってしまえばいいのよ。そういうトラップを組み込むのは簡単だし、残るのは空っぽの魔石だけだもの」

「でも魔力が空っぽになった魔石を盗まれるかもよ?」

「空の魔石に価値があることを知っているのは私たちだけだしね。盗人が見ても石墨くらいの価値しかないって判断すると思う。実際に鑑定魔法を使っても、石墨って出るはず。なんなら、こっそり中継器の近くに放出した魔力を保存しておく容器を仕込んでおくのも悪くないかも。魔力の液体を固体化するのも難しくないし」

「な、なるほど」

「まぁ魔力を放出する前に、マギの本体にいろいろ情報を送るような仕掛けもしておいた方が良いと思いますけど。相手の声を記録するとか」

「映像を記録することもできるぞ」

「そのあたりの仕組みも含めて二人に任せるわ。ひとまず沢山欲しいんだけど…今は忙しいよね?」

「うーん。設計はできると思うんだけど、製造する暇は取れるかアヤシイなぁ」

「おじいちゃんは忙しいだろうし私がやるわ。錬金術ギルドのお手伝いばっかりでちょっと飽きてたし。いつまでに作れば良い?」

「早い方が良いのは確かだけど、無理がないレベルで良いよ。ちょいちょい魔法で取りに戻ってくるから」

「その魔法、本当に羨ましいわ」

「でも場所をしっかりイメージできないとうまくゲートを開けないから、最初は実際に行った方が確実なんだよね。領都の地図はさすがに頭に入れたから、大抵の場所にはゲートを開けるよ」

「やっぱり凄いなぁ」

「じゃぁ、行ったこともないアカデミーの図書館には、どうやってゲートを開いたんだ?」

「お父様に話を聞いたの。間取りとか詳しく」

「なるほど」

リヒトは納得して頷きつつも、後でこっそり『アカデミーの図書館に連れて行ってほしい』とサラにおねだりしてみようかと算段していた。あそこには、まだまだ見たことのない資料が沢山眠っている。しかも、サラなら禁書庫でも入れるかもしれないではないか。

当然といえば当然だが、アリシアもリヒトとまったく同じことを考えていた。本当によく似た二人である。

三人が夕食を終え、リヒトが騎士団寮に戻ろうとしたところで、 俄(にわか) に塔の外側が騒がしくなった。