軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法の実験

新たなエルマ畑の管理についての話し合いが終わって簡単な昼食を済ませると、やることがまったくないサラは退屈で仕方なかった。だが、リヒトとアメリアはサラに部屋で休憩をとりつつ、可能であれば短めの”午睡”をとるよう勧めてくる。

8歳にして既にワーカホリックの片鱗を見せているサラにとって、外出して気分転換もできないような状況で、仕事もせずにゴロゴロするのは3日が限界であった。

「お父様の本も飽きちゃったしなぁ」

恋愛小説が嫌いと言うわけではないのだが、糖分を過剰摂取した気分になるため、1日当たりの摂取量は控えたいところである。

「うーん。やはりここは新しい魔法を試すしかないな。ガイアに教わった通りにやればイケると思うけど」

念のためサラは部屋の扉を魔法で施錠してから盗聴や覗き見を防止する魔法を展開し、時間が経過して空気もある”普通”の空間収納を開いた。

「うーん、この穴を入り口として設定して、その先に別の出口を作れば良いのよねぇ」

サラは入り口の穴を大きく開けたまま空間収納内に入り、出口としてベッドの上の空間をイメージして穴をあけた。ソファとベッドの間は5メートル程の距離があるが、空間収納の中のスペースは1m程度しか広げていない。

むにょんっと穴を拡げると、ベッドを上から見下ろすような位置に穴があいている。

「ちょっと調整が難しいけど、慣れればもうちょっと出口の座標の精度上げられるかな? 通る前に出口の状況が確認できるから、安心設計ではあるよね。少なくとも『いしのなかにいる』って事故は避けられそうだもの」

サラは思い切ってぴょんっと空間収納を抜けて、ベッドの上から飛び降りてみた。特に体には何の影響もなく、ふかふかのベッドの上にダイブできた。

「おおぉ。成功したー。入り口と出口を空間収納でつないでるだけなんだから、この空間を限りなく0に近い距離に設定すれば、どこ〇も〇アのできあがりよね。まぁピンク色の扉を創ったりはしないけど」

サラは空間収納の距離を5ミリくらいまで縮め、穴に飛び込めばそのまま移動先の座標に移動できるよう調整する。

「うーん。出口の座標はどこまでイメージできれば移動可能なんだろう? 行ったことがない場所でも移動可能なのかなぁ?」

サラはブレイズと出会った狩猟場近くの森をイメージし、出口に設定してみた。ところが、出来上がった出口の向こう側は、かなりの上空であった。

そっと首をだして覗き込むと、眼下には深い森が広がっている。さらに身を乗り出して周囲をキョロキョロと見回してみたところ、遠くにウォルト男爵邸が見えた。

「おお、成功してるっぽい。でも、もう少し地面に近いところに出口を作らないと危ないわね」

サラは身体を引っ込め、今度は出口を地上に近いところに設定しなおした。だが、森に足を踏み出そうとしたところで、自分が室内履きを履いていることに気付いた。

「あー、これ泥だらけにしたらマリアに怒られそう」

仕方なくサラは森の散策を断念して出口を閉じ、室内履きでも問題なさそうな王都のグランチェスター邸を出口に設定した。穴の向こう側には、サラが以前使っていた部屋が見える。

この部屋を後にしてから半年以上が経つが、今もきちんと掃除されているようだ。もっとも、主のいない部屋なので、どこかがらんとした印象がある。

サラはかつての自室に足を踏み入れ、窓の外を眺めてみた。そこは間違いなく、王都にあるグランチェスター邸であった。

「うわぁ、これ超楽しい。すっごい便利!」

それから、サラはさまざまな場所を出口に設定し、魔法の実験を重ねた。訪問したことのない場所でも、地図で座標をイメージすれば出口に設定できることも確認した。ただし、既に知っている場所に比べると、出口に設定するまで時間が掛かるようだ。

ふと扉をノックする音が聞こえてきたため、サラは慌てて転移の穴を閉じ、防音魔法を解除してから扉の外に向かって誰何した。

「マリアです。階下では午後の授業が終わったので、クロエ様、クリストファー様、スコット様、ブレイズ様がティータイムにするそうです。サラお嬢様もご一緒にどうかとお声が掛かっております。2階くらいまでの移動なら問題ないだろうと、リヒト様とアメリア様からの許可も得ています」

「嬉しい! 凄く退屈してたのよ」

サラは扉に掛けていた施錠魔法を解除してマリアを迎え入れ、着替えを手伝ってもらい、少し乱れていた髪も緩いハーフアップに纏めてもらった。

身支度を終えて扉を開けると、ドアの外にはリヒトが立っていた。

「サラ、大人しく休んでなかったことはバレてるからね」

「え、何を言ってるのかしら」

「妖精に悟られずに魔法が使えると思ったら大間違いだよ」

『そりゃそうだよね』

「だって退屈だったんだもの」

「だからって王都まで行くことないだろうに」

「うふふふ。アカデミーの秘密書庫まで覗いてきちゃった」

「その魔法は後でオレにも教えてね」

「私を部屋に閉じ込めてるうちはイヤ」

「うーん、でもなぁ…」

リヒトはひょいっとサラを抱え上げ、階段の手前で下ろした。

「身体強化せずに、ゆっくり階段を降りてみてくれるかい?」

サラはいつものように階段を降りようとしたが、足にうまく力が入らずにふらつき、階段を踏み外しそうになった。それを予想していたリヒトは、サラを危なげなく抱え上げる。

「自覚は無いだろうけど、君の筋力はかなり低下してるんだ。さすがに退屈だろうからリハビリがんばろうか。身体は若いからすぐになんとかなるよ」

『ん? 身体は若い???』

「リヒト、悪いんだけど、一旦私を部屋にもどしてくれる?」

「どうかした? 具合悪い?」

リヒトはサラを抱え上げて、パタパタと部屋に戻った。

「ミケいる?」

「いるわよー」

「ねえ、私の身体を倒れる前日の時間まで戻して」

「へ? 構わないけど。ちょっと待ってね」

リヒトがサラを床にそっと下ろすと、ミケはサラの頬に手をちょんっとあてて、サラの肉体時間を半月ほど前に戻した。傍目には変化があるようには見えず、着衣もそのままである。

ミケの魔法で身体の時間を戻したサラは、ぴょんっとジャンプしてみた。

「うん。快調」

この様子をみていたリヒトは呆れ返った。

「熱を出して寝込んだことそのものを無かったことにしたのか!」

「その通りよ」

「医者として患者の回復は喜ばしいけど、なんかインチキっていうか禁術っぽいよね」

「時を司る妖精と友愛を結んでないとできない裏技だもんね」

「まぁいいや。ひとまず今日1日様子を見たら、明日には許可出すから」

「わかったわ」

『禁術っていえば、もうひとつの魔法を試してなかった』

サラは重力から自由になることをイメージして、そっと身体を浮かせた。その様子をみていたリヒトは、思わず「ぶほっ」と噴き出した。

「サラ、仁王立ちのまま空中に浮くのやめようよ。舞〇術を使った〇子みたいだよ」

「あぁそんな感じに見えるんだ。じゃぁこれだと、もっとそれっぽい?」

サラは身体強化を調整してオーラを身に纏った。

「やべぇ…もう、サ〇ヤ人にしかみえねぇ」

「〇め〇め波の属性ってなんだろうね?」

「いや、サラが本気で撃ったら色々壊れるからやめて」

さすがに悪ノリし過ぎだったかと反省して身体強化を解いてから床に着地すると、マリアが目をウルウルさせてこちらを見ていることに気付いた。

「サラお嬢様…まるで女神様のように神々しいです!」

『なるほど。うちらみたいな前提知識がないと、こういう反応になるのか』

「マリア、これは魔法で遊んでるだけだから拝まないで頂戴。退屈だったからつい」

「素晴らしすぎます。絵に残すべきです」

「人前であまり披露する気はないから忘れてくれると嬉しいわ。それより他の人を待たせてると思うから、そろそろ階下に移動するわね」

そして、サラは身体強化の魔法を使うことなく、ぱたぱたと階下に駆け降りて行った。

「お嬢様、お行儀が悪いですよ」

「ごめんマリア。久しぶりに走れるのが嬉しいの!」

残されたマリアとリヒトは顔を見合わせて苦笑し合った。