作品タイトル不明
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3日間の狩猟大会が終了し、最終日の今日は表彰式と閉会式が行われる。
狩猟大会はポイント制の個人戦である。生息している獲物は相手の強さによってポイントが付けられているため、それぞれが狩った獲物のトータルポイントで優勝者が決まる。
トータルポイントとは別に、最もポイントの高い獲物を狩った者も表彰されるのだが、大抵は上位入賞者のいずれかであることが多い。
主催者であるグランチェスター家の成果は除外されるため、基本的にグランチェスター家の人間は狩猟場に出てもあまり積極的に狩りをせず、サポートに徹する。今回はレベッカも主催者側と見做されており、主に女性の参加者をフォローしていた。
ちなみに獲物は狩った本人の意向によって、剥製にする、毛皮を取るなどの処理が施される。加工するための職人たちは大勢待機しており、加工したものを後からそれぞれの貴族家に配送するところまでをグランチェスター家が引き受ける。ちなみに、グランチェスター家が買い上げて現金化することも可能だ。
大量の食肉や薬になる内臓などの素材も採れるため、この時期は職人だけでなく、薬師、錬金術師、商人なども大忙しである。もちろんそうした人々が利用する食堂、居酒屋、あるいは家事を引き受けるサービス業の人たちも活発化するため、この領内の経済が大きく動く時期でもある。
冬が到来する前のイベントであるため、狩猟大会期間の収入によって領民の冬支度の充実度も大きく変わってくる。なお、狩猟大会の獲物から取れた食肉の大半はグランチェスター家が買い上げて干し肉などに加工し、冬場の食糧として格安で販売される。
グランチェスター家が狩猟大会を大切にしている理由は、こうした経済効果によって領民が冬場に飢えることが無いよう気を配ると共に、獣の数を減らすことで腹を空かせた獣が民家を襲わないようにするという目的があるためだ。
晩餐会を含む閉会式は成人していなければ参加できないのだが、表彰式は夕刻から開催されるため子供でも参加できる。実際、上位入賞者への商品授与などはクロエが務めることになっており、ドレスの着付けも気合十分であった。
表彰式と閉会式にはソフィアが出席しなければならないため、当初サラは欠席の予定であった。しかし、サラとソフィアの関係を訝しんでいる人も多いため、サラは一計を案じることにした。
『この辺りで、サラとソフィアの関係性をアピールしておこう』
まだアリシアはソフィア用のゴーレムユニットを製作してはいないが、ちょっとの間なら他のゴーレムユニットでも代用は可能だとサラは考えた。
そこで、ソフィア商会で執務を手伝ってくれている小型のゴーレムと同じユニットを使い、急いで”サラ”のゴーレムを造った。ベースは28号と同じである。
「ねぇ、あなたは自分の役割を理解してる?」
「もちろんよ。サラとして親戚のソフィアに懐いていればいいのでしょう?」
ソフィアのサラは、ゴーレムのサラが笑い方や仕草が自分とそっくりで気持ち悪いと感じつつも、その手を引いて執務室を後にした。
ソフィアの執務室は続き部屋になっているため、手前の部屋には秘書の机やダニエルの待機場所がある。ソフィアはまだ人間の秘書を使っていないので、28号が机で黙々と書類を整理し、ダニエルは執務室の扉の前で待機していた。
そこにソフィアがサラの手を引いて部屋から出てきたため、ダニエルは腰を抜かすほど驚いた。
「ソフィア様…これはどういうことでしょうか?」
「ゴーレムのサラよ。サラ、挨拶して頂戴」
ソフィアが促すと、ゴーレムのサラがにこりと笑って声をあげた。
「ごきげんよう。ダニエル」
ダニエルはポカーンと口を開けて固まっていた。
「ちょっとダニエル、ちょっと驚いたくらいで固まらないで。あなたは護衛なのよ」
「はっ。申し訳ありません」
「ソフィアとサラの関係を訝しく思っている人たちも多いことだし、表彰式だけ一緒に参加しようと思ってるの」
「な、なるほど」
「それにしても、驚くほどそっくりですね」
「身体を維持しながら、動かしたり会話したりするのに凄く魔力使うから、魔力を頻繁に補充しないと長時間は稼働できないのが難点ね。まぁ表彰式くらいなら何とかなるわ。
ベースは28号と一緒だから、私の口調を真似して当たり障りのない会話なら余裕よ。ゴーレムたちが賢くて感謝だわ」
すると28号は立ち上がることなく顔を上げ「光栄でございます」と呟いた。
『どんどん人間臭くなってるわねぇ』
ダニエルはソフィアとゴーレムのサラを護衛しつつ、馬車でグランチェスター城に向かった。
事前に手紙でソフィアの正体を知るグランチェスター家の関係者には連絡済みであったため、本邸の車寄せにはジェフリー邸から先に移動していたマリアが待機していた。
「マリアさん、サラお嬢様のお着替えをお願いしても良いかしら? 今日は私と一緒に表彰式に参加する予定なの」
「承知いたしました。よろしければ、ソフィア様のお化粧直しも私にやらせていただけませんか?」
ソフィアは魔法でドレスは身に付けていたものの、髪や化粧は執務時のままだったことを思い出した。
「それじゃあお願いできるかしら」
「ではサラお嬢様のお部屋まで一緒にお越しください。護衛のダニエル様は、扉の前で待機していただけますか?」
「承知した」
最近すっかり手際のよくなったマリアは、ゴーレムのサラの身支度を済ませると、ソフィアのヘアメイクに取り掛かった。
「将来は、こうやってお嬢様の身支度をお手伝いすることになるんですね」
「その前にマリアがお嫁にいっちゃうかもよ?」
「私はずっとお嬢様にお仕えしたいと思っています。ですから『結婚したあとも仕事を続けてもいいよ』って言ってくれる相手を見つけるか、結婚しないかのどちらかだと思います」
「ええっ!? それは責任重大過ぎるわ。結婚したい相手がいたら遠慮なく結婚して欲しいわ」
「ふふっ。まずは相手を見つけるところからなので、その時に改めて考えます」
「確かにそうよね」
鏡越しにソフィアとマリアは目を合わせて微笑みあった。
身支度が終わるとソフィアはゴーレムのサラに声を掛けた。
「サラ、こっちにきてもらえるかしら? 魔力をギリギリまで補充しておかないと」
「わかったわ」
ソフィアはゴーレムのサラの頭に手を乗せ、ゆっくりと魔力をギリギリまで注いだ。
「これで数時間は大丈夫だと思うけど、あまり頻繁にマギとやり取りすると魔石の魔力が枯渇するかも」
「気を付けるわ」
「スタンドアロンでも受け答えは何とかなる?」
「普通の子供のフリくらいは余裕かもしれないけど、王子たちが来たらどうする?」
「なるべく近くにいてフォローするけど、ヤバそうなら眠いって言って逃げて。昨夜のことがあるから、アンドリュー王子もゲルハルト王太子も遠慮すると思うわ」
「了解。相手の良心に訴える作戦ね?」
「ちょっと、人聞きが悪いわね」
「あってるでしょ?」
どうやらマギは普段のサラの言動にかなり近づけているらしい。だが、あまり忠実に再現されてしまうと居心地が悪い。
「まぁいいわ。行きましょう。サラ お(・) 嬢(・) 様(・) 」
「えっと、ソフィア叔母様とか呼べばいいの?」
「そこはお姉様でよくない?」
「年齢不詳で行く方針?」
「明確な関係性をあやふやにして、親戚のお姉さん感を出したいわ」
「了解。ソフィアお姉様」
ソフィアは護衛騎士たちに守られたゴーレムのサラの後ろから、ダニエルにエスコートされて会場入りした。
サラとソフィアが並ぶように会場入りしたことで、貴族たちの目線は一斉にそちらに向いた。だが、どちらの女性も騎士が守っているため、安易に近づくことはできない。
「やぁサラ来たね。そうやって並ぶとサラとソフィアは本当によく似ているね」
先に会場にいたロバートとレベッカは、事前の連絡で二人が参加することを知ってはいたものの、サラにそっくり過ぎて若干顔色が悪くなっていた。
だが、ロバートに声を掛けられたゴーレムのサラはとても嬉しそうな表情を浮かべ、ロバートとレベッカに挨拶をした。
「お父様、お母様、ごきげんよう」
この様子を遠くから見ていたグランチェスター侯爵とジェフリーも、やはり顔色はあまり良くなかった。やはりサラとソフィアが並んでいることに違和感を覚えているのだろう。
その一方、周囲の貴族たちは、既にサラがロバートとレベッカを父母として懐いていることを認識しつつ、ソフィアとサラを見比べて血縁関係があることに確信を持った。髪の色も瞳の色も全く同じであり、姉妹だと言われても全く違和感がない。
耳の早い貴族たちは、既にアカデミーの錬金術科の教授たちが昨夜やらかしたことを把握しており、ソフィア商会の魔石に関するさまざまな技術が、当分の間は公開されることなくソフィア商会の独占になることを理解していた。
新しい酒、魔力を補充可能な魔石、その魔石を使ったさまざまな魔道具は、どれほどの富を生み出すのか想像もできない。他にも女性の心を掴んで離さない化粧品、さまざまな効能のハーブティなどソフィア商会には魅力的な商品が山のようにあった。
また、商会長であるソフィアが、『貴族男性からの求愛や求婚には一切応じない』と言うことも社交の場で話題になっていた。爵位を継承する男性から正妻にと望まれても、首を縦に振らなかったと言う噂が独り歩きし、『傲慢な女商人』『グランチェスター男子の愛妾』と蔑む貴族男性もいた。
だが、アールバラ公爵夫人であるヴィクトリアが『ソフィアは聡明で素晴らしい。女性の武器を使うことなく商売を成功させる才能の持ち主』と褒め称えると、一晩で多くの貴族女性たちがソフィアを賛美する側へと回った。つまり、ソフィアは社交界において女性から支持される存在となったのである。
そしてこの場に参加することを許された多くの商人たちは、ソフィアがジェノアのフローレンス商会の一族であると思い込んでいた。もちろん、その情報は出入りしている貴族家にも伝えられているため、水面下ではジェノアのフローレンス商会に探りを入れるよう指示した貴族家も多かった。
いずれにしても、”サラ”という存在がグランチェスターとソフィアを繋いでいることに疑う余地は無く、ソフィアとサラは社交界の話題の中心である。そして、当然のことながら、グランチェスター侯爵、エドワード、エリザベスについても、これまで以上に社交界での発言力が強まったことは間違いない。
なお、狩猟大会の優勝者はオルソン子爵家の長男であるフェリクス・ディ・オルソン、つまりレベッカの兄であった。オルソン家は家族ぐるみでグランチェスター家と付き合いがあるため、狩猟場も遊び慣れた場所であった。
なお、もっともポイントの高い獲物を狩ったのもフェリクスであり、賞品のエルマブランデーを2本とも受け取ってホクホクした表情を浮かべていた。賞品は5位入賞者の分まで用意してあるが、2位以下は瓶が小さいため、ほぼフェリクスの一人勝ちのように見えないこともない。
こうして表彰式は 恙(つつが) なく終了し、子供たちはそれぞれの宿舎へと戻った。ゴーレムのサラも護衛騎士に守られてジェフリー邸に戻され、サラの寝室にあるソファに座って魔力消費を抑えるモードに移行した。