軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

この労働時間はブラックだと思う

ソフィアの姿をしたまま図書館まで降りてきたサラを見て、スコット、ブレイズ、トマスの三人も事情を察した。

「ソフィア様のお姿でお出ましになるとは驚きました。アリシアさんはもう大丈夫ですか?」

トマスがそっと声を掛ける。

「ええ、やっと打ち明けました。アリシアには治癒魔法をかけたし、後は体力の回復を待つだけよ」

「いろいろと楽になったようなお顔ですね」

「ええ。とってもスッキリしたわ」

スコットとブレイズも安堵の表情を浮かべている。

「だけど塔に入ってきたのはサラだから、そろそろ戻らないと」

「護衛騎士の人たちは塔の一階で待機してるけど、いつ図書館に上がってくるかわかんないよ」

「分かった。ちょっと待ってて」

アリシアの実験室に入って本来の姿に戻ると、サラは近くにあった鏡で自分の姿を確認した。ミケもふわふわ横に浮いている。

「ねぇミケ。さっきの理屈で行けば、自分も変えられるってことよね? 自分自身をイメージに沿って作り変えられるってことでしょう?」

「それはおススメしないわ。ゴーレムみたいに魂の入っていない入れ物を組み上げたり 解(ほど) いたりするのは大丈夫だと思うけど、魂の入っている身体を解いてしまうとどうなるかわからない」

「でもミケの魔法で私は姿を変えてるよね?」

「私の魔法は存在している肉体の時間を操作しているけど、存在を解いているわけじゃないもの」

『また魂の話かぁ。正直よくわからないのよねぇ』

「じゃぁ私が私自身を解いちゃったら、魂がどこかにいっちゃうってこと?」

「実際にどうなるかは私にもわからない。存在が曖昧になって、身体をもう一度組み上げられないんじゃないかって予想はしてるけど」

「え、ナニソレ怖い」

「私が見たことがあるわけじゃないんだけど、『妖精の道を通ろうとした人間は妖精になってしまうから人間には戻れない』って妖精たちは信じてる。妖精の道は身体を解かないと通れないから」

「だから妖精しか使えないのね」

「そういうこと」

その説明を聞いて、サラはどうしても疑問に思うことがあった。

「じゃぁお使いをお願いした手紙とかお酒ってどうやって運んでるの?」

「空間収納に入れておいて、後から取り出してる」

「収納魔法をつかってるってこと?」

「うん。人間の魔法みたいにあまり大きな空間は作れないけどね」

「どうして?」

「あんまり大きな空間をイメージするのは得意じゃないみたい。得意な妖精もいるかもしれないけど私は無理かな」

「ねぇ、空間収納って生物は入れられる?」

「入れようと思えば入れられるわ」

「どういうこと?」

「収納魔法を使う人が『イメージできる環境』の空間ができるのよ。だから時間が流れない空間とか、逆にすごく時間の流れが速い空間とか、凄く寒い空間とか、そもそも空気が無い空間とか色々つくれるから、生物が生息できる環境の空間を作るって感じ?」

「え、それじゃぁミケに手伝ってもらわなくても、お酒すぐ熟成できるじゃない!」

「………言われてみればそうかも?」

『なんだろう…この短時間で一気にチート能力が増大した気がする。そろそろ本気で神様に会えそうな予感してきたよ。冷凍倉庫とかあっさり作れちゃうじゃない!?』

相変わらず訳が分からないレベルのチート能力に頭を抱えつつ部屋を出ると、スコットたち三人は既に帰り支度を済ませていた。そのまま階下に降り、護衛騎士と合流して一緒にジェフリー邸へと帰宅した。

ジェフリー邸にはグランチェスター侯爵、エドワード、ロバート、そして家主であるジェフリーが待っていた。

「どうしたんですか? 狩猟大会中だというのに皆さんお揃いで」

「お前は暢気だなぁ。王子と同行したアカデミー関係者を拘束したんだ。問題にならないわけないだろう」

エドワードが呆れたように声を上げた。

「ですが、勝手に乙女の塔に不法侵入した挙句、護衛のゴーレムに攻撃魔法を仕掛けたのはあちらです」

「まぁ確かにな。グランチェスターとして抗議もしているんだが」

「問題がありましたか?」

「アカデミーの連中は『訪問したいという書状に返答がなかった』と言っている」

「それは事実ですね。あのように失礼な方々をお招きする気にはまったくなれませんでしたので」

「だが、相手はアンドリュー王子殿下の同行者でアカデミーの教授陣なのだ」

「だから無礼が許されると? 随分と舐められたものですね」

侯爵は興奮気味のエドワードの足りない言葉を補完するように言葉を繋いだ。

「あちらは『丁重にお願いしたが、返答がなかったため、致し方なく許可を得ないまま訪問したところ、ゴーレムに捕縛された』と主張しておる」

「私たちはアカデミーに論文とサンプルの魔石を提出済みです。論文に書かれている以上の情報を開示する気が無いのに、訪問したいと申されても困ります」

「アンドリュー王子は一行の釈放とアリシア嬢の出頭を求めておいでだ」

「お待ちください。今、『出頭』と申されましたか?」

「うむ。書状にはそのように書かれている」

「まるでこちらが犯罪者のようではありませんか。彼女が何をしたというのです!?」

「ゴーレムがアカデミー関係者に危害を加えたと主張しておるそうだ」

『あのクソジジィども!』

「とにかく彼らはアンドリュー王子に助けを求めたわけですね?」

「そうだ」

「では私がアンドリュー王子にお会いするしかありませんね。乙女の塔の所有者であり、ゴーレムに警備するよう手配した張本人は私ですから。アカデミー関係者たちはアリシアを引っ張り出せずに悔しがるでしょうけど」

ロバートが心配そうな顔をしてサラを見た。

「サラ…相手は王族だ。怒りのあまりキレたら、不敬罪に問われるかもしれない。下手をすれば叛逆だと見做される。領内で身内に接するのとは違うんだ」

「わかっています」

「ゲルハルト王太子殿下については、あちらがあまりにも強引であったため、こちらも相応の対応ができた。だけど、ゴーレムに対して魔法を放ったというのは、せいぜい器物破損の罪にしか問えない。この件をアンドリュー王子がどのようにお考えになるのか、正直読めないんだ」

「それでもお話し合いをしなければ、解決はできません」

「そうなんだが…8歳の女の子をそんな場に連れていくなんて…」

「お父様、私は連れていかれるつもりはありません。自分で行くのです」

「僕も同席するからね!」

「それは構いませんが、お父様は単なる付き添いです。メインは私です」

「どうしよう、不安しかない」

ジェフリーは騎士団に届いたアンドリュー王子からの書状を再度確認した。

「アンドリュー王子殿下は、アカデミー関係者の即時釈放と『ゴーレムをけしかけた人物』の出頭を要請しています。確かにこれを見れば、アリシア嬢ではなくサラお嬢様の方を呼んでいるというのは正しいのかもしれませんね」

「いつまでに出頭すればいいの?」

「可及的速やかにとのことです。明日以降も王子の予定は詰まっていますから今夜と言うことでしょう」

「わかったわ。また夜更かしになっちゃうわね」

「まずは手早く夕食を済ませ、少しお休みになってからにいたしましょう。あちらも晩餐会がありますから、それほど早くは時間を取れないはずです」

「夜中ってことか…健康にも美容に悪いわね」

サラがため息をつくと、両脇に座っていたスコットとブレイズがサラの右手と左手をそれぞれギュッと握った。

「あなたたちまで心配しないでよ。大丈夫だから」

「さすがに王子様が相手だと心配だよ」

「一昨日は隣国の王太子で、今日は王子とアカデミー関係者か…サラは忙しいね」

「う…、ちょっと自分でもそう思う」

グランチェスター侯爵はパタパタとアンドリュー王子との会談を22時に設定し、同行してきた家令のジョセフに命じてサラが訪問する際の馬車を手配した。王族が寝泊りする旧館に向かう以上、馬車にも相応の格が求められるためだ。

また、サラにはグランチェスター侯爵、エドワード、ロバート、レベッカが付き添い、ジェフリーが直々に護衛として数名の騎士を従えることになった。

「なんとも 物々(ものもの) しい顔ぶれですね」

「お前は本当に緊張感が無いヤツだな」

「緊張しても仕方がないではありませんか。そもそもこちらに非はありません。エドワード伯父様は、どうしてそのように緊張されるのですか?」

「お前の暴走が怖いからだ! いいか、治せば良いなどと 嘯(うそぶ) いて王子の顔に傷をつけたりするなよ?」

「しませんよ。あんなに綺麗な顔なのに!」

「私の顔は綺麗じゃないから構わんというのか!! お前本当に失礼な奴だな」

「エドワード伯父様もそのお歳にしては綺麗な方かと」

「いい歳してて悪かったな」

「エドワード伯父様って面倒くさいっ」

「お前がいうな!」

侯爵とロバートは顔を見合わせた。

「お前たち仲良くなったな」

「「なってない!」」

「サラ…息がぴったり過ぎてちょっと妬ける」

どうやらグランチェスター家において、緊張感はあまり仕事をしないらしい。

サラは湯浴みのために湯を運ぼうとしたマリアを押し留め、自分で浴槽に水属性の魔法でお湯を溜めた。

「サラお嬢様、便利ですね」

「最近、生活魔法の使い方のコツを覚えてきた気がするのよね。ドレスの着替えも楽にできるようになったわ」

「私の仕事が無くなりそうで怖いです」

「そんな風にはならないと思うわ」

というサラの言葉通り、マリアは浴槽に浸かったサラの身体と髪を丹念に洗った。お風呂上りには身体に良い匂いのするボディクリームを塗り込み、髪は軽くタオルで水分を取ったあとに同系統の香りのヘアオイルを馴染ませた。

「お嬢様、いつものように髪はタオルで軽く拭いました」

「ありがとう」

サラは火属性と風属性の魔法で温風を髪にあてつつ、余計な水分を水属性の魔法で弾いた。最初は恐る恐る使い始めた魔法だったが、慣れれば手を使うこともなく簡単に髪が乾かせるようになった。

「その髪を乾かす魔法ですが、火属性と風属性なので、グランチェスター家の他の方も真似したそうですが、サラお嬢様のようにはいかなかったようです。ロバート卿は火炎放射になっちゃったらしいですよ」

「それは新しい攻撃魔法おめでとうって感じね。髪を燃やしてグランチェスター男子で初めての禿げにならなくて良かったわ」

「それにしても凄い制御能力ですよね」

「生活で使う魔法は、こんな風に直接魔法を発動するより魔道具にしてしまう方が良いんでしょうね。自分で制御するよりずっと楽だし」

「きっと売れますよ!」

「そうかもしれないけど、今は新製品作ってる余裕がアリシアになさそうなんだよねぇ」

「ではサラお嬢様は、アリシアさんのために目の前の問題を片付けないといけませんね」

「確かにそうね」

湯浴みを終えると、サラの部屋に軽食が運び込まれていた。優雅に夕食を食べるよりも仮眠する方を優先しろと言うことだろう。

サラは簡単な食事を済ませると夜着に着替えて、素早くベッドに入った。今日は忙しかったせいで疲れており、マリアが21時に起こしに来るまで軽い眠りに就いた。