作品タイトル不明
最高に面白い仕事
乙女の塔に駆け込んだサラは、玄関先で待っていたブレイズに教えられた通り、アリシアが休んでいるという部屋へと向かった。
アリシアの私室は、予想以上に可愛らしい小物であふれていた。
「こんにちは。アリシアさん、大丈夫?」
「あ、サラお嬢様。すみませんご心配おかけして」
「ううん。気にしないで」
すると横でアリシアを看病していたテレサが、ポツリと言った。
「アメリアさんが言うには、悩みすぎだそうです。原因は塔を訪ねてきた錬金術師たちのせいでしょうが…」
「ごめんなさい、私が彼らを煽るようなことをしちゃったから、アリシアさんに負担をかけてしまったんですね。もうちょっと根回しとかすべきでした」
「いいえ。乙女の塔で研究を続けていれば、遅かれ早かれこういう事にはなったはずです。たとえ論文をアカデミーに送らなかったとしても、ソフィア商会の商品を見た錬金術師たちが黙っているはずがありません。きっと押し寄せていたはずです」
痛むのだろう。やや顔を顰めながらも、アリシアは毅然と言い切った。だが17歳の女の子に大勢の大人たちが、あのような態度で訪ねてくればストレスにもなるだろう…。
「アメリアさんはどこ?」
「実験室でお薬を作っていらっしゃるかと」
「ちょっとお話してくるわ。少しだけ待っててね」
サラは実験室に居るアメリアの元に急いだ。
「アメリアさん、アリシアさんの状態を教えて貰って良いかしら?」
「サラお嬢様いらしてたのですね」
「今来たところよ。ごめんなさいね、ずっと大変だったって聞いたわ」
「私は良いのですが、アリシアさんの胃は穴が開く寸前です。ひとまず投薬治療はしていますが、胃の痛みを取るのは難しいので…」
「私が治癒魔法を使うわ。だから気力を補う方をお願いしたくて」
「それならひとまずは落ち着きますね。ただ、根本原因を排除しないと再発しそうです」
「外で騒ぎをおこした錬金術師たちは騎士団に連行してもらったわ。今頃騎士団本部でコッテリ絞られてるはず。祖父様からアカデミーにも抗議が行くでしょうし、先頭にいたアカデミーの教授の実家も例外じゃないでしょうね。祖父様の性格から考えると、多分王室にも抗議文を送ると思う」
「それで収まるでしょうか?」
アメリアの表情は暗い。
「正直言えば期待薄かもしれないわ。アリシアさんの発見は、魔石の価値を大きく変えてしまう恐ろしい技術だから」
「それほどですか?」
「そうね。国同士が争ってもおかしくないレベルだと思うわ。おそらく、どこかでこの情報は広く世界中に広めることになると私は考えてるわ」
「アリシアさんは凄いですね」
「他人事みたいな顔してるけど、アメリアさんだってこれから先は大変よ?」
「え、私がですか?」
「女性の、ううん男性もかもしれないけど、“美”に対する欲望を甘く見たら駄目だと思うの。それと、その…男性向け製品は花街から苦情出るレベルだったから、口コミで売れそうな予感がしてるのよね」
「あ、アレですか…」
「そのせいかもしれないんだけど…」
「どうされました?」
「お客様からソフィア商会に凄く問い合わせが殺到してるらしいの、えっとその…相手を積極的にするものはないかと……これは男性と女性の両方から需要があるそうよ」
「あぁ、まぁ必然的にそうなりますよね」
8歳と19歳の乙女の会話としては不適切な気もするが、商会の商品開発としてはかなり真面目な話でもある。
「ただ、それを犯罪行為に使われたりするのが怖くて」
「確かにそうですね」
「頭の痛い問題になりそうだわ」
サラが開発商品についての懸念を上げている間に、アメリアはアリシア用に気力を回復する薬湯を作った。蜂蜜を入れてほんのり甘くするのは、アメリアの優しさだろう。
サラとアメリアは一緒にアリシアの部屋に戻った。サラが光属性の魔法でアリシアの胃腸を治癒すると、すかさずアメリアが薬湯をアリシアに飲ませた。
「アリシアさん、具合はどうかしら? 即効性のある薬湯ではないから、今はまだ倦怠感があると思うのだけど、明日にはよくなると思うわ。サラお嬢様の魔法で胃腸は治ってるはずだけど、念のため今日の食事は胃に優しいモノにしましょうね」
「ありがとうございます。サラお嬢様、アメリアさん。痛みが消えて楽になりました」
「こんな風になるまで来られなくてごめんなさい」
「仕方ありませんよ、大忙しなのはわかっていましたから」
ふっとアリシアが笑った。横に居たテレサも釣られて笑い出した。
「ふふふふ。あの錬金術師たちの間抜けな姿見た?」
「魔法を発動した瞬間、ゴーレムたちが一斉に態度を変えて、顔が真っ青になってたよね」
「護衛の剣はゴーレムに当たったらポッキリ折れるし」
「「あはははははは」」
アリシアとテレサは壊れたように笑い始めた。その様子をポカーンと見ていたサラとアメリアも、自然と微笑みが零れた。
「私、アカデミーのことをずっと『権威主義』って思って馬鹿にしてたんですよね。だからアカデミーの試験を受けに行ったときも、『あなたたちが馬鹿にする女に論破される気分を味わえ』みたいな気分でいました。今思うと生意気な子供ですよね」
「だけどアリシアは優秀なのに女の子だから入れないなんてオカシイよ!」
「それはアメリアさんもだよね。それにテレサだって鍛冶師のギルドに加入できないじゃない?」
「確かに私は悔しかったですね。正式な薬師としてギルドに登録できませんから。何よりご指導くださったアレクサンダー様に申し訳なくて」
「アレクサンダーさんは、アメリアさんをアカデミーに行かせたかっただろうなぁ」
「きっとフランさんだってテレサさんが、正式に鍛冶師としてギルドに登録できないことを一緒に悔しがってると思いますよ?」
「そうかなぁ」
「そうですよ!」
ふふっと可笑しそうに微笑んだアリシアは、サラに向かって語り掛ける。
「だけどサラお嬢様、私は乙女の塔に来て『アカデミー卒業』とか『ギルドに認められた』っていう肩書がなくても、最高に面白い仕事ができるって気付いたんです。あんな馬鹿みたいに魔石使わせてくれたり、ゴーレムをサクッと魔力で作ってくれたりする職場って他にないですから」
「それは間違いないわ! 私もサラお嬢様の武器を作るのが最高に面白いもの。それに気が付いたら武器以外の商品も作ってるし。まさかアリシアの描いた魔法陣を金属加工するとは思わなかったわ」
「よくあんな細かい細工ができるもんだと驚いたのはこっちよ」
「うーん。私から見たらお二人とも天才に見えるんですけど」
「「それをアメリアさんが言う!?」」
テレサとアリシアが同時に叫ぶと、三人はけらけらと笑い出した。
「結局、肩書に縛られた権威主義なのは私も同じだったのかもしれません。ゴーレムたちに捕まるアカデミー関係者見てたら、つまらないことにこだわってた自分が馬鹿馬鹿しくなっちゃって。あははは」
「確かに面白かったですよね。それに、私も最近はギルド公認の薬師じゃなくてもいいやって思ってたところでした」
「だよね!」
「じゃぁ、もう胃は痛まないかしら?」
「多分大丈夫です!」
「よかったわ。アリシアさんの胃がこれ以上悪くなったら、どんな薬にすればいいか悩んでたんです」
突然、テレサが真顔になってアメリアを見た。
「ねぇ、ずっと気になってたんだけど、アメリアって呼んでいい? 私のこともテレサって呼んで欲しいな。もう友達でしょう?」
「あ~、ずるい。私もアメリアって呼びたい! 私のことはアリシアで!」
「えっとテレサとアリシアね? 改めてよろしく?」
ちょっとだけ照れたように顔を赤らめたアメリアがあまりにも可愛らしく、アリシアとテレサは同時に悶絶する。
「今の表情ヤバい! 年上とは思えない可愛らしさだわ」
「これ見たらアレクサンダーさん即オチだよね?」
サラはちょっとだけ疎外感を感じて寂しくなった。
「いいなぁ。私も仲間に入りたい……」
「サラお嬢様とはさすがに身分が違いますし、もうじき本当に子爵令嬢になるって聞きましたよ?」
「つまんない」
するとテレサがニヤリと笑った。
「でもサラお嬢様は私たちに秘密を明かしてくれてないしなぁ」
「あぁお友達にそれはないですよねぇ」
「私もちょっぴり寂しいですね」
乙女たちはサラを見てニヤニヤ笑っている。
「はいはい。バレバレなのはわかりました。ちょっと待ってね」
サラはごそごそと物陰に隠れてミケを呼んでソフィアに変身する。
「この姿なら、同じ年くらいだしソフィアって呼んでくれてもいいんじゃない?」
「やっと言ったわね」
テレサが呆れたような声を出す。
「やっぱりバレバレ?」
「それもあるけど、私たちだって名づけができてないだけで、妖精とは友人だもの。結構早い時期に教えて貰ったよ? 変身には凄く魔力が必要なのに、ソフィアは1日に何回もあっさり変身しちゃうから妖精もビックリらしいよ」
「あ、妖精への口止め忘れてた!」
「そういうとこ迂闊だよね」
「ソフィアらしいとは思うんですけど、気を付けてくださいね?」
アリシアもアメリアも、ちゃんとソフィアと呼んでくれていた。
「まぁ集落の女性たちからも同じようなこと言われたし、きっとコーデリア先生も同じこと考えてるよね」
「顔立ちがそっくりということより、仕草や会話の内容でバレますよね。それにあと数年したら、どうやっても誤魔化せないんじゃないですかね」
「そうなんだよね…どうしよう…そのうち同席とか求められそうな気がするのよ」
すると、にゅるんっとミケが姿を現した。
「だったらゴーレムのソフィアを作れば良いじゃない!」
「へ!?」