軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

商工業だって負けてられない

エルマ酒の話を横で聞いていた商工業担当文官のカストルも、負けじと特産品をアピールする。

「数年前に発見された魔石鉱山からは、かなり質の良い魔石が採掘されています。採掘量はまだ少ないですが、拡張を検討してみても良いのではないでしょうか」

ロバートは頷きつつも、厳しい表情を浮かべた。

「確かに魔石鉱山からは、火属性や土属性の魔石が採れてるね。でも、全体に採掘量が少ないし、周辺は魔物が出没する危険地域でもある。採算という点では微妙じゃないかなぁ」

「伯父様、不勉強で申し訳ございませんが、魔石とはどのようなものなのでしょうか」

「いまさらサラに不勉強とか言われると、こちらが恐縮してしまうのだが…」

するとレベッカがロバートの後を引き継いだ。

「まだサラさんは魔法の授業を始めていませんから仕方がないわよね。魔石とは、その名前が示す通り、魔法を内包した石のことなの。魔法には『火』『水』『風』『土』『光』『闇』『無』という7種類の属性があるのだけれど、魔石はこのうちのいずれか1種類の属性を帯びているわ。魔石があれば、その属性に適性がない人でも、魔石の属性魔法を使用することができるの」

「それは、魔力を持たない平民でもでしょうか?」

「ええ、そうよ。たとえば弱い火の魔石は、平民の家庭でも火種として利用されているわ」

「それは便利ですね!」

この世界には魔力を持っている人と持っていない人が存在する。魔力持ちの多くは貴族であるが、平民にも魔力を持って生まれる人はいる。魔力の有無は遺伝的な要素が強く、貴族は魔力持ち同士で婚姻することが多い。平民でも強い魔力があれば貴族家の養子となって、貴族と婚姻するケースもある。逆に言えば貴族として生まれながら、魔力を持たない、あるいは魔力が弱い場合は肩身が狭い思いをする。しかし、魔石があれば問題は解決しそうではないか。

「でもね、魔石の魔力を使い切ってしまうと、魔石はただの石になってしまうの。だから平民は一つの魔石をとても大事に使っているわ」

「消耗品なのですね。ところで魔石は高いものなのですか?」

「含まれている魔力量や、魔力の質によるわね」

「魔力の質、ですか?」

「質が高いと、より高度な属性魔法を使用できるの。平民が火種に利用する火属性の魔石なら小さなファイアーボールを出せる程度だけど、これが特級ならインフェルノみたいな上位魔法も使えることもあるわね」

『それって大型爆弾と一緒ってこと!? ナニソレ魔石怖い!』

「ただ質が良いと魔力量も少ないことが多くて、実際に大量の魔力を必要とする上位魔法を使える魔石はほとんど存在しないわ。あったとしても王家に献上されて国宝のような扱いになるわ」

サラはそこで少し考えた。魔石でできることが怖いなら、人が魔法でやったって怖いのは変わらない。魔力が高い人はそれだけで歩く破壊兵器ではないか。

「レベッカ先生、強力な上位魔法を使える人ってどれくらいいらっしゃるのでしょうか」

「うーん。宮廷魔導士のほとんどは上級魔法を使えると思うけど、最上級魔法となると今は魔導士長くらいしか使えないかもしれないわ。あとは国王陛下も最上位魔法を使えるはずよ」

「それって、いつでも攻撃できる武器をお持ちということですよね」

「最上位魔法は詠唱にとても時間がかかるの。確かインフェルノには2日くらいかかるって聞いたことがあるわ。しかも、詠唱中はずっと集中してなくてはならないらしくて、その間は食事もお手洗いもいけないそうよ」

『え、なんかちょっとキタナイ』

サラは誤解しているが、実は最上位魔法の詠唱中は身体の代謝機能が極端に低下するため、トイレに行きたくなることはほとんどない。詠唱直前からトイレを我慢している状態でもない限り、それほど困ることはないのだ。

「つまり、よほどのことがない限り最上級魔法は使われないということですね」

「その通りよ。それに最上級魔法は膨大な魔力を必要とするから、国王陛下でも魔力が空っぽになってしまうんですって。王室のしきたりで、王子が立太子する際には最上位魔法を使って国民に魔力を示す儀式があるのだけど、今の国王は立太子の儀式の後、魔力切れで3日も起きられなかったそうよ」

やや話題が横道に逸れてしまったしまったため、ロバートが口を挟んだ。

「まぁそういうわけで魔石は貴重ではあるんだが、魔石鉱山の周辺は通常の獣以外にも、魔物がたくさん生息していて、かなり危険な位置にあるんだ。採掘量もあまり多くないので、冒険者ギルドに依頼するだけの価値があるかどうか…」

「事前に魔導士ギルドに依頼した調査結果からは、埋蔵量も期待できるとのことでした」

「うーん。今は手元不如意だからね。現状の困難を乗り越えてからでなければ、資金を投入することもままならないんだよね」

ロバートの言うことは正しい。今のグランチェスター領では、鉱脈を拡げるための資金を調達することも難しいのは確かである。

「でも伯父様、余裕ができたら是非とも手をつけたい分野ではありますよね」

「確かになぁ」

カストルは嬉しそうな顔を浮かべている。

「可能でしたら、なるべく早めのご対応をお願いできませんでしょうか。実は鉱山周辺には良質な薬草が採取できるので、貧しい女性や子供たちが危険を顧みずに摘みに行くことが多いのです」

『え、いま薬草って言った?』

「ちょっと待ってください。つまり魔石鉱山付近は、魔石だけではなく薬草も採取できる重要な場所ということですよね? しかも質の良いお薬を作れるんですよね?」

「はい。サラお嬢様の仰る通りです」

「伯父様は、ご存じだったのですか?」

「いや、薬草については知らなかった。そもそも薬草摘みは領民たちが片手間にやる小遣い稼ぎだから、領が管理するようなことでもないしね」

「何を仰っているのですか!」

サラはロバートに向けて一喝する。

「命の危険がある場所にもかかわらず、領民たちがお金を稼ぐ手段として薬草を摘んでいるのです。しかも、作られるのは領民の命や健康を守るお薬ではありませんか。これを保護しないで、何を保護するというのですか。今すぐ魔物狩りを行うべきです。薬草と魔石の両方の採取に役立つのですから、一石二鳥ではありませんか」

「う、わかった。まずは冒険者ギルドに依頼を出そう。その結果次第で、グランチェスター騎士団を出動させるかどうかを決めるとしよう」

サラの迫力にロバートはたじろぎ、ひとまずやってみることにした。レベッカや文官たちも同様に驚いたが、中でもカストルは感動に目を潤ませてサラを見つめている。

グランチェスター領では、あまりにも小麦が優先されていたため、カストルの担当している商工業の諸問題は、ついつい後回しにされがちであった。しかしサラはカストルの報告に重きを置き、代官であるロバートに真向から反論してくれた。カストルにとって、サラが女神に等しい存在となった瞬間でもあった。