軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

失われた知識

「まさかグランチェスターにこれほど妖精と友愛を結んだ人物が増えるとは思っていなかったな」

侯爵の発言に腕の中にいたミケが反応した。

「昔は人間と妖精はもっと近くて、もっと仲が良かったのよ」

「そうなのか?」

「うん。人間の魔力はもっと多かったし、私たちを見つけられる人もすごく多かったの」

「ほうほう」

するとトマスが興味深げにミケに近づいてきた。

「ミケ殿、もう少し詳しく教えてくださいませんか?」

ミケはふわふわと浮かんで講義をするように話し始めた。

「人間の言葉で説明するのは難しいのだけど、重要なのは『認識する』ってことかも。妖精って基本的には魔力と同じものなの。魔力が集まってぼんやりとした『自我』が芽生えたのが妖精って思って良いわ。だから、あまり明確な形や意思は持っていないことが多くて、なんとなく興味がある『事』や『物』に惹かれたり、勝手に記録したり記憶したりする」

「ふむふむ…」

「そして時折、生き物の中には魔力を操作できる個体が生まれることがある。特に人間にはそうした個体が多く生まれるのよ。彼らは私たちのように魔力を操作して、魔法という現象を引き起こすことができるの。しかも、身体の中に魔力を取り込むことで、魔力に指向性を持たせることができる」

「指向性?」

「あなたたちの言葉で言えば『属性』ね」

ミケはサラの肩に飛び乗り、「ちょっと魔力をもらうね」と断りを入れてから、サラの目の前に小さな炎の玉を出した。

「人間はこれを火属性の魔法って思ってるよね?」

「そうですね」

ミケは炎の玉の隣に、丸い水の玉と、土の玉をつくりだし、それらをくるくると風属性の魔法で回し始めた。

「これも、それぞれの属性の魔法を発動してるって思ってるけど、妖精の目から見れば、全部同じ魔力を使った現象に過ぎないわ。ただ、指向性を持っているってだけ」

「すべての魔法は魔力という同じ力で構成されているということですね?」

「そういうこと。魔力そのものが属性を持っているわけじゃないの。だけど、ほとんどの人間は、魔力に属性があると『信じている』から、自分の得意な属性の魔法しか使えないし、威力も自分が出せると『思い込んでいる』魔法しか使えない」

ミケの説明に、サラとトマスは同時にまったく同じ疑問を持った。

「つまり『使えると信じる』ことができれば、誰でも全属性が使えるってこと?」

「誰でもすべての属性の魔法を使えるのですか?」

ミケは、サラに頬ずりをして、「その通り!」と答えた。

しかし、ミケの答えにレベッカが反論する。

「だけど私のお友達のフェイは、人の属性を鑑定する能力を持っているわ。それって、人が扱える属性は固定されているってことじゃないの?」

これにはフェイが登場して説明した。

「レヴィ、それは違うよ」

「どういうこと?」

「魔力を操作できる人間は、生まれてすぐの頃はすべての属性を操作できる能力を持っているんだ。だけど、成長するにしたがって、それぞれの性格や環境に沿って指向性が形作られていくんだよ。たとえばグランチェスター家に生まれれば『自分は火属性や風属性の魔法が使えるはずだ』って認識するから、その属性の魔法を発現する。僕が視るのは、そうやって人の中で固定された『形』なんだ」

レベッカは少しだけ恨みがましい目でフェイを見た。

「フェイ、その説明は、もっと早くに欲しかったわ…。子供の頃に聞いてたら、もっと色々な属性の魔法を練習したのに…」

「聞かれたときにレヴィにちゃんと言ったはずだよ。今は光属性を発現してるけど、練習すれば他の属性も使えるようになるって。そしたらレヴィは『うちにはグランチェスターの血もちょっぴり流れてるから、きっと火属性と風属性も少しくらいは使えるわね』って自分で固定したんだよ」

「そんな……もうちょっと親切な説明が欲しかったわ」

少しレベッカが気の毒になったサラは、フェイに質問した。

「ねぇ、フェイ。その属性っていつ頃固定してしまうの?」

「個人差があるから何とも言えないけど、大人はほとんど固まってるかな」

「固まっちゃったら属性は増やせないの?」

「そんなこともないよ。得意な属性ほど簡単じゃないけど、自分が魔力でその現象を起こせるって信じることができれば使えるはずだ。そうだなぁ…大人になってから楽器を習得したりするのに少し似てるかも。子供の頃ほど簡単にうまくはならないし、発動に時間がかかることも多いけどね」

「だったら、お母様にはこれから長い時間があるのだから、いつかは全部の属性を使えるのではないかしら」

「そうだね。信じることさえできれば可能だろうね」

それを聞いたレベッカは希望に顔を輝かせた。どうやら全属性の魔法を使えるということはとても魅力的であるらしい。だが、練習を開始して早々『具体的な現象をイメージする』という高い壁に阻まれ、習得にかなりの時間が必要になることを、この時のレベッカはまだ知らない。

そして、ミケが再び空中に浮き上がった。

「話を戻すけど、妖精を『視る』ということは、そこに『妖精が居る』ということを認識できるかどうか、つまり信じられるかどうかってことなの。サラやブレイズ、それに乙女たちはレベッカに促されたから、そこに妖精が居るってことを信じることができた。ずっと昔はね、親が自分の子供に妖精を知覚させていたの。だから魔力操作のできる人間は、基本的に妖精を視ることができてたわけ」

「じゃぁ妖精の恵みは?」

「人間と妖精が友愛を結ぶっていうのはね、相手の魔力と繋がるってことなの。友人になった時点で、妖精たちは魔法の発動に人間側の魔力を使うようになる。それは妖精の恵みでも同じなんだけど、必要になる魔力量が多いから、持っている魔力の少ない乙女たちは恵みを受けられなかったの」

ふとトマスが呟くように発言した。

「もしかして、神話や宗教の経典に書かれている人物の寿命が異常に長いのは、妖精の恵みを受けていたからなのか…」

『そういえば前世の聖書に出てくる人物も、やたらと長生きだったような…?』

「それはわからない。けど昔の方が魔力の多い人が多かったかもしれない」

ふとサラは怖い考えが過って、侯爵の方に振り向いた。

「祖父様、とても怖いことに気づきました。王室の方々って凄く魔力量多いですよね? もし、誰かが妖精を知覚できるように誘導したら…」

「皆まで言うな。考えないようにしているのだ」

どうやら同じことを考えていたらしい。

「ところでミケ。あなたたちが視えれば、どんな人間でも妖精の友人を作れるの?」

「そんなわけないじゃない! 魔力の輝きに私たちは惹かれるの。魔力を操作できる人間は、自然に魔力を自分の中に溜め込んで無意識に循環させているのだけど、そうした魔力は感情によって魔力が揺らいだり放出するときにいろいろな輝きを見せるの。輝きは人によって違うけど、サラのはすっごい綺麗なのよ」

するとブレイズの横にいたノアールも割り込んできた。

「確かにサラの魔力はさまざまな色でキラキラとしているな。だが、ブレイズの魔力は眩いほどに強く輝いているのだ」

どうやら友人自慢らしい。なお、フェイはこっそりレベッカの耳元で「レヴィのは透明で透き通っていて綺麗な魔力だよ」と囁いていた。

「つまり、魔力が多いからって簡単に友人になったりはしないってことね?」

「「「その通り!」」」

なお、この様子はポチやセドリックも見ていたが、彼らはそれほど自己主張が強いタイプではないので、ほけらっと眺めているだけであった。妖精の性格もさまざまである。

「でも、この国には他にも妖精の友人を持っている人っているはずだよね?」

「すっごく少ないけどいるよ」

「その人たちは全属性の魔法を使えているのかしら? っていうかそもそもこの話を知ってるの?」

「えー、トマスに聞かれたから説明したけど、そんなこと聞かれなきゃ言わないよぉ。長くて面倒だし。それに妖精の中でもそこそこ長く存在してた子じゃないと、そもそも知らないかも」

サラはいろいろ納得した。ミケも落ち込んでいる侯爵を元気づけようと思わなければ、積極的にこんな話をしなかったのではないだろうか。

「要するに、物凄く貴重な話を聞かせてもらっちゃったわけね」

これにはトマスや乙女たちも同意せざるを得ない。

「非常に興味深いお話ではありましたが、決して他言できませんね」

「私もそう思います」

「妖精と話ができるというだけでも、とても貴重であることを改めて理解しました」

しかし、トマスはふと顔を上げてミケを見つめた。

「ただミケ殿の説明を聞く限り、魔力を持っていれば、少なくとも妖精を視ることはできるようになるということですよね?」

「そうよ。ちゃんと妖精がそこに居るということを知覚できれば」

「問題ありません。ミケ殿がそこにいるのと同じように、ここには妖精がたくさんいると私のレディが仰ったのです。私が疑うはずがありません」

そしてトマスは静かに目を閉じ、土属性の魔法で指先に小さな金属片を作り出す。するとそこに妖精たちが集まり始めた。トマスは妖精の気配を感じて、そっと目を開けた。

「あぁ…私にも視えました。なんと美しい光景なのでしょう」

トマスはうっとりと空中に漂う沢山の妖精たちを見つめた。

そのトマスの様子を見て、侯爵とスコットもそわそわし始めた。これまで遠い存在だと思ってた妖精は、思っていたよりも身近な存在だったのだ。友人にはできないまでも、是非とも視られるようにはなりたいと思うのは当然だろう。

二人は指先に小さな炎を灯し、妖精の気配を感じようと目を閉じた。ブレイズやトマスに比べるとかなり時間はかかったが、ミケが周囲の妖精たちに五月蠅く飛び回るようお願いしてくれたため、なんとか二人も妖精を視ることができるようになった。

しかも、スコットには真っ赤なトカゲの姿をした妖精が近づいてきて友人になってくれた。スコットの魔力は妖精の恵みを受けるには少なすぎたが、それでも友人であることには変わりない。

とはいえ、グランチェスターの血が濃いスコットは乙女たちよりも魔力量が多い。まだ成長期であるため、これから魔法の訓練を頑張れば名付けをして妖精の恵みを受けられるくらい魔力量を増やせるかもしれないとミケが教えたため、スコットは俄然張り切った。おそらく今後は、魔法の訓練に本腰を入れることになるだろう。属性も増えるかもしれない。

こうして近年のアヴァロンでは類を見ない程、グランチェスター領には妖精の友人と妖精を視ることができる人々が誕生したのだが、もちろん対外的には秘密である。