軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そこだけ思春期のまま

信じられないことに、ロバートは執務で草臥れた姿のまま、メイドが持ってくる花だけを携えてレベッカのところに行こうとした。サラは慌てて身支度をするよう指示を出し、ロバートの侍従が頷きながら主を引っ張るように自室に戻っていった。

部屋に戻ったロバートの代わりに、サラはさっそくプロポーズの段取りを開始した。放っておくと、ロバートは訓練場のど真ん中で愛を叫びかねない。周りは面白いだろうが、おそらくレベッカが居たたまれないだろうとサラは配慮したのだ。

メイドたちに庭の東屋にそれっぽい雰囲気を用意するように伝えると、バタバタと沢山の使用人たちが動き始める。よく見れば家令、侍女長、メイド長までが準備のために、勢揃いしているではないか。

『みんな待ってたのね…』

サラの様子を見ていた侯爵も近くにいた侍従に耳打ちをし、亡くなった妻の形見であるサファイアの指輪を急いで持ってこさせた。それは侯爵が、まだ婚約者であった妻に初めて贈った指輪であった。侯爵の瞳と同じ色の石を一粒嵌めたシンプルなデザインで、顔立ちは母親似だが瞳だけは父親に似たロバートの瞳とも同じ色である。

ちなみにサラとアーサーも同じ瞳の色をしており、グランチェスター家の人間には多い色でもある。不思議なことに生まれてすぐはくすんだグレーで、しばらくするとどんどん瞳の色が蒼くなっていくのだ。

侯爵は指輪の入ったケースを開け、傷などの有無を確認した後に家令に託した。

「あのヘタレに持たせろ。どうせ何も用意しておるまい。花だけでは恰好がつかん」

そこにバタバタと執事見習いの少年が走ってきた。

「大変です。ロバート卿が花束を持って魔法の訓練場に向かっています」

サラが予想した通りだった。慌ててロバートを止めるよう指示をだす。

「ジェフリー卿、本当に伯父様は女性との浮ついた行動をされてきたのでしょうか…。女性ウケする雰囲気とか考えないんでしょうかね?」

「多分レヴィのことになるとバカになるんじゃねーかな」

「……30歳にもなって?」

「レヴィの前では思春期のままだな」

サラは頭を抱えた。ほんの少しだけでもいいので、女性慣れしている部分を出してほしかった。

『そういうのが可愛いのは若いうちだけなんだよ!』

「ひとまず私は訓練場に向かいます。何も知らない顔をしておきますので、用意が出来たら誰かを寄こしてください」

「ミケ! 妖精たちにもレベッカ先生に何も言わないよう止めて頂戴」

「了解よ~」

空中から、にゅっと猫の手だけがフリフリ出てきた。

サラが訓練場に入ると、スコットが炎の弾を的に当てていた。ブレイズは両手の間に小さい炎を出す訓練をしている。

「遅くなりました」

「大丈夫よ。遅れてはいないわ」

「僕たちは自主訓練してただけだから」

訓練を中断して兄弟はサラのもとに駆け寄ってきた。

「二人とも火属性の訓練?」

「そう。僕は炎を素早く正確に的に当てる訓練で、ブレイズは炎を一定の大きさでキープする訓練だ」

「どっちも魔力制御が重要なのね?」

「そういうこと」

サラはレベッカに外のバタバタした様子を悟られないよう、積極的に話しかけることにした。

「レベッカ先生、二人の制御はどんな感じですか?」

「そうねぇ…、スコットは的に当てる訓練よりも、もう少し発動できる時間を短くする訓練をした方がいいかも。構えてから炎が出るまでに時間が掛かり過ぎてるわ」

「そんなに遅いですか? 仲間内では速い方なのですが」

スコットがレベッカに反論したため、レベッカは的に向かって手を翳し、炎の弾を素早くぶつけた。スコットの発動時間の半分以下である。

「このくらいまでは短くして欲しいかも」

「うっ…。わかりました。努力します」

そこにトマスもやってきた。

「さすがレベッカ先生ですね。アカデミーでもレベッカ先生のことはたびたび話題になっていたんです。実際に見られるとは実に光栄だ」

「どんな風に話題になってたかが気になりますね」

「聖女のように治癒魔法を使い、魔女のように攻撃魔法を使う、と。女性であるが故にアカデミーにはいらっしゃらないが、是非とも教えを請いたいというヤツが多かったですよ?」

しかし、サラはそんな男子学生の言葉をそのまま真に受けたりはしない。

「その人たちのどれくらいが実際にレベッカ先生の魔法をご覧になっているのでしょうね。教えを請いたい理由って、魔法よりもレベッカ先生に会いたいだけなのでは?」

「はは。サラさんは手厳しいですね。仰る通り、シーズン中にレベッカ先生の麗しい姿を目撃したヤツばかりだったかもしれません」

「トマス先生は憧れなかったのですか?」

「もちろん憧れましたよ。ただ僕の場合、実は姉がレベッカ先生と同じ年なんで、子供の頃にもレベッカ先生にお会いしているんです。そのせいで憧れはするのですが、年上の淑女というイメージが離れなくて」

「なるほど」

レベッカは深くため息を吐いた。

「なんというか…すごく歳をとった気分になりますね」

「す、すみません。そんなつもりではないのですが」

「ふふっ。大丈夫です慣れてますから」

さすがにレベッカも苦笑を浮かべずにはいられない。確かに身体は若いままだが、レベッカは既に27歳であり、子供の一人や二人いてもおかしくない年齢である。そういえば、サラの母であるアデリアは、レベッカと1歳しか違わなかったはずだ。

「要するにレベッカ先生は、アカデミーに通う学生たちの心を鷲掴みにしているってことですね?」

「そうなりますね。まぁ10年以上前からレベッカ先生は憧れの対象ですので、『誰もが一度は通る道』的な扱いを受けてますよ」

「それは光栄というべきなのでしょうかね」

「高嶺の花であり続けていらっしゃいますからね」

『ヤバいよ伯父様。10年以上前からそんなだったら、中には絶対本気だって人いるよ!』

そこにやっと、メイドがレベッカを呼びにきた。

「今は授業中なのですが…」と、レベッカは断ろうとしたが、

「執務のことかもしれません。私はトマス先生と訓練を続けておきますので、どうぞレベッカ先生はご用事を済ませていらしてください」

サラの言葉にトマスも頷いたため、レベッカはメイドに続いて部屋を後にした。

『よっしゃ! あとは伯父様次第だ。がんばれ、超がんばれ』

サラはひたすらロバートの成功を祈った。